男の唸る声が聞こえる。それと共に、身体の中に入っていた大きな物体から液体が溢れてくるのが分かる。ずるり、と引き抜かれる。それと同時に私は本のページを捲る。

 違法売春が、唯一社会に貢献できる場所として私を迎え入れてくれた。ただ下半身を壁の向こう側に出してればいいだけの仕事。ハイヒールを履いて足を開き、男を迎え入れる。醜い私が売春で食べていけるのは顔を見せなくて済むからだった。

 ぷ。手に唾液を吐き出す音が壁の後ろから聞こえる。先程の肉片が抜かれたかと思えば、間髪入れずに次だ。男性の唾液のついた乱暴な手で大事な場所をひと撫でされ、違う肉片がナカに突き刺さった。唾で濡らさなくてもいいのに、さっきまで挿入(はい)ってたんだから柔らかいわと思うけど、それも一種のプレイかと思うと興味が無くなる。ここは全て男性の意のままの世界だ。欲望の世界。私如きがどうにか出来る世界ではない。

 先程の客が出した精子が他の客によって混ぜられる。腰から下しか見えない身体は、男にとっては人間ではない。ただの人形に遠慮なんかはしない。動きに合わせて、読んでいる文字が揺れてしまう。それでも本を読めてしまうくらいにはここに馴染んでいる私がいた。

 上半身がある場所は自分の部屋として使っていいと雇い主に言われていた。下半身さえ男に使わせれば、壁の中でなにをしていても構わない、なにを持ち込んでも構わない、そう言われた私は大量の本に囲まれている。上半身は仕事に影響されないのが、人間を人間として扱わないここで働くなによりもの利点だった。

 私は読み終わった本を閉じて、新しい本に手を伸ばす。その瞬間だ──


「逃げてんじゃねぇよ」


 荒い息遣いの中で罵声を浴びせてくる男。本を取りたかっただけだが、男は自らの欲望を邪魔されたと思ったのだろう。ばちん、お尻を平手打ちされ伸ばした手を元に戻す。本の背表紙だけを見つめ、男が早く終わることを祈った。

 神にこの祈りが届かないと知っている。


 男の欲が吐き出される。また違う男の肉片が入ってくる。その繰り返し。私は娼婦以下だ。娼婦とは名乗れない。

 レオナルドは天から私を見ているのだろうか。私はあなたに顔向けが出来ないのです。ですが、生きていく為にどう行動したらよいのかあなたは教えてくれなかった。私は荒野に落とされた赤子です。


「溜まっていたものが無くなるのはいいが、やっぱりレイプは悲鳴を上げさせたいな」


 私の中から出て行った肉片がそんなことを呟いた。