「なぁ、お前気にならんの?」

「……え、何がですか」

「ありゃまた敬語に戻っちった。タメ口でいいって」

「……うん」

「で、気にならんの?」

「……」


 気になることならある。結局一緒に出発して電車に揺られて15分。一緒の改札から出て、歩いて5分。おかしい。ここまで行き先がかぶることがあるか? いやないだろ普通。


「……なんで方向一緒なの」

「さー、なんででしょう?」


 しぶしぶ質問した僕に、香山くんは、楽しそうにニヤリと笑ってはぐらかす返事をした。いやそうなると思ったから言わなかったんだけど。

 病院に用事?

 でもさっきの古谷くんの言葉、否定しなかったからな。女、女か……。

 そこまで考えてハッとする。

 まさかセナのことが好き、とか? ここまで僕に着いて来たのもセナに会うために?

 悶々と考える僕の表情が面白かったのか「ぶはっ」と吹き出した香山くんは満足げに「別にお前のストーカーでも、桜庭のストーカーでも何でもないから安心しな」と言った。

 まるで思考を読まれていたみたいなタイミングだったから、思わず「セナは関係ないだろ」と言ってしまった。



「ああそう、じゃあ俺これから桜庭狙っちゃおうかな」

「……勝手にすれば」

「ぶっ……くくく、何その顔、なぁ、お前自分で一回確認した方がいいぜ」



 やっぱり香山くんのことはよくわからない。苦手だ。

 そうこう言っている間に病院に到着した。当たり前に関係者入り口に向かおうとしたけれど、香山くんがいるんだったと思って正面入り口を一緒にくぐった。



「……あれ? 穂積くんじゃない、おかえりなさい」

「ただいま、はるみさん」

「何でそんなところから? あっ、お友達?」



 僕の後ろから入ってきた香山くんを見つけたはるみさんは勝手に僕が友達を連れてきたんだと思ったらしく、「先生に報告しなくちゃ!」と妙に張り切ってしまった。訂正するのも面倒くさくてそのまま放置する。



「で、香山くんはどこに用事なの」



 目を丸くして僕とはるみさんのやりとりを見ていた香山くんにそう尋ねれば、ハッとしたように目を瞬いてこっちを見る。純粋に不思議そうにこちらを見ているものだから「何?」と聞いてしまった。



「いや、お前ってほんとにこの病院に住んでんだなーと思って」

「まぁ、そんなとこ」

「……」

「で、香山くんはどちらに?」

「俺は、こっち」



 向かった先は見舞い受付。名前を書いている背中に、ああそうか、とようやく合点がいった。