そして、リビングの奥の方に布で被せられた何かがある。更には、この部屋に入る前から感じていたキツイ異臭が、更にキツくなってきていた。まさか、あの布に被せられたモノが原因?
 その布に被せられたものに近づいて、碧人はあるものに気が付く。少しだけ赤く散らばった水みたいなものが。
「は……これって……?」
 まさか、これは血……? 碧人の目から見ても普通の水が赤く染まった……では説明の付かない付き方をしていると直感で碧人は感じた。
「……これって」
 そうして、隠された布を反射的にめくりあげる。そこにあったのは……そこにあったのは。
「……な、なんだこれ?!」
 一瞬、目の前にあるのが理解できなかった。少し時間を置いて、理解が少しずつ進んでいった。けれど、どうしても信じられなかった。
 
そこにあったのは、ケース。そして、ケースの中にあったのは人の頭だった。
 
 それも一つだけではなく、いくつかある。頭蓋骨になっているものをあった様な気がする。頭が混乱して、目の前にあるものへの理解が進まなかったのか。
「な……な……」
「……見ちゃったんですね」
 あまりにも冷たい声が横から聞こえる。少しずつ、その声の方向に目を合わせると、そこには亜澄がいた。
「こ、これ……なんだよ……」
「私のコレクション、ですよ?」
 何の感慨も無く、そう答える。まるで、いつも見ていた亜澄とは全然違っていた。違う様に見えた。
「私、大好きな人はこうやって頭を大事に保管して眺める事が好きなんです。少しずつ腐っていって骨だけになってしまったとしても、やっぱり大好きなんです」
 彼女の言っている事はおかしい。それは間違いない筈なのに。
 この異常な状況の中、全てが混乱して碧人は正常な判断が出来ていない状態だった。
「だ、だからってこれは……」
「そうでもしないと、ずっと居てくれないんですよ?」
 亜澄は碧人の言い分に意を介さない。そして、彼女は少しずつこちらに向かって歩いていく。碧人は、少しずつ後ずさりする。けれど、この部屋の中ではすぐに壁際まで付いてしまった。
「碧人くん。大好きです。私ずっと想ってたんですよ? あなたの顔、とっても好きで独占したかった」
 亜澄が何か言っている。けれど、碧人には伝わらない。ただ、目の前にいる彼女を見て、恐怖に支配されていた。
「……ここで、さよならって言っても仕方がないですよね」
 完全に逃げられなかった。
「だから、あなたもコレクションの一部になってください!!」
 そして、彼女はこちらに向かって、何かを振り下ろそうと、してきた。
 そこで――。

 12

 あの日から、一カ月経った。しばらくは多くの出来事が多くて状況が理解できなかったものの、流石に一カ月という長い期間が自分の中で少しずつ整理が付いてきていたのだ。
 遠藤亜澄。彼女は惚れた人の頭にとても凄まじい執着を持っていた。
 彼女は、数年前に両親が亡くなっていた。以降は、親族が保護者となっていた。亜澄は親族に対し、ずっとあの家で暮らしていたい、といってあの家で暮らしていたようだ。……あくまで、そういう情報を聞いたというだけで、実態はどうなのかは知らないのだが。
 そして、時を同じくして、行方不明になった男性が現れ始める。自分までに五名の男性が行方不明になっていた。……そして、全員の遺体があの家の中で見つかった。
 これは、報道された話の一部を抜粋しただけだ。碧人は、あの場にいたけれど、全てはわからなかった。

「来たみたいね」
「……おう」
 放課後。碧人は高校の図書室で出会った。鏡だった。
「ここで、あなたが話をしたいって言っていたけどいいの?」
「間違いない。ここで待ち合わせしたんだ。大丈夫だ」
 そんなやり取りをしながら、碧人はあの日、気になった事を質問する。
「鏡は、何であのタイミングで現れたんだ?」
 そう、今自分がここにいるのは言うまでもない。亜澄の凶行は失敗に終わった。目の前にいる少女のおかげで。
 彼女は今にも自分を殺そうとしている場面でリビングにあった窓ガラスを割って現れてバットを持って現れた。突然の出来事に驚愕している亜澄の不意を突いた鏡は、即座にバットを捨て、亜澄のナイフを持っていた手を掴んで、無理矢理ナイフを手から引き?がしたのだ。
「あなたの友人に協力してもらって。大分危ない賭けだったけどね」
「す、凄い行動力だな……それだけで済むような事ではないけど」
 そんな簡単に済むような、行動ではない……そして、碧人には一つ気になる言葉があった。
「あなたの友人って……?」
「吾六くん。あなたの友人でしょ?」
「吾六……ってもしかして達人?!」
 そういえば、あの場面に達人がいたような……。状況への理解が追い付いてなくて、全然覚えていなかった。