雅から電話がかかってきた。
 『もしもし?雅?どうした?』
 『天、急に手紙が置いてあるんだけど』
 やはり雅は困惑しているようだ。突然身の回りが変わっていたら、驚くだろう。
 『あの、やっぱり聞いて欲しい。雅の話』
 『うん。すぐ行くね』

 雅の心が落ち着くまで、話を聞こうと思った。
 風をきって走った。雅の家まで。雅の苦しみを取り除くために、無我夢中で。

 上がった息を整えて、インターフォンを押した。震える手に血流が戻った気がする。
 ガチャと音を立てて、雅がドアを開けた。雅の顔の血色感が薄かった。目には光がなかった。
 「どうぞ」
 雅の声には感情が乗っていなかった。無気力という言葉が今の雅に当てはまる。
 「雅、大丈夫?」
 「…しんどい。苦しい。たすけて」
 ところどころ掠れて、弱々しい音が助けを求めていた。
 「何があったの?」
 雅はゆっくりと話し始めた。

 SNSのランキング機能で自分を見失っていたと言う。批判的なコメントで心を病んでいたわけではないらしい。自分で引き起こしたことだと言ってかすかに心の入ってない笑みを浮かべた。
 雅は負けず嫌いだから、自分が一位になれなくて悔しかった。いつもならその悔しさを活力に変えられていた。でも毎日毎日、自分のランクに一喜一憂してストレスが溜まっていたらしい。だが、雅は自分の心が負う負担に気づかないふりをし続けていた。雅の心は糸が切れたように押し潰れ、消えそうになっていった。
 「それで、SNSやめようかなって思ってて。雅、普通に生きていきたいから」
 雅は、輝くためにSNSを始めたと言う。
 「天みたいに輝きたいんだ」
 自分が輝いているなんて、微塵も感じない。だから雅にどうして自分が輝いているように見えるか尋ねた。
 「天は色んな人に好かれて、頼りにされてるし居場所がある。それに、色んな人に寄り添える。その優しさが輝いて見えるんだよね」
 今まで自分に抱いていた嫌悪感が勝手に口から漏れていった。
 「そんなことないよ。任務で人を助けて、優越感に浸って、たくさんの人の英雄だって勘違いしてるんだよ。そんなやつに優しさなんてないよ。輝かしさなんてないよ」
 しまった。口が勝手に動いていた。
 「任務って何?」
 「…実は、この世界は一日一回時が止まってて、その時間に一人で人助けしてるんだ」
 「ヒーローみたいだね」
 雅は涙を浮かべながら微笑んだ。
 「雅は天のヒーローだよ。雅があのとき声かけてくれたから、毎日楽しい。それに、雅はSNSっていう場で人気者じゃん。そっちの居場所のほうが羨ましい。雅の方が輝いて見えるよ」
 「たぶん、ないものねだりなんだね。みんな」