「それではごちそうさまでした」
「いいってことよ。困ったことがあったらまた聞いてくれや。適正年齢になったらバイトしてくれる条件でな」
「ふふ、お断りしておきますわ」
「しゃあねえな」
「気をつけなよ」
「この辺は物騒だからな、着いていってやろうか」
三本目のタバコに火をつけながらニヤリと笑う彼に挨拶をしてその場を離れるわたくしと涼太。ヒロが力こぶを作って笑うのをやんわりお断りしておきました。
ヤスとヒロに手を振りながら踵を返して歩き出すと、しばらくしてから涼太が質問を投げかけてきました。
「次は? 里中先輩、もう見失ったし帰る?」
「そうですわね……。この辺を少し見てから大通りでショッピングをしましょうか」
「狙われているのに呑気なんだから……」
微笑むわたくしに呆れた顔をする涼太。
しかし、今、彼女が見つからなくても問題はありません。最後のカードはわたくしが手に入れた。それを使うには――
「ん? ……姉ちゃん!?」
「あれは……!」
わたくし達の前にバイクという乗り物が突っ込んできているのが見えました。記憶違いでなければあの交差点で突き飛ばされた時のものでは?
人通りの少ないこの場で誘拐犯の襲撃くらいはあるかと思っておりましたけど、こんな昼間から直接来るとは。
「……」
「なんか物騒なものを持っている!? 姉ちゃん、こっち!」
「狙いは……まあ、わたくしでしょうね。まさか突き飛ばした者とグルだったとは思いませんでしたが。ここは魔法で――」
そう思い、手をかざす。
しかし、急激にスピードを上げたバイクはわたくしの発動よりも速く持っていた長い武器を振りかぶってきた。
「あ、あれってバール!?」
「速いですわね! <クレイニードル>!」
「……!」
涼太が路地の間に逃げたの確認したわたくしは、バールのようなものを身を低くして回避する。
そして屈んだまますぐにすれ違ったバイクの方を向くと、土魔法のクレイニードルを放つ。目の前に浮かぶ四本の土で出来たが針がわたくしの指の音共にバイクへ疾走した。
「避けた……! バックミラーか!」
「引っ込んでいなさい涼太! 来ますわよ!」
バイクがするりとクレイニードルを回避した後、すぐにこちらへ反転して突っ込んできました。
今度は直接ぶつけてくるような気配を醸し出していますわね。そうであればこちらも容赦はしません。
「……!!」
「姉ちゃん!」
「やりますわね。しかし! <ウインドボム>!」
轢くと見せかけてバールのようなものを投げつけてきました。それを回避したところを撥ねるつもりなのでしょう。
ですがわたくしは飛んできた物をウインドボムで押し返す。さすがにこれは読めなかったようで、頭に跳ね返ってきたバールのようなものを首を逸らして避けた。
「……その隙が命取りですわ! <ドラゴンフォース>!」
「姉ちゃん!?」
「なっ!?」
身体強化。その中でも全身の防御効果を上げる魔法ですわ。
わたくしはそれを使用してから勢いよくバイクへと突撃しました。
瞬間、轟音が周囲に響き渡り――
「ぐあああああ!?」
――バイクの……叫び声からするに男が地面を転がった。
「フッ、成敗しましたわ」
「すげえ……!」
「感動している場合じゃありませんわ。確保をしませんと」
「あ、ああ、そうだね!」
早速、涼太と二人で倒れた男を確保しに向かう。すると、頭を振っていた男が慌てて立ち上がり、わたくしに殴りかかってきました。
「らぁぁぁ! ……ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」
「ドラゴンフォースはしばらく発動したままですから当然の結果ですわ。フッ! はあ!!!」
「おが!?」
「ローキックからのレバーブローがキレイに入った……!」
涼太が拳を握りながら歓喜の声を上げる。
ふむ、これは莉愛さんのところで鍛える必要がありそうですわね? 女の子一人守れずして男とは呼べませんからね。
それはともかく、わたくしはバイクの男の腹に足を置いて拘束して声をかけます。
「さて、その被り物を取っていただきましょうか」
「ぐっ……」
「ヘルメットだよ姉ちゃん。あ、ヒロさんとヤスさんだ」
その時、先程別れた二人が駆けてくるのが見えました。息を切らせて到着した二人が足元の人物を見て口を開く。
「すげえ音がしたからこっちに来たんだが……」
「こいつは?」
「わたくし達を強襲してきた男ですわ。話を聞こうと思っています」
「黒幕の一味って感じか……? 警察に連絡しておいた方がいいんじゃないかい」
ヒロにそう言われて確かにとスマホを取り出して若杉警部へ連絡を取ることに。
「はい。怪しげな人物を捕らえました。尋問したいのですが、来ていただけますか? ええ、少し考えていることもありますので――」
そしてそのまま監視してくれるということで、お二人が到着まで待っていてくれることになりました。仲間が他に居た場合を考えてのことらしいですわね。
さて、この男が何者なのか聞かせてもらいましょうか。案外、捨て駒という線も捨てきれませんがね?
◆ ◇ ◆
「な、なんなのよアイツ……!? 土を飛ばした? それにあの格闘技。あんなこと出来たの!? ……そうか佐藤の家は道場だったっけ……?」
一部始終を見ていた人影が驚愕の声を上げてその場を走り去る。
「まさかあんなに簡単に捕まるなんてね。でも、まだチャンスはある――」