もう少し、接触を図らないといけなかっただろうか。
 けれど、接触を図ろうにもどうやっていけばいいのか、わからなかった。だから、初めて彼に話しかけた時に彼を不信にさせかねないような対応を取ってしまったのだろう。
 何より、今の状況で彼女周りであった事を話しても、信じられないのは間違いない。彼女は決定的な証拠を彼に直前まで隠すつもりなのだ。
「……ッ!」
 反射的に見えない場所に移動する。彼女が一瞬教室から出て行こうとする場面が見えたからだ。
「……?」
 幸いにも、彼女には気づかれていない様だった。
「……」
 彼の現在の交際関係に当たる彼女が近くにいる以上、猶更接触は図りにくかった。何せ、彼女がずっと何かを警戒する様に、彼にずっとくっ付く様に行動していたのは見て取れた。特に外にいる時は、彼の周りを気にする様に、一緒に行動をする。もしくは、後ろから彼を尾行している様に見える場面が見えた。
 幸いにも、学校では逆にその行動が取りにくいのか、隙を見て彼との接触を図る事ができた。けれど、先ほど彼女が『自分の家』に招き入れようとする場面を見た時、血の気が引いたのは自分でも驚いた。
 ……このままだと危険だ。
 なるべく、自分の出来る範囲で準備をしないと。決定的な証拠と……それと護身用の何かを持って行かないと。
 ……そういえば彼には定期的に話をしている友だちがいた筈。彼に一応、話をしておいても良さそうだ。

 11

 放課後、碧人は亜澄の後ろを付いていくままに歩いていた。今日、話していた彼女の家……正直、かなり緊張していた。
 碧人は今まで彼女がいなかった。つまり、彼女の家にお邪魔するというのは人生初だという事だ。そんな人間が、緊張なんてしないわけが無かった。
 やばい、家に着いたらどんな事が起きるんだろう……!
 色々な妄想をしては、それを振り払う。碧人は道中それを繰り返し続けていた。
「あ、あの亜澄?! 家ってどのくらいまで歩くんだ?!」
「ふふっ。あともう少しという感じで考えたら良いと思います」
 それは楽しみだ。碧人は大分舞い上がっている様子だった。

「着きました」
「へ~ここが……」
 目の前にはトビラが。……そして、今碧人が立っている場所の目の前にあったのは一軒家。つまり、亜澄は一軒家暮らしという事だった。
「あ、そういえば両親は?」
 ここまで緊張して聞くのを忘れていたが、両親がいる可能性のリスクがあった。
「……親は、いませんよ」
「……?」
 少し、間が空いての返答だった。碧人は、その反応からもしかしたら聞いたら不味い事だったのかな、と思いつつも、早く入りたい気持ちでいっぱいだった。何せ、初彼女と初家デート。あの誘いを入れられてから待ちわびてた様な事だ。
「まあいっか。それじゃ中に入っていいか?」
「いいですよ?」
 彼女は笑顔で応じる。別に何も変化はない。
「……?」
 入る時、後ろを向くと誰かが隠れるような動きをした様に見えた。碧人は多分、ただの気のせいだろうと思ってすぐにその事を忘れる。

「こ、ここが亜澄の家か」
「私、二階でちょっと準備をしているので、ここで待っていてください。その間、なるべく他の所に行かない様に」
「え?」
 ここで待て、と言われて碧人は理解できなかった。家デートってそういうものだったっけ。と思いながらも、とりあえず亜澄の言う通り、玄関で待つことにした。
 だけど、三十分経っても亜澄は出てこなかった。
「……それにしても、何だか変な家だな」
 ある程度の家具は置いていたものの、何かおかしさを感じた。清潔感のある家だとは思う。玄関のシートとかもあるし、靴箱の上には小さな観葉植物が一つ飾られているし、そこまで異彩を放つ様な、そんなものはない。
 筈なのだが。
「……ちょっとくらい、良いか」
 そうして、碧人は玄関奥にある扉を目指して歩いていく。
 そこで、少し違和感のある事が。
「……ッ。何だこの匂い」
 かなりキツイ異臭だった。鼻が捻じ曲がりそうな、そんなキツイ匂いを感じながら、ゆっくりと扉を開ける。亜澄にバレたら不味いから、ゆっくりと。
 扉を開けた先を歩く。どうやら、ここはリビングらしい。カーテンがガッチリ閉まっているこの部屋は、恐らく食事をする時のための机と椅子が、置かれていた。すぐ近くには台所があるからそうなのだろう……そこで、碧人は気づく。
 置かれている椅子が一つだけだった。
「……何で椅子が一つだけなんだ?」
 高校生だし、親……それか保護者が一人いてもおかしくないのに、何故か置いてある椅子は一つだけ。
「……!」