今日も授業が終わるまで鹿島さんは学校内をうろつくからと顔を見せなかった。
下校するとき、登校前に決めていた秘密の場所に向かう。
そこは校門の隣にある建物の陰に隠れるようなところ。
既に鹿島さんが建物に寄りかかるように待っていて、もしかしてこうやって千世さんと待ち合わせしたこともあったのだろうかと、私に気付き笑顔で私を迎える鹿島さんを見て思った。
鍵を鞄から出して家のドアに挿す。
ただいまと言いながらドアを開けた。
うちは共働きでそもそも帰りが遅い日が多いのだが、今日は父親は出張、母親も残業と連絡があった。
夕食も一人が多いから鹿島さんが居てもまぁ大丈夫と言えば大丈夫だろうと思って過ごしてきて、今のところなんとかなっている。
部屋に入って制服から部屋着に着替えると、ドアを開けて自分の部屋に鹿島さんを呼んだ。
申し訳ないが家にいるときは姿を見せないように約束をして貰った。
以前お風呂場のドアを開けたときに家の廊下を歩いていた鹿島さんと鉢合わせしたことがあり、気を抜いていた私は驚いて声を上げてしまったからだ。
流石に申し訳ないのか、鹿島さんも約束を守って私が声をかけるまでは姿を消している。
その上でお風呂は覗かない、部屋も勝手に入らないで下さいとお願いした。
俺が女の子の風呂を覗くなんてことするわけないだろ!と怒られたけれど。
部屋に来た鹿島さんはずっと出会った時のままの服装だ。
私はパジャマ代わりで先日買ったばかりの可愛い柄の入ったルームウェアで出迎えた。
仕事で知ったブランドなのだが、着心地も良いし価格も学生に有り難い。
そんな私を見た鹿島さんは、そういうのが今の女子の流行?どこのブランド?と興味深そうに聞くのが、職業病が抜けてないのだろうなとわかってちょっと笑ってしまう。
「週末、千世さんのとこに行きましょうか」
私の言葉にパッと鹿島さんの顔が明るくなり、良いのか?!と弾んだ声を上げた。
出逢ってまだ数日だが、彼は千世さんに会いたいからと急かすことはしなかった。
きっと自分が死んで時間が経ったことを実感していたはずなのに。
「幸い土曜は学校も休みですし。
そういえば千世さんの家ってどこなんですか?
ちょっと遠いとなるともう一度考え直す必要あるかも知れませんが」
「そうだな、ここからだと電車乗り換えて五十分ってとこかな。
学校には三十分くらいで着いてたから」
「二人ともウチの学校に通ってたんですから、考えてみれば通える距離ですよね」
もしかして昔、鹿島さんとすれ違っていたりしたのだろうか。
五年前に亡くなってその時鹿島さんは16歳。
私は当時10歳、小学生。
中高一貫で学校同士は隣にあるものの、そもそも私は小学生の時引っ越してここの地元の公立だったのだから会うわけも無かった。
これだけ綺麗な顔立ちなら、きっと鹿島さんは子供の頃からでも騒がれていたことだろう。
「なぁ本当に土曜日、行けるのか?良いのか?」
「そんなにしょっちゅう仕事も無いですしね、大丈夫ですよ」
「ありがとう。
ほんと知世は良い奴だよな」
彼は少し泣きそうな顔で笑った。
喜んでいる彼の前で、私はそんなにいい人じゃ無いのにと思う。
早く千世さんに会わせて彼に成仏して貰いたいがため。
そうしなければいくらいい人だと分かっているし気を遣われているとは言え、自分に取り憑かれているのは気持ちの良いものでは無い。
だけれど彼が嬉しい、成仏してもいいと思える結末は何だろう。
彼女が鹿島さんを思ってまだ一人だと喜ぶのだろうか。
それはそれで彼は苦しんだりしないのだろうか
そう思うとまだ彼のことをよく知らないのだと、嬉しそうにする鹿島さんを見ながら思ってしまった。