母との鰻をドタキャンした二週間後、私は同じ約束を取り付けた。リクと相談の上、二週連続でアルバイトを休むことになるけど、早いうちに行くに越したことがないと結論付けたのだ。
 母と約束が出来た後、愛ちゃんにも連絡をとった。母にはまだ愛ちゃんのことは内緒にしていると正直に伝えたらこんな返事がきた。
『わかった。本来はきちんと告げるべきだけど、今回は姫乃の判断に任せます。もしも、そのことでお母さんに責められたら私に言わないでと口止めされていたと言うようにして』
 横で映画を観ていたリクにスマホの画面を見せて内容を確認してもらう。リクはリモコンで映画を一時停止にして、文面にちゃんと目を通してくれた。テレビの中で俳優さんが涙を流して半開きの口で止まっている。シリアスなシーンだったのに、申し訳ない。
「愛ちゃんって親っぽいな。ヒメノが責められるのを心配してるし」
 スマホを私に返しながらリクはそんな感想を述べた。
「うん」
「お母さんには愛ちゃんが来ること言いたくないんだ?」
「うーん、なんとなく不意討ちの方がいい気がするんだ。お母さんって思いが決まると凝り固まっちゃって、それはなかなか変えないから。考える暇を与えちゃだめな気がする」
 私は返されたスマホを眺めてから、画面を消した。
「そこは俺にはわからないから意見することも何もないけどさ。ただ、お母さんに責められた時に愛ちゃんのせいだって言えといってきてるけど、そこはヒメノの意見だって嘘をつかずに伝えるべきだよ」
 愛ちゃんに言われたら、そうなのかと思ってしまう私にはリクの意見が意外だったが……続けて述べられた理由ですんなり受け入れられた。
「もう親に庇ってもらう歳じゃないんだから。愛ちゃんはヒメノが責められるなら可哀想だから代わってやりたいと思っていってるだけだろ? そもそもヒメノの意見にはどちらかというと反対っぽいし」
 確かにお母さんにきちんと愛ちゃんが行くことを教えておいて欲しそうだった。なるほどなぁとつくづく私はまだまだ考えが浅いのだと反省する。リクの方が大人に近いのだとも思っていた。
「俺は愛ちゃんの気持ちわかるよ。好きな相手には嘘とかイヤじゃん? 出来るだけ正直でありたいから」
 リクの云わんとすることはわかる。だからこそ、私は自分が下した結論に不安を抱きはじめてソワソワする。大好きなリクとそれに匹敵するほどの愛ちゃんが同意見で、私とは意見が違う。これは、私が間違えているのではないだろうか。
「俺はヒメノのお母さんを知らないから、単純に愛ちゃん目線で意見を述べたに過ぎないから。一番お母さんを理解しているはずのヒメノの意見が正解なんじゃね?」
 低く唸るほど難題だが、よく考えたら私は既に母には愛ちゃんのことを伏せて連絡をとっているのだから、悩む余地など今さらない。それが良いのか悪いのか判断がつかないが、悩みは一つ減ったことになる。
 母に文句を言われようと、そんな私を愛ちゃんが庇おうとしてくれようと、それはそれ。私は母と愛ちゃんを対面させ、なんとか話し合いの場をもって欲しい。その上でまた昔のように二人が、出来れば仲良くお茶を飲んだりする関係に戻れたら……と、願っていた。 

 私の地元、母が待っている街に着いた時、あまりの緊張で胃がムカムカしていた。