私はそう言って、震える指でフォルダの削除ボタンを押そうとする。
でも、どうしても押せない。
私の決意はやっぱりちっぽけなものだった。
決意なんて、たくさんの思い出に勝てるはずがない。

結太は小さくため息をついた。
そして、私からスマホを取り上げる。

スマホやパソコンが得意な結太は、私のスマホをスルスルといじり始める。

そして、天高くスマホを持ち上げると、私の頬に顔を寄せて、せーので写真を撮った。

私がポカンとしていると、結太は、またスマホで何かをし始めた。


私は何だか切なかった。
自分で計画した卒業式なのに、自分がまだ何も整理できずにいる。

結太と結ばれる儚い夢も、家族の皆んなに結太を愛してるって宣言する小さな小さな夢も、今日、この場所で天高く空に捨てるつもりだったのに。

それなのに…

我慢していた涙は、ポロポロと容赦なくあふれ出した。
まるで、私の強がりを笑っているみたいに。


「ほら、これで大丈夫。

これは、俺からの楓への卒業証書、いや、俺達の卒業証書だな」


そこにはさっき撮った写真があった。
結太が好き勝手に落書きしてて、余白に桜のマークや、今日の日付、そして、卒業を許可する by結太 と大きな字で書いてある。