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「そうか、穂積くんに友達がね」



 今日は定期検診の日だったから、特に処置することはない。ということでわたしはTシャツを着たまま、簡易ベッドに腰掛けている。



「名前で呼ぶようになったそうです」

「いい傾向だね。やはり彼に音楽をやらせたのは間違いじゃなかった」

「でも先生、少しだけ気になるんですけど、穂積まだちょっと臆病になってる気がするんです」

「臆病?」

「聞いてみたんです、楽しかったか」

「うん、そうしたら?」

「何も、言わなかったんです」



 穂積は『まぁね』と言ってすぐに話題をすり替えた。それが意図するところは、おそらく、本当は楽しいけれど認めるのが怖い、と言ったところだろう。



「わからなくもないね。7年前の彼は相当なショックを受けていたから、再び何かを失ってしまうくらいなら大事なものは作らないほうがいいと思っているかもしれない」

「……どうしたら、穂積を救えますか?」

「そうだね。時間がかかるかもしれないけれど、きっとそれは穂積くんが自分で乗り越えることだ。セナがやることじゃないんだろう」

「……」



 わたしがやることじゃない。じゃあわたしは何をすればいいんだろう。



「セナ。もうおやすみ」

「はい、おやすみなさい」



 挨拶をして処置室を出る。暗い病院の廊下を歩く。歩きながら考える。

 穂積が問いかけてきたあの問い。



『お前はずっと僕の傍にいるよな?』

「……」



 ぎゅっと自分のことを抱きしめる。

 いたいよ。
 ずっとずっと、傍にいたいよ。

 でも、もしかしたら——それは、神様がゆるしてくれないかもしれない。
 




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