ベッドの上で、壁にもたれかかりながらスマホを手にして考えあぐねた。
天井はいつもと変わらない。
固くて、乾いた表情。
そこに、アドバイスなんて浮かんでない。
神様、僕はどうしたらいいんですか?
そしたら神様は目の前に神々しく現れて「Let it be」と意味深な言葉を残して去っていく。
Let it be?
そんなわけには行かないだろう。ビートルズだって解散したし。
なすがままに――このままなにもなかったという顔をして生きていけるほど厚顔ではない。
理央の怯える様子を見て「なんでもないだろう?」なんて顔は絶対にできない。きっと胸がキリキリ痛んで、自分の馬鹿さ加減にいつまでも呆れ続けるしかない。
後悔は先に立たない。
野獣か、僕は。
小動物を前にして、衝動を抑えられなかったなんて信じられない。
そんなことをしても意味がないと、心の中で何十回も繰り返し唱えて、それでもそうしないわけにいかなくて、スマホの黒い画面を見つめる。
そこには、歪んだ僕の顔が映っていた。
天井、僕、ディスプレイ。
ポツ、と響く音が合図になって雨の降り始めを知る。スマホに通知が入る。天気予報アプリによると間もなくまとまった雨が降るらしい。
九月始まりの雨は、台風に先んじてやってくる。
天井、僕、ディスプレイ。
雨音の中、LINEを開く。
『理央』――ちよちゃんがアイコンだ。ちよちゃんは理央の飼っているハムスターだ。理央そっくりの真っ黒な目は、どこを見ているのかわからない。
タップ、仮想キーボードがディスプレイの半分を覆う。
視線を一度、上に向ける。
あー、やっぱこれしかないかな。
最上も正解もないだろう。選択肢もなしだ。
『ごめん』
じっと吹き出しの中の三文字を見つめる。
圧をかける。
理央、いまなにしてる?
ご飯? お風呂?
既読のつかない理由を並べてみる。
······洋と夢中になってLINEしてるのかな。僕からのメッセージは、返事の選択もされないまま、その黒い帯は右側にスライドしてディスプレイからサッと消えていく。
まぁ、そんなものだ。
雨音がぽんと肩をたたく。そんなもんだよと。
まるで失恋には雨が似合うというように。ダダダダッと大粒の滴が窓を叩く。
「はあー」
意味のない、喋らないスマホを握りしめたまま寝転がる。僕はこのまま朝まで既読のつかない哀れなスマホを握って一晩を越すのかもしれない。
あー、泣きたいかもしれない。
女々しいかもしれないけど、図体ばかりデカくても泣きたい日はあるってことだ。
その時、神の助けのように手の中のスマホが短く振動して、慌てて電源を入れる。
指紋センサーが上手く反応しない。
焦る。二度目もなぜか反応しない。
指で認証パターンをなぞる。
見慣れた緑色の画面が現れて、『既読』という小さな文字にハッとする。
彼女は女神じゃない。
普通の女の子だ。
切り捨てられても仕方ない。雨音だけが時間の経過を告げている。
――迷ってる?
言葉を探してる? どんな顔をして?
僕を断罪してくれていいんだ。狡いのは僕だから。
『ごめん』
今度は僕が固まる番だった。
質問を質問で返す、というのはあるけれど、謝罪を謝罪で返されるのは結構キツかった。
全否定?
そうだよ、なかったことにするのが一番なんだよ。わかってるんだ、そんなこと。
ただ、君の唇に触れた事実を残したいわけで。
そんな自己中心的な考えの中に君を巻き込んでしまってごめんなさい。
だからどうか謝らないでほしい。
悪いのは君じゃないし、全部僕のせい。
天井はいつもと変わらない。
固くて、乾いた表情。
そこに、アドバイスなんて浮かんでない。
神様、僕はどうしたらいいんですか?
そしたら神様は目の前に神々しく現れて「Let it be」と意味深な言葉を残して去っていく。
Let it be?
そんなわけには行かないだろう。ビートルズだって解散したし。
なすがままに――このままなにもなかったという顔をして生きていけるほど厚顔ではない。
理央の怯える様子を見て「なんでもないだろう?」なんて顔は絶対にできない。きっと胸がキリキリ痛んで、自分の馬鹿さ加減にいつまでも呆れ続けるしかない。
後悔は先に立たない。
野獣か、僕は。
小動物を前にして、衝動を抑えられなかったなんて信じられない。
そんなことをしても意味がないと、心の中で何十回も繰り返し唱えて、それでもそうしないわけにいかなくて、スマホの黒い画面を見つめる。
そこには、歪んだ僕の顔が映っていた。
天井、僕、ディスプレイ。
ポツ、と響く音が合図になって雨の降り始めを知る。スマホに通知が入る。天気予報アプリによると間もなくまとまった雨が降るらしい。
九月始まりの雨は、台風に先んじてやってくる。
天井、僕、ディスプレイ。
雨音の中、LINEを開く。
『理央』――ちよちゃんがアイコンだ。ちよちゃんは理央の飼っているハムスターだ。理央そっくりの真っ黒な目は、どこを見ているのかわからない。
タップ、仮想キーボードがディスプレイの半分を覆う。
視線を一度、上に向ける。
あー、やっぱこれしかないかな。
最上も正解もないだろう。選択肢もなしだ。
『ごめん』
じっと吹き出しの中の三文字を見つめる。
圧をかける。
理央、いまなにしてる?
ご飯? お風呂?
既読のつかない理由を並べてみる。
······洋と夢中になってLINEしてるのかな。僕からのメッセージは、返事の選択もされないまま、その黒い帯は右側にスライドしてディスプレイからサッと消えていく。
まぁ、そんなものだ。
雨音がぽんと肩をたたく。そんなもんだよと。
まるで失恋には雨が似合うというように。ダダダダッと大粒の滴が窓を叩く。
「はあー」
意味のない、喋らないスマホを握りしめたまま寝転がる。僕はこのまま朝まで既読のつかない哀れなスマホを握って一晩を越すのかもしれない。
あー、泣きたいかもしれない。
女々しいかもしれないけど、図体ばかりデカくても泣きたい日はあるってことだ。
その時、神の助けのように手の中のスマホが短く振動して、慌てて電源を入れる。
指紋センサーが上手く反応しない。
焦る。二度目もなぜか反応しない。
指で認証パターンをなぞる。
見慣れた緑色の画面が現れて、『既読』という小さな文字にハッとする。
彼女は女神じゃない。
普通の女の子だ。
切り捨てられても仕方ない。雨音だけが時間の経過を告げている。
――迷ってる?
言葉を探してる? どんな顔をして?
僕を断罪してくれていいんだ。狡いのは僕だから。
『ごめん』
今度は僕が固まる番だった。
質問を質問で返す、というのはあるけれど、謝罪を謝罪で返されるのは結構キツかった。
全否定?
そうだよ、なかったことにするのが一番なんだよ。わかってるんだ、そんなこと。
ただ、君の唇に触れた事実を残したいわけで。
そんな自己中心的な考えの中に君を巻き込んでしまってごめんなさい。
だからどうか謝らないでほしい。
悪いのは君じゃないし、全部僕のせい。