あれから二週間近く経つが一切鹿島さんは消える気配がない。
ただ時々彼を見たとき、かなり透けるように見えることが増えた。
彼自身、物に触れないときが増えたと言っている。
テレビのリモコンやタブレットをいじれないのがかなりの苦痛らしい。
やはり千世さんに会ったことで一区切りついたのだろう。

こうなると心の整理がつくまでこういう曖昧な状況が続き、ふと突然完全に透明になってしまうのかも知れない。
その時は成仏したと言うことだが、今度こそ私にはその前兆もわからずにお別れする可能性がある。

前回のことがあり後悔している部分があるから、今まだいてくれるうちに気持ちを伝えようか、そう悩んでいるのも本当。
だけれど勇気が出ない。
やっと千世さんの事で未練がなくなりかけているのに、妹分くらいにしか見ていない私にを言われたら鹿島さんはきっと困るだけだ。
それで残りの時間鹿島さんと居心地の悪い時間を過ごしたくは無い。
告白したのに何も無かったことのように振る舞える、そこまで私には自信も無かった。

ふぅ、とため息をつくとスマートフォンがメッセージの着信で震える。
机の上から取り上げれば相手は颯真。
そこには
『今夜夜九時に例のCM解禁!
事務所公式の動画サイトでも流れるから見ろ!』
という内容だった。
私はすぐに、楽しみ、見るからと返信する。
既読のマークは出たのでそれでいい。
恐らく凄く忙しい中連絡してきてくれたのだろう。

「へぇ、今夜とうとうか。
大規模にやるんだろうな」
「ですから約束」
「両親まだ帰ってないしリビングだから良いだろ。
あと一時間無いから風呂でも入って来いよ」
「なんで鹿島さんが仕切るんですか」
「だってお前見終わって興奮したらあちこち連絡したりするだろ?
両親帰ってくれば両親が先に風呂入るとお前が」
「わかりました!入ります!」

私のいつもの行動や性格を把握され、小舅のように言われるが当たっているので仕方が無い。
どんな風に出来上がっているのか楽しみになりながら浴室に向かった。


公式サイトでは最速動画配信を同時に見ようというイベントが行われていて、ネットでは事務所から公式タグを使ってツイート、などと既にお祭り前のような状態。
SNSでも楽しみだ、トレンド一位とろう!などとコメントが溢れている。
大きめのタブレットを用意し鹿島さんと並んで公式サイトを出して待っていると、画面が十からカウントダウンの数字を映し出す。
3、2、1。
そして九時と同時にCMが始まった。

静かなイントロ。
真っ暗な中で六人が順々に下からのライトに照らされる。
黒い衣装を纏い、俯いている彼らに全員ライトが当たったと同時に、真っ白な花びらで画面は覆い隠さた。
それが一瞬で吹き飛ぶと、あの時に見たタキシードのような衣装を着た彼らが現れた。

流れる新曲、一糸乱れぬダンス。
そして例のシーンが映り始めた。
メンバーごとに花嫁に見える女性をエスコートしたり、はしゃいだり、髪を撫でたりと画面は移り変わる。

そして颯真のシーン。
颯真は愛しそうな目で黒髪にキスを落とす。
次のシーンでは驚くほどに情熱的なまなざしで私の手を取った。
画面に見える私は髪の毛と手。あとはドレス。
見事に私の顔は映っていない。
こんな風に画面を通すとあの撮影は見えるんだ。
そしてあの時悔しさを感じるほどの颯真の表情に、この画面を見ながらも釘付けになっていた。

CMということであくまで曲の抜粋、長さは半分程度。
最後に今夜零時、先行で音楽配信で購入できる、雑誌インタビューとかの宣伝が続く。
見終わってすぐネットを見れば、興奮のコメントが並んでいた。
案の定、あの女性が羨ましい!というのが並び、各メンバーへの熱いコメントを見てみれば、颯真の表情で心を打ち抜かれたという悲鳴が多くて思わず笑ってしまった。

「良い編集だったな。
女性のカットも絶妙だし、何よりメンバーの個性を表した作りだ」
「本当に。
颯真も硬派イメージってのが壊れないのか心配でしたけど、ネットではかなりの好印象でホッとしました」
「そりゃそうだろう、相手が相手だ、熱くもなるだろ」
「颯真ってやっぱり演劇も興味あるんですね。
きっと裏ではかなり練習してたんだろうな。
そっちでも私より先に有名になりそう」
「知世、お前という子は・・・・・・」

身長どころか何もかもが抜かれていく現実が悲しいと打ち明ければ、鹿島さんは残念な物を見るような目で私を見た。
それが納得いかないものの、私は思いの丈を目一杯メッセージにこめ颯真に送る。
忙しいのかしばらく既読にもならなかったが、ガッツポーズのスタンプが返ってきたのでホッとした。
とにかく私が足を引っ張ることにならずに済んだし、きっと颯真達はこれからどんどん前に進むのだろう。
何だかそれが嬉しいし、そして悔しかった。