「勉強からの卒業っ!」

 2月16日の放課後、爽汰はそう叫んだ。
 昨日の試験が最後で、爽汰はついに受験勉強から解放されたらしい。

「最高の卒業じゃん、おめでとー」

 美月がカバンからグミを出して「1粒しかないけどお祝いってことで」と爽汰に渡した。

「はー、本当に最高の卒業だ」

 もらったグミをすぐに口に入れて爽汰は清々しい顔を見せた。

「結果はいつ?」
「来週。今は結果のこと考えたくない、その話はやめて」

 美月の質問に爽汰は悲痛な声をあげてから笑う。

「まあお疲れ!」
「お疲れさま!」

 あとほんの少しで爽汰が東京に行くのが確定してしまうのか。……本命以外は地元を受けていたけど。でも爽汰は間違いなく東京に行く、そんな予感がした。

「塾ももう終わり?」
「まだあるけど、もう行かなくてもいっかな。塾も卒業!」

 春からのことを考えるのは怖くて私は思考を停止した。
 今は自由の身になった爽汰と過ごす時間が増えることだけ考えよう。

「あっそうださくら。今日は一緒に帰れない」
「塾?」
「あー……」

 爽汰は歯切れの悪い返事をした。なんと言えばいいか迷っているらしい。

「今日はちょっと塾の後輩に用があるって言われてさ」

 瞬間、胸にスゥッと風が入り込んだ気がした。なんとなく意味を察してしまった気がする。だから、それ以上聞けない。

「塾の後輩?」

 私の気を知らずに美月が質問する。

「うん、うちの高校の子だけどね」と爽汰は返した。

 高校の子――相手が女の子なのだということはすぐにわかる。

「なんの用?」
「チョコくれるんだってさ。受験お疲れ様の」
「バレンタイン学校来てなかったから今日ってことか」
「そうそう」

 美月とやり取りをしながら爽汰はマフラーを巻き始めた。爽汰に告白する女の子のもとに行ってしまう。美月が私をちらりと見た、美月の目が「止めなくていいの?」と無言で訴えてくる。
 でも今日もそれに気づかないふりして「いってらっしゃーい。じゃあ私は先に帰るわ」と明るい声を出した。