「古谷くん、どこ向かってるんですか」
「お? ああ、句楽は初めてだったっけ、俺らがいつも昼飯買ってるコンビニがあんのよ、そこで香山と待ち合わせしてるから」
いつも乗るバス停を通り過ぎて、まだ歩く。こっちは駅の方面だ。確か3人とも電車で通ってきているから、駅との間にあるコンビニなのかもしれない。
それにしても暑い。松村くんのアフロなんて湯気が出てる。
話題を探していた時、僕らの隣を同じ学校の制服に身を包んだカップルが通り過ぎる。二人が十分に離れたのを見て、古谷くんが唐突に言った。
「あー彼女ほしー」
「いないんですか?」
「いねーよ」
驚いた。古谷くんのことだ、お付き合いしている人くらいいそうだと思ったのに。
「お前はいーよなぁ、セナちゃんがいるもんなぁ」
「セナとは、そういうんじゃないですけど」
「わっかんねーだろ! 幼馴染から恋に発展するなんて漫画の中じゃオハコじゃねーか!」
「幼馴染、ってわけでもなくて」
「は? じゃあ何関係なわけ」
僕とセナ。患者と薬。人間とAI。
……これは何関係というんだろう。
「……主従関係?」
ぽろっと出てきた言葉に古谷くんはアワアワしながら真っ赤になった。なんで?
「ば、ばっかお前、そういう破廉恥なことは昼間から言ったらダメなんだぞ!」
「は?」
「ち、ちなみに、主はどっちだ? さ、桜庭か?」
無言で頭をはたいてやった。セナで変な想像をするんじゃない。
「松村くんはいないんですか?」
「えっ、僕? 僕は……えっと現実にはいない、かな」
「え?」
「なんちゃって」
松村くん流のギャグだったらしい。人にはいろんな笑いの取り方があるもんだ。
「本当はね、ずっと好きな人がいるよ」
「え!? マジかお前早く言えよ!」
「……こうなるから言いたくなかったんだよ……」
「誰だよ!?」
「言わないよ……だって古谷くん人間スピーカーじゃんか……」
古谷くんと松村くんとそんな他愛のない話をしながら、歩いて歩いて歩いて、ようやくコンビニに辿り着いた。
入店音と共に中に入る。
「くー涼しー!」
「そうだね……生き返る……」
今だけはそのリアクションに賛同だ。コンビニの中はちょうどよく冷房が効いていて、まるで天国だった。ちらりと腕時計を見ればたった10分しか歩いていなかった。ちなみに体感は30分だ。
「昼飯選んで待ってよーぜ」
古谷くんの言葉で僕らはそれぞれおにぎりやらパンやら、お菓子やらを選ぶ。このまま電車で松村くんの家まで行って、そこで食べるとのこと。
「あっ、香山来た」
「おっせーぞ香山ぁ」
「悪い、原先生が捕まんなくて」
「俺たちもう昼飯選んだから、あとは香山な」
「ほーい」
香山くんはすぐにおにぎりとパンを選んで、そのままお菓子コーナーに移動する。
「あ、お菓子ならもう古谷くんがたくさん選んでたよ」
松村くんが香山くんにそう声をかけたけれど「んー、これ別件だから大丈夫」とそのまま向かって行った。
正直、香山くんのことはよくわからない。古谷くんほど自分を見せてくれないし、松村くんほど趣味のあることを教えてくれるわけでもない。ちょうど中間に位置する感じ。
まぁ、だからこそ3人でいるのがちょうどいいんだろうけれど。