「おいダイト、ありゃあもしかして……」
<うむ、デッドリーベアの親子だ。しかもメスだ運がいいな>
<うぉふ!>

 茂みから顔を覗かせた二頭は確かに親子のようで、よく見ると一頭は顔が丸く小さい。
 俺達の弁当を物欲しそうに見ているので、卵焼きをチラつかせると子熊の方が身を乗り出してきた。

「くおん!」
<わんわん!!>
「くおん!?」
「こら、アロン威嚇するな。お前だけの弁当じゃねえんだし。ダイト、こっちに来るよう言ってくれるか?」
<承知した>

 ダイトがなにやらぺらぺらと親熊に話しかけると、子熊を抱えてのそりと出てくる。
 でけえ……立ったら3メートルくらいある巨体を揺らし、ダイトの近くへどすんと座り込んだ。

「ほら、これで足りるかわからんが食っていいぞ」
「くおおおおん♪」
<わおーん……>
 
 卵焼きを両手で掴んで食べる姿が可愛い。
 ダイトは自分の分が減ったと尻尾を垂らしていたが、お前はまた食えるだろ。んで、親熊と一緒におにぎりと玉子焼きをもうワンセット食べさせてやった。

「美味しいですねーアロンちゃん、クマちゃん」
<きゅーん♪>
「くおん♪」

 サリアに餌付けされながらみんなでしばらく飯を食っていた。やがて食べ終わり、ようやく本題に入れるとダイトに蜜の件を問うてもらう。

「ぐるう」
<……今年はあまり集められてないから少しで良ければ、と言っている>
「マジか。忍びねえが……こっちも命がかかってるからな。アレと交換でいいか聞いてもらおう」

 そう言って俺はコンテナに乗り込み、キングサーモンを二匹担いで目の前に置く。

「がぉぉぉおん!!」
「くぉぉぉぉん!!」
「うわ!? びっくりした!?」
「喜んでいるみたいね、万歳してるみたいで可愛い」

 二頭はキングサーモンを見るなり立ち上がって両腕を掲げて吠えた。目が輝いていたのでダイトに聞いてみるとご馳走がきたって感じでご機嫌らしい。

「それじゃ交換してくれるのか?」
「がる」
 
 いいらしい。
 すると子熊を置いて親熊がどこかへ去っていく。取りに行ってくれたのだろうか?

<わふ!>
「くおんくおん!」
「じゃれあってる、可愛いなあ……」

 サリアが子供二頭がじゃれ合っているのを見て癒され、そのサリアを見て俺が癒されるという正のスパイラルがこの場を包み、ほんわかした雰囲気が漂う。
 子熊は結構好きなので撫でたいが、懐いてしまうとアレなので遠巻きに見るだけである。
 しばらく二頭のじゃれ合いを眺めていると、親熊がなにやら木で出来た壺を持って戻って来た。

「がう、がうっがう」
「なんて?」
<これが集めた蜜だそうだ。壺の半分しか渡せないが、受け取ってくれと>

 熊がすっと俺の前に差し出したので両手で受け取ると結構ずっしりと入っていた。なんだっけ、あの老酒とか入れる瓶みたいな形をしていて自分で作ったのなら器用だと思う。
 それを地面に置いてキングサーモンを持たせると両手で抱えて一声鳴いた。

「くおーん……」
「がう。がうがう」
「名残惜しいみたいですね」

 子熊がアロンとがっぷり寄りながら切ない声をあげるも、母熊にもう一回声をかけられていた。
 とぼとぼと母親の下へ戻り、二頭は森の中へ。
 一瞬振り返った子熊が最後に一回だけ鳴くとそのまま森の中へ消えて行った。

<わおーん!>
「可愛かったね。お母さんも大人しかったし」
「そこはダイトが居るからだろ? やっぱでかいしあれが襲い掛かってきたら怖いぞ」
<ヒサトラの言う通りだな。我が意思疎通できるとは言え、もし居なかったら人間を襲ってもおかしくはない。まあ、今の個体は木の実や魚、猪なんかを主食にしているみたいだから人間は食っていないようだが>

 熊が人の味を覚えると怖いらしいからそこはベヒーモス様様ってところだ。
 ちょっとだけ名残惜しさを残しつつ、アロンを抱き上げてから俺達は山を下りる。また会いに来てもいいかもしれねえ、かな?

 そのまま途中の町に寄って食材を買い、山の幸や肉を買い込んで王都へ。
 明日は出かけずに休もうと酒も買い、トラックのヘッドライトで庭を照らして炭火焼肉を始めた。

「こっちの酒も美味いぜ……」
「私は果実酒だけ飲めるかな。んー美味しい♪」

 サリアが俺の隣でコップを傾けて嬉しそうな顔をしていて、顔がほころぶ。最近二人だけの時は敬語が消えてきているから嬉しい限り。

 ……そして素材も少しずつだが集まって来ていて運がいいと言わざるを得ない。残りも明後日からの仕事で情報収集をする必要があるし、頑張ろう。
 もし早めに集まったらルアンに言ってすぐ呼んでもらうことは可能だろうか? 明日カーナビに呼びかけてみるか。

「いい匂いがするじゃないか」
「あれ、ソリッド様? こんな時間にどうしたんですか?」
「少し休憩だ、私にも一杯貰えるかな?」
「もちろんいいですけど……忙しそうですね最近?」

 俺が酒を手渡すと毒見もせず飲んだ。信頼しすぎだろういくらなんでも。
 一気に半分くらい飲んだところでソリッド様がニヤリと笑う。

「まあ楽しみにしていてくれ。ゴルフ場計画はまだ始まったばかりだが、確実に前へ進んでいる!」
「ちょ、陛下話すの早すぎっす!?」
「話したくて仕方なかったんですね……」
「まあ、なんとなく分かってたからあんまり変わらんけど」
 
 そう言うと騎士達が笑い『そうですよねー』と庭に座り込み、下っ端の騎士が買い出しへ行く。
 そうなると宴会が始まるのは確実で、あっという間に庭が騒がしくなった。

「ゴルフクラブはオリハルコンで作ったらダメですからね」
「私専用で一本だけでも……!!」

 昔を思い出すなと思いながら、酒を飲みつつ楽しく過ごす俺であった。