ホテル前の駅のプラットホームに着いた時、撫子はオーナーに訊いた。
「そういえば、終わった後の魂がこの世界をめぐっているなら、そもそも魂はどこで生まれるんでしょう?」
てっきり生まれ変わると思っていたが、どうやらそうではないらしい。
撫子の質問に、オーナーは少し考えて答える。
「魂がどうやって作られるかは、魂がどうやって浄化されるのかと同じようにお上とそのお迎えしか知りません。ただ、魂の終点は地の果て、魂の始点は空の彼方にあると昔から言われていますね」
「地の果てと空の彼方……」
撫子は想像しようとして、途方もない気持ちになった。
どちらも簡単には辿りつけそうにない場所だ。地の果ては近くまで行ったが、確かに見たわけではない。はっきりと見る時には終わる時だから、まだ見ていなくて当然だ。
「空の彼方にも世界が広がっているんでしょうか」
天を仰ぎながら言った撫子に、オーナーは何てことないように答えた。
「どちらでもいいじゃありませんか。あなたの帰る世界はもうここだけでしょう」
「そうなるんでしょうね」
撫子が何気なく答えると、オーナーは足を止める。
「撫子。もう一度言います」
オーナーは手を差し伸べて言った。
「私と結婚してくれませんか?」
撫子はえと、とうなりながら、おずおずとうつむいた。
「オーナー!」
ふいに切羽詰まった声が飛び込んでくる。
オーナーと撫子が振り向くと、チャーリーとヒューイがそこにいた。
「何かありましたか?」
オーナーが異変を感じたらしく早口に問うと、双子は目配せして言った。
「お客様がいらっしゃいました」
「それはいつものことじゃないの?」
撫子が思わず口を挟むと、チャーリーが首を横に振る。
「いえ、滞在なさるお客様ではなく……!」
「お待ちしておりました」
異質な声が水を打ったように響く。撫子が今までに耳にしたことのないような、重い響きが体に突き刺さる。
チャーリーとヒューイが恐れるように道を空ける。そこに地面に着くほどの長い黒髪を持つ男性が立っていた。
髪も瞳も漆黒、ネクタイもカッターシャツまで真っ黒のスーツ姿だ。
顔色は白というより青くて、目の下には濃いクマがある。けれど目から鋭い光を放ち、見る者にナイフのような印象を与えた。
彼は自分の身長ほどの鳥の翼を背に持っていた。撫子はその色合いと翼を見て、カラスが人の形を取ったらこんな風だと思う。
「撫子様ですね」
「まさか、撫子への使者ですか?」
撫子を庇うように前に出たオーナーからは、隠しきれない動揺が伝わってきた。
「あなたの時間が尽きかけています」
オーナーの言葉など意に介さないように、黒ずくめの青年は撫子だけを真っ直ぐに見て告げる。
「「お迎え」に上がりました」
「そういえば、終わった後の魂がこの世界をめぐっているなら、そもそも魂はどこで生まれるんでしょう?」
てっきり生まれ変わると思っていたが、どうやらそうではないらしい。
撫子の質問に、オーナーは少し考えて答える。
「魂がどうやって作られるかは、魂がどうやって浄化されるのかと同じようにお上とそのお迎えしか知りません。ただ、魂の終点は地の果て、魂の始点は空の彼方にあると昔から言われていますね」
「地の果てと空の彼方……」
撫子は想像しようとして、途方もない気持ちになった。
どちらも簡単には辿りつけそうにない場所だ。地の果ては近くまで行ったが、確かに見たわけではない。はっきりと見る時には終わる時だから、まだ見ていなくて当然だ。
「空の彼方にも世界が広がっているんでしょうか」
天を仰ぎながら言った撫子に、オーナーは何てことないように答えた。
「どちらでもいいじゃありませんか。あなたの帰る世界はもうここだけでしょう」
「そうなるんでしょうね」
撫子が何気なく答えると、オーナーは足を止める。
「撫子。もう一度言います」
オーナーは手を差し伸べて言った。
「私と結婚してくれませんか?」
撫子はえと、とうなりながら、おずおずとうつむいた。
「オーナー!」
ふいに切羽詰まった声が飛び込んでくる。
オーナーと撫子が振り向くと、チャーリーとヒューイがそこにいた。
「何かありましたか?」
オーナーが異変を感じたらしく早口に問うと、双子は目配せして言った。
「お客様がいらっしゃいました」
「それはいつものことじゃないの?」
撫子が思わず口を挟むと、チャーリーが首を横に振る。
「いえ、滞在なさるお客様ではなく……!」
「お待ちしておりました」
異質な声が水を打ったように響く。撫子が今までに耳にしたことのないような、重い響きが体に突き刺さる。
チャーリーとヒューイが恐れるように道を空ける。そこに地面に着くほどの長い黒髪を持つ男性が立っていた。
髪も瞳も漆黒、ネクタイもカッターシャツまで真っ黒のスーツ姿だ。
顔色は白というより青くて、目の下には濃いクマがある。けれど目から鋭い光を放ち、見る者にナイフのような印象を与えた。
彼は自分の身長ほどの鳥の翼を背に持っていた。撫子はその色合いと翼を見て、カラスが人の形を取ったらこんな風だと思う。
「撫子様ですね」
「まさか、撫子への使者ですか?」
撫子を庇うように前に出たオーナーからは、隠しきれない動揺が伝わってきた。
「あなたの時間が尽きかけています」
オーナーの言葉など意に介さないように、黒ずくめの青年は撫子だけを真っ直ぐに見て告げる。
「「お迎え」に上がりました」