苗字の呼び捨てだ。別に自分は気にしないが、見た目の印象に対して結構気が強いのだろうか。
「遠藤には気をつけて」
「はい?」
 気をつけて? 何でそんな事を言ってくるのか、碧人には理解できなかった。
「あの女と関わり過ぎたら、取返しが付かない事になる」
「え……どういうこと? というか、そんなの言われても信じられないけど」
 知らない女子生徒から、自分の彼女が危険だ。みたいに言われたら少しは良い気にはなれないだろう。
「でも、あなたは遠藤に対して気になる事があると思う……例えば、積極的な割にはキス、みたいな大胆な行動を一切してこないとか」
「ッ……それは」
 鏡は、まさにここ数日辺りから碧人が気にし始めた事を指摘してきた。
 ……まるで、鏡は亜澄の事で何か知っている様な素振りを見せている様な。
「だけど! なんでそんな事を言うんだ。根拠とかあるのか?」
「まだ、明確な証拠がないから、何とも言えないけど」
「なんだそれ……」
 つまり、怪しい証拠とかなしにそんな事を? だとすると、飛んだハッタリをかまされているのでは、と碧人は内心少し苛立ちが生まれてきていた。
「けど、引っ掛かる事があるのなら、あの女には気を付けた方がいい」
「お、おう……」
「それじゃ、これで」
 そう一方的に忠告をしてくると、鏡はすぐ近くの廊下に向かって歩いて行った。
 一体、何だったんだ……。まるで、人の彼女を危険なやつみたいに扱ってきて……。