「そうか、なるほどね、ふむふむ……」
「カイルさんどうしたんですか? そんなににやけて」
「どうせ姉ちゃんのおっぱいを見てにやけてるんだぜ?」
「そうそう、あれはエリザに匹敵……って何言わせるんだ!」
「えー……やっぱり男の人ってそうなんですね……」
フルーレがカイルに向かって汚物を見る目を向けてくるが、ふとあることに気づきカイルへ尋ねる。
「エリザ……って今,
言いました? それってカイルさんの部隊長のエリザ大佐ですか?」
「そうだよ。いつも怒鳴られてばっかりだけど、いい隊長だよ。この『遺跡』に出向く時、激励でおっぱい揉ませてくれたからな!」
「最低!?」
「マジ!? 隊の鞍替えってできるんですかねブロウエル大佐!」
カイルが勝手に揉んだだけなのだが、ドグルが食いつき、あろうことかブロウエルに問いかけていた。ブロウエルはガツンと拳骨をくらわし、ドグルへ告げる。
「できんわ馬鹿者。上層部が個々の能力を診断して振り分けるからな。お前が軽装兵として優秀なら推薦してやってもいいが」
「ふうん……ならこいつはどうして第五大隊なんですかね? どう考えても戦闘向けじゃない感じがしますけど」
「それは上層部に聞いてくれ。それよりもカイル少尉、何か気づいたようだったが?」
ブロウエルはこの話は終わりだと言わんばかりに、ぶつ切りにしてカイルへと声をかける。当のカイルはフルーレに詰め寄られていた。
「エリザ……大佐はほら、人がいいから呼び捨てでもいいんだって。ほら、また後でな。こほん。で、俺が気づいたこと、ですね? マップを作っていたんですけど、ほら、なんかおかしくありません?」
そこでずっと黙って聞いていたオートスがマップをのぞき込み口を開いた。
「……向かって東側に道が寄っているな。地下一階も二階も、ずれはあるが東に通路が多い」
「お、流石は隊長。その通りです。恐らくですけど、本命は向かって西側に何かあると見ていいでしょう。これ自体がフェイク、ということもありますけどね。とりあえずこの階を調べてみましょう」
カイルの言葉で全員が頷き、探索を再開する。しかし、地下四階に下へ続く階段もなければ隠し部屋もなかった。やがて陽が暮れる時間になり一行はまたキャンプを作る。
「はい。食事ですよ」
「やったー! 腹減ってたんだよなー昨日から何も食ってないし!」
「……ありがと、ございます」
フルーレがチカの手錠をビットと片方ずつの足に繋ぎ、逃げられないようにしてレーションを渡す。ビットはすごい勢いで食べ始め、チカはもそもそと口に運んでいた。
「き、昨日からって朝も食べていないの?」
「……ええ。お腹をいっぱいにして緊張するとお腹を壊すことがあるから……」
ダムネの質問に即座に答えるチカ。口答えするとひどい目にあわされると思っているようで、時折、体を震わせていた。
「どうしてこんなことをしているんだ? スパイなんてこうやって見つかったらどうなるかくらいわかるだろうに」
「仕方がないじゃない……こうするしかなかったんだから……」
「こうするしかなかった? それって――」
「フルーレ少尉、そこまでだ。情が移っては困る。事情聴取はやめてもらおう」
「でも……」
「口答えは許さない。どうしてもというなら、戻ったら俺とデートでもしてもらおうか」
「そんなこと……!」
「やめとけフルーレちゃん、隊長の言う通りだ。帝国に戻ったらこの二人がどうなるかは分からない。俺達は色々聞かない方がいい」
カイルがもぐもぐと租借しながらあっさり言い放ちフルーレはドキッとして口をつぐむ。
「はい……」
「私たちがドジだったんだ、お姉さんが気にすることはないわ」
「そうだ、フルーレちゃん。チカちゃんの身体検査、しておいてくれ。多分、銃くらいは持っているだろ」
「……わかりました。食事のあとで行います」
「……」
チカは覚悟を決めた目でフルーレに笑いかけ、食事を口にする。
フルーレの身体検査でチカのジャケットの内ポケットからウィスティリア国製のハンドガンが出てきてそれを回収。
翌日、本当に抵抗する気はなくなったのか、チカは黙ってついてくる。対してビットは子供らしくぺらぺらと口を開いていた。
「シュナイダーの背中に乗せて欲しいのに何か載ってるなあ。あれ、なんなの?」
「秘密だ。まあロクなもんじゃないし、開けることは無いと思うけどな。お前は捕まったんだから黙って歩けー」
「ちぇ、ケチ。ってまた行き止まりじゃん!」
「だなあ。そろそろ当たりがありそうな……お?」
地下四階には何もないと判断し、地下三階に戻って再度西側のチェックをするカイル達。出発から三時間経った今、進展が見られた。
目線より少し下、中腰になる高さでカイルはまた、ほんの少しだけ色の違う壁を見つけた。そこをノックすると、カイルは確信したようにカバンを漁りだした。
「な、何かわかったんですか?」
「ああ、ここだな。少し色の違う壁がある。恐らく、ここは後から埋めた壁に違いない。ちょっと下がってくれ」
カイルは小さな箱を取り出し、ネズミ魔獣に使った粘着テープを使って箱を壁に貼り付けると、箱の中に木でできた筒から黒い粉を入れて紐のようなものを差し込みするすると離れていく。
ドグルはごくりと喉を鳴らし、カイルに言う。
「おま……あれまさか……」
「お、分かるか? まあ、ドグル大尉はよく銃をいじっているからそうか。あれはガンパウダーだ」
「やっぱり!? 地下で爆破すんのかよ! 生き埋めになるぞ!?」
「ああ、火薬の量は調整してあるから大丈夫だ。みんな、耳を塞いでいてくれ【小さき火花】……と」
フルーレはカイルが呟いて火を熾したことに驚愕した。廃れつつある魔法を使ったからだ。他のメンバーは気づいておらず、胸中でフルーレは考える。
「(魔法まで使うんですか……!? この人、本当に何者なんでしょう……。『遺跡』調査に抜擢されたとき、カイルさんの名前があったのを見てわたしの部隊の人も『エリザ大佐も人を見る目がない』って言ってましたけどとんでもないですよ……カイルさん……)」
導火線に火が付き、小気味よい音と共に火が走る。
木箱に着火したその瞬間、ガゴンという音ともに壁に穴が開いた。カイルはすぐに壁へ近づき、穴が開いたことに歓喜する。
それと、同時に肩を竦めた。
「丈夫な『遺跡』だ、一気に壊せば良かったのではないか?」
オートスが煙を払いながらカイルの背に声をかけるが、カイルは穴を見ながら手招きをしてオートスを呼び、首を傾げながら案内されるように穴をのぞき込む。
「……!? これは……」
「こういうことがあるから一気には壊さなかったんですよ。ここからが本番みたいですね」
穴の向こうは淀んだ嫌な空気が流れ、ギン! と、無数の赤い瞳がこちら見ていたのだった。