「天!昨日のドラマ見た?」
クラスの一軍の吉田だ。とても元気な笑顔で天に話しかけている。
「うん、見たよ」
天は優しくて甘い笑顔を浮かべている。
「あの展開は予想できないわー」
「あれはびっくりしたね」
ああ、天はこういうところが好かれるんだな。
ただ話すだけでも、相手に寄り添う感じ。とても落ち着くこの気持ちが、天と関わるどんな人にも生まれる。
天は輝いている。そう思う。
雅は、クラスの一軍というものに憧れがある。
対して天は、クラスの一軍に好かれている。特に吉田に。
それが楽しそうで、羨ましい。キラキラして見えるから。居場所が明確に生まれるような気がするから。
雅は、天のように輝きたいのだ。天のようになりたい。
だから、SNSを始めた。見栄を張るために。雅だって輝いてるんだと、自分に言い聞かせるために。
ランキングが上がって行くことが生き甲斐で、自分の居場所を見つけたような気がした。だからどんなことも、SNSがあれば、天が側にいてくれれば、乗り越えられた。
ランキングが下がった時はへこむし、悔しいけど、それを糧にして頑張ろうと思えた。
しかし、最近はなぜか苦しい。楽しくない。雅自身を見失っている気がする。光が見えない。
いいねやコメントを見ても、喜びなど何も感じない。嬉しいとも思わない。
ランキングが上下しても、別になんとも思わない。悔しくない。悲しくない。次は頑張ろうとも思わない。
何だか、おかしい。自分が。
「雅?どうした?大丈夫?」
心配そうな顔で、雅をまっすぐ見つめている。
「変な顔してた?大丈夫。ちょっと考え事」
「なんか悩んでるの?聞くよ」
「大丈夫。大したことないから」
そっか、と言って天は話題を変えた。
「明日休みだし買い物でも行かない?」
「いいよー。行こ!」
天、雅のことを気遣ってくれたのかな。そんな優しさにいつも甘えてしまう。
「隣町のショッピングモール行こうよ!」
「いいね!」
「じゃあ明日は駅前集合で良い?」
「そうしよう!」
天は、ぱあっと笑顔になった。よほど明日が来るのを楽しみにしているようだ。雅も辛い気持ちを隠すように天に笑顔を見せた。
天とは、中学で出会った。
その頃の天は、今のように誰とでも話せるタイプではなかった。どちらかというと、休み時間は静かに読書するか、勉強する感じの子。今とは正反対だ。
トマトが嫌いで、トマトスープ、サラダのトマトなど、給食で出るトマトは、だいたい手をつけずに残していた。
真面目だから、居眠りすることなくしっかり授業を受けていた。これは今でも変わらない。
部活は帰宅部。でも、運動は得意だし、好きだと思う。
得意な教科は、多分数学。
忘れ物は、きっとしたことがない。忘れ物をした天は見たことがない。
天は、人見知りの鉄壁のガードを備えていて、親しくならないとガードのセキュリティは甘くならなさそうだった。
中一の夏休みが明けるまで、一度も話したことがなかったが、なぜか天のこと、よく知っていた。おそらく、天には人に寄り添う力がありそうだから一緒にいたら楽しそう、という不確かな勘が働いていた。しかし、その不確かな勘はしっかり当たっていた。
「一緒に移動教室行かない?」
天はとても困っていたように思えた。迷惑だったかなと思った。突然話したことのないクラスメイトに、話しかけられて驚いていたのかもしれない。
天はぎこちなく作った笑顔をこちらに見せながら、
「うん、行こう。一緒に」
と言った。
少しずつ仲良くなって、天はよく笑うようになった。そんな天の側に居続けたい、雅の側に天が居てほしいと思った。
天の側にいて、気がついたことがたくさんある。
特に、天には人の気持ち、その変化を感じ取り、その人に寄り添える力があること。
たまに、人に寄り添うことで、天が天自身の気持ちから離れていってしまうことがある。人がどう考えてどう感じるかというものに囚われて心配になりすぎていることもある。
天がそのことで不安を抱き、体を壊してしまうのではないか。天は儚く消えてしまいそうで、いつか目の前からいなくなってしまうのではないか。そうやって、雅が心配になる。
でも、きっとその天の儚さが雅を惹きつけたのかもしれない。守りたい、天の気持ちを、心を。守られたい、天の大きな心に。
少し早く、待ち合わせ場所に着いた。
今日は休日だということもあって、人通りが多い。電車も混んでいるだろうな。
晴れてよかった。
天が急いでやってきた。いつもの優しい笑顔で挨拶してくれた。やっぱりホッとする。
「雅、ごめん遅くなった」
「ううん。雅もさっき来たところ」
改札を通り、ホームへ続く階段を降りるとたくさんの人が電車を待っていた。乗れるかなと少し不安になったが、そんな心配は不要だった。運良くいつもの休日よりも電車に乗っている人が少なかった。
「天は何買うの?」
運良く乗れた電車の中で天に聞いてみた。
「欲しい本があるんだ」
本当に楽しみにしているんだろうなという表情。やっぱり好きだなぁ。
隣町のショッピングモールに着いた。やっぱりどこも人が多いな。肩と肩がぶつかりそうだ。
店をまわっていると、すごく楽しくなってきた。
ある雑貨店で、天然石のブレスレットに目が留まった。
先ほど天と二手に分かれて店を回ろうと決めていたので、あとで天にあった時に聞こうと思ったのだが、気持ちが先走ってしまった。
『ねえ、天。これお揃いで買わない?』
写真とメッセージを天に送ってみた。
『いいよ!お揃い!』
すぐに天は、ニコッと笑顔の絵文字を送ってきた。つられて雅も笑顔になった。
明日、天は用事があるということで、早めに帰ることとした。でも、やっぱり別れは名残惜しい。まだ一緒にいたい。そんな気持ちが心を駆け巡っていた。
昨日の憂鬱な気持ちなんて忘れていた。
クラスの一軍の吉田だ。とても元気な笑顔で天に話しかけている。
「うん、見たよ」
天は優しくて甘い笑顔を浮かべている。
「あの展開は予想できないわー」
「あれはびっくりしたね」
ああ、天はこういうところが好かれるんだな。
ただ話すだけでも、相手に寄り添う感じ。とても落ち着くこの気持ちが、天と関わるどんな人にも生まれる。
天は輝いている。そう思う。
雅は、クラスの一軍というものに憧れがある。
対して天は、クラスの一軍に好かれている。特に吉田に。
それが楽しそうで、羨ましい。キラキラして見えるから。居場所が明確に生まれるような気がするから。
雅は、天のように輝きたいのだ。天のようになりたい。
だから、SNSを始めた。見栄を張るために。雅だって輝いてるんだと、自分に言い聞かせるために。
ランキングが上がって行くことが生き甲斐で、自分の居場所を見つけたような気がした。だからどんなことも、SNSがあれば、天が側にいてくれれば、乗り越えられた。
ランキングが下がった時はへこむし、悔しいけど、それを糧にして頑張ろうと思えた。
しかし、最近はなぜか苦しい。楽しくない。雅自身を見失っている気がする。光が見えない。
いいねやコメントを見ても、喜びなど何も感じない。嬉しいとも思わない。
ランキングが上下しても、別になんとも思わない。悔しくない。悲しくない。次は頑張ろうとも思わない。
何だか、おかしい。自分が。
「雅?どうした?大丈夫?」
心配そうな顔で、雅をまっすぐ見つめている。
「変な顔してた?大丈夫。ちょっと考え事」
「なんか悩んでるの?聞くよ」
「大丈夫。大したことないから」
そっか、と言って天は話題を変えた。
「明日休みだし買い物でも行かない?」
「いいよー。行こ!」
天、雅のことを気遣ってくれたのかな。そんな優しさにいつも甘えてしまう。
「隣町のショッピングモール行こうよ!」
「いいね!」
「じゃあ明日は駅前集合で良い?」
「そうしよう!」
天は、ぱあっと笑顔になった。よほど明日が来るのを楽しみにしているようだ。雅も辛い気持ちを隠すように天に笑顔を見せた。
天とは、中学で出会った。
その頃の天は、今のように誰とでも話せるタイプではなかった。どちらかというと、休み時間は静かに読書するか、勉強する感じの子。今とは正反対だ。
トマトが嫌いで、トマトスープ、サラダのトマトなど、給食で出るトマトは、だいたい手をつけずに残していた。
真面目だから、居眠りすることなくしっかり授業を受けていた。これは今でも変わらない。
部活は帰宅部。でも、運動は得意だし、好きだと思う。
得意な教科は、多分数学。
忘れ物は、きっとしたことがない。忘れ物をした天は見たことがない。
天は、人見知りの鉄壁のガードを備えていて、親しくならないとガードのセキュリティは甘くならなさそうだった。
中一の夏休みが明けるまで、一度も話したことがなかったが、なぜか天のこと、よく知っていた。おそらく、天には人に寄り添う力がありそうだから一緒にいたら楽しそう、という不確かな勘が働いていた。しかし、その不確かな勘はしっかり当たっていた。
「一緒に移動教室行かない?」
天はとても困っていたように思えた。迷惑だったかなと思った。突然話したことのないクラスメイトに、話しかけられて驚いていたのかもしれない。
天はぎこちなく作った笑顔をこちらに見せながら、
「うん、行こう。一緒に」
と言った。
少しずつ仲良くなって、天はよく笑うようになった。そんな天の側に居続けたい、雅の側に天が居てほしいと思った。
天の側にいて、気がついたことがたくさんある。
特に、天には人の気持ち、その変化を感じ取り、その人に寄り添える力があること。
たまに、人に寄り添うことで、天が天自身の気持ちから離れていってしまうことがある。人がどう考えてどう感じるかというものに囚われて心配になりすぎていることもある。
天がそのことで不安を抱き、体を壊してしまうのではないか。天は儚く消えてしまいそうで、いつか目の前からいなくなってしまうのではないか。そうやって、雅が心配になる。
でも、きっとその天の儚さが雅を惹きつけたのかもしれない。守りたい、天の気持ちを、心を。守られたい、天の大きな心に。
少し早く、待ち合わせ場所に着いた。
今日は休日だということもあって、人通りが多い。電車も混んでいるだろうな。
晴れてよかった。
天が急いでやってきた。いつもの優しい笑顔で挨拶してくれた。やっぱりホッとする。
「雅、ごめん遅くなった」
「ううん。雅もさっき来たところ」
改札を通り、ホームへ続く階段を降りるとたくさんの人が電車を待っていた。乗れるかなと少し不安になったが、そんな心配は不要だった。運良くいつもの休日よりも電車に乗っている人が少なかった。
「天は何買うの?」
運良く乗れた電車の中で天に聞いてみた。
「欲しい本があるんだ」
本当に楽しみにしているんだろうなという表情。やっぱり好きだなぁ。
隣町のショッピングモールに着いた。やっぱりどこも人が多いな。肩と肩がぶつかりそうだ。
店をまわっていると、すごく楽しくなってきた。
ある雑貨店で、天然石のブレスレットに目が留まった。
先ほど天と二手に分かれて店を回ろうと決めていたので、あとで天にあった時に聞こうと思ったのだが、気持ちが先走ってしまった。
『ねえ、天。これお揃いで買わない?』
写真とメッセージを天に送ってみた。
『いいよ!お揃い!』
すぐに天は、ニコッと笑顔の絵文字を送ってきた。つられて雅も笑顔になった。
明日、天は用事があるということで、早めに帰ることとした。でも、やっぱり別れは名残惜しい。まだ一緒にいたい。そんな気持ちが心を駆け巡っていた。
昨日の憂鬱な気持ちなんて忘れていた。