「ホヅミ、頭痛治ってよかったね」
「うん」
バスに揺られる僕の隣に当たり前のように腰掛けて、そんなふうに話しかけてくるのはもちろんセナだ。7年も経過したというのに、僕はいまだに他の人とコミュニケーションをとることが苦手で、相槌くらいしかうてないから、そもそもほとんど話しかけられることはない。
「これ以上休んだらまずいんだもんね」
「そうだね」
それでもここまでやってこれたのは、今僕の隣に座っているAIのおかげだ。
セナはあの日からずっと、自分の定期検診の日以外は本当に僕の傍を離れたことがない。僕の体調がセナのおかげで安定してきて小学校に復帰した時から、ずっと同じクラスメイトとして僕の傍に居続けている。
僕が体調不良で学校を休む時は彼女も休み(もちろん行く必要がないからだ)、あまりにも休みが重なるので、中学校の時に二人は付き合っていてズル休みして遊びに行っているんだという噂が流れた。
そのときはどうしようかと思った。僕の事情は話せても、セナについてはトップシークレット。ようやく人工知能という言葉が馴染んできて、一般の人も触れるようになってきたばかりだというのに、セナがAIロボットだなんてことがバレたら尋常じゃない騒ぎになるのは目に見えている。
実際はちっぽけな僕がそんな心配をするまでもなく、僕らが同じ日に休みがちになるのも小児科が一斉に定期検診をやっているからだということで学校には話が通っていたらしい。
生徒たちも噂がで始めた時は盛り上がったものの、「句楽と桜庭が付き合ってるってマジ?」「えーふたりとも別にそう言う雰囲気じゃなくない?」という会話がそこかしこでなされるようになり、決定打としてセナが「付き合ってないよ」と明言したことで、変な噂もそのうち消えてしまった。
まぁ、それくらい、僕とセナはお似合いじゃないということだろう。
だってほら、セナは可愛いし。僕なんか人と満足に話もできないひょろひょろのインキャだし。
「? ホヅミ?」
セナは初めて会った時からほとんど変わらない。当たり前だ、彼女はAIなのだから。
不審に思われないように身長は1年ごとに少しだけ変えていて(どうやるのか聞いたら脚のパーツの長さを変えると言っていた)、それでもここ2年ほどはもう伸ばしていないらしい。