湿地帯に降り立って探索をするがスライムらしき影が無い、ということともう一つ違和感があった。
 それは湿地帯なのにあまり湿地っぽくなく、むしろ干上がっているような感じもある。

「この前、雨が降ったのにこれはおかしいんじゃないか……?」
<そうだな、しかし確かにここはもっと沼地に近いような感じだった。息子もここで泥遊びをするのが好きだったのだが>
<きゅーん……>
「あらら、がっかりしているわね、よしよし」
<わん♪>

 サリアに抱っこされて少し機嫌が治ったアロンはさておき、スライムは水気がないと乾いて消えてしまうからそれでいないのかもしれんとダイトが言う。
 雨が降ってもこうなっているということは土地の性質が変わってしまったのか?
 他にもレッドスライムが居る場所はあるらしいし、また探すか……

<わんわん>
「あら、どうしたのアロンちゃん?」

 一応探索しておくかとウロウロしていると、なにかに気づいたアロンがサリアの腕から飛び出して草むらの中へ走っていく。
 俺達が追いかけていくと、アロンが立ち止まって吠えまくっていた。なんかあるのか……?
 草むらをかき分けるとそこには半ば干からびた赤いスライムが倒れて(?)いた。

「今にも消えそう……」
「おお、折角見つけたレッドスライムが!? 水筒の水をかけたら治るか……!」

 アロンがつついているレッドスライムに水をぶっかけてやると――

「お、艶が戻って来た!」
<どうやら復帰できたらしいな。仲間はどうした?>
<わふーん?>

 ダイトはスライム語も分かるのか、優秀だなと思っているとレッドスライムがプルプルと体を震わせたり飛び跳ねるなどしてなにかを訴えて始めた。

「ダイト、なんだって?」
<うむ、さっぱりわからん>
「なんだよ!? 言葉がわかるから尋ねたんじゃねえのか!」
<いや、言葉は通じるのだが喋らないから意思の疎通は一方通行なのだ>

 期待したのに酷い肩透かしだ……しかし、こっちの言葉が分かるのならまだやりようはあるか?

「すまん、お前のしぼり汁をもらうためにここまで来たんだ。少し分けてもらえないだろうか?」
「お願いします」

 俺とサリアがしゃがみ込んでそういうとレッドスライムがにゅっと伸びて頭を下げるようなしぐさをしたので恐らくOKっぽい。しかしその後きゅっと体の向きを変えて飛び跳ね――

「あ、どこ行くの!」
「ついてこいってか? 行ってみるか……」
<わふわふ!>

 遊べると思ったのかアロンが駆け出し俺達も後を追う。遠巻きにトカゲっぽい魔物が見えるがダイトに恐れをなして近づくことは無いので余裕である。

 そしてレッドスライムが飛び跳ねまくっているところを見るとそこには川の出口があった。
 本来、ここから水が出てくるはずがちょろちょろと少し流れ出る程度だった。湿地帯が干上がったのはこれが原因だと訴えているみたいだな。

「ゴミが詰まっているわけでもないし、上流でなんかあったなこりゃ。ダイト、確かめに連れて行ってくれるか? このままにしておいたら色々問題もありそうだ」
<よし、行ってみるか>

 ダイトの背中に乗って川の上流へ登っていく。
 細々と水がずっと流れているが、このまま進めば山に入るかと思っていると川の上にでかい岩が導線を塞いでいるのを発見した。
 近くの崖からここまで転がっている痕があったからもしかするとこの前の大雨でがけ崩れでもあったのかもしれない。

「こいつのせいか、にしてもでかいなあ」
「こんなのがあったら流れないわね……」

 レッドスライムがそうだ! と言いたげにびょこぴょこ飛び跳ねて憤慨している様子がなんとなくわかる。
 さて、後はこれをぶっ壊すだけだがいけるかな?

<ヒサトラ我が――>
「ちょっと下がってろみんな。でりゃぁぁぁぁ!!」

 前にオリハルコンをぶち割ったことがあるので岩ならいけるだろうという算段でバットを振るう。
 もちろん大岩は一撃で粉々になり、はまり込んでいる岩を細かく砕いたらドバっと水が流れ始めた。
 これにレッドスライムは大喜びで飛び跳ね、アロンと一緒にぐるぐる回る。

「良かったわね! それにしてもこれを一撃で砕くなんて……ヒサトラさん凄い……」
<わんわん!>
「まあ、なんかルアンのミスで魔力量とかおかしいらしいから身体能力も変なのかもしれないな。魔法は使えないけど……ってどうしたダイト?」
<いや、なんでもない……強くなったなヒサトラ>
「なんで父親目線なんだよ」

 俺が苦笑していると、レッドスライムが早く戻ろうと言いたげににゅっと体を伸ばして主張してきたのでとりあえずダイトに乗って川の流れを追って下っていくと俺達の降り立った湿地帯が少しずつ水が広がっていくのが見えた。土地自体が結構広いので水の浅い田んぼみたいな感じだな。

「嬉しそう。スライムって怖いって聞いてましたけど動きが可愛いわね」
「だな。お……?」

 湿地帯が水に満たされていくとぽこぽこと赤いものが浮いてくる。どうやら干上がっていたレッドスライムの仲間が復活したようだ。
 見つからなかったのは干からびて地面と同化していたからみたいで、アロンがたまたま見つけた奴はまだ原型が少し残っていたからのようだ。
 大喜びのレッドスライムは仲間意識が強いようで体を伸ばし何度も俺に頭(?)を下げていた。

「気にすんな、レッドスライムのしぼり汁を取りに来たから俺のためでもあるしな」
「でもどうやって採るのかしら?」

 サリアがレッドスライムを指でつつきながらそういうと、スライムが体を上手く使って俺の持っていた水筒をひったくると器用に蓋を開けた。

「あ!?」

 次の瞬間、レッドスライムが高く飛び上がり自らの身体を思いっきり捻った! スプリン〇マンみたいになった体から赤い汁が出てきて水筒に入っていく。

「なるほど、捩じれば出てくるのか……あ、おい無理すんな」

 レッドスライムは地面にぽてっと落ちた後、水分が抜けて半分干からびた体でよろよろ飛び、また捩じろうとしたのを慌てて止める。

「水に入れて戻してあげましょう」

 増えるわかめみたいな理論だが水につけると戻るのであながち間違っていない。
 そこからレッドスライムは数匹呼び寄せてくれ、みんなで体を捩じって水を出してくれた。やがて水筒がいっぱいになったところで終わりとなる。

「かなり溜まったな、ありがとよ」

 干からびたまま体を伸ばして親指の形を作るレッドスライムは結構賢いのかもしれない。
 その間、他のレッドスライムと泥遊びをしていたアロンを呼び戻し、洗ってからトラックへ戻る。
 
 すると――

「あれ? レッドスライムが乗って来たわ」
「お、どうしたんだお前? ……ついてくるつもりか?」

 ――ダッシュボードの上に飛び乗って来たレッドスライムに声をかけると小さく飛び跳ねたのでどうやらそうらしい。

<水を与えておけば生きていけるからいいのではないか?>
「まあ、小さいし可愛いけど……」
「よろしくね♪ 名前つけてあげないとレッドスライムは呼びにくいかな?」
「帰ったら考えるか。とりあえず王都へ戻るぞ」

 なんか居候が増えたが、実はコンテナに別のレッドスライムが数匹くっついていたのを知るのは王都へ戻ってからのことだったりする――