俺、和泉橙矢には、ずっと想いを寄せているやつがいる。
そいつは昔から騒がしいのが大好きで、友達と一緒にバカみたいに騒いだり、スマホで動画回したり。
自分が楽しみたいだけに見えるけど、その根底には人を楽しませたい、笑顔にしたいって思いがあること、ちゃんと知ってる。
でも、やっぱりあいつ……くるみはバカだ。
俺がそんな風に想ってることなんか、1ミリも気づいてないんだから。
……なんで俺がわざわざ寮に入ったと思ってんだよ。
動画のネタ集めになりそうだから、なんてふざけた理由で入寮した幼馴染の傍にいたかったからだぞ。
俺の方が百倍ふざけた理由なことはわかってる。
バスケにもっと集中したいから、なんてカッコつけたこと言ったけど、本当は惚れた女の視界にどうにかして入りたいだけの、バカな男なんだよな……。
「橙矢!なんか面白いことして!今撮ってるよ」
「ハア!?お前勝手に撮るなよ!」
「大丈夫、他の人にはちゃあんと許可取ってるから」
「俺にも取れ!!」
だけど、幼馴染以上の関係を未だに超えられない。
なんで俺はくるみが好きなんだろう。
なんでくるみじゃなきゃダメなんだろう。
自問自答しても、くるみだからとしか答えが出せない。
なんで俺たちは幼馴染として出会ったんだろうな。
幼馴染じゃなかったら、幼馴染として出会ってなかったら……
俺のこと、男として見てくれたんだろうか。
一番近くにいるのに、お前は俺の気持ちに気づかない。
一番近くにいるせいで、お前の気持ちに気づいちまう。
お前が誰を見てるのか、嫌でもわかっちまうんだよ。
「……なんで……っ」
くるみには動画を撮ろうとするけど、撮れない奴が一人いる。
あいつは俺のことは無許可で勝手に撮るけど、意外と気配りのできる奴なんだ。
クラスで動画撮る時も、いきなり回すことなんてなくて、一人一人にちゃんと尋ねている。
中にはカメラを向けられるのが苦手な奴もいるから、そういう奴のことは絶対撮らない。
だけど、最終的にはそんな奴も巻き込んで楽しい動画を撮ってしまうのが、くるみのすごいところでもある。
そんなくるみが唯一撮れないのが、九竜蒼永という男だ。
俺たちと同じ寮生で、剣道と空手で全国制覇する実力者。
うちの学校はスポーツの名門であり、かくいう俺も全国区のバスケ部強豪校に憧れて入学した。
寮に入ったのはくるみが理由だけど、バスケを頑張りたいってのも本当だ。
そんなうちの中学でも、九竜はズバ抜けていたと思う。
剣道と空手それぞれで全国優勝。しかもどっちも3連覇。
おまけに顔はアイドル級のイケメン。天は何物を与えてんだよ、って言いたいくらいだ。
とは言え、努力しなきゃこんな結果は出せてない。同じスポーツをやる者として、それはわかる。
しかも1年の時から同じ寮で生活してるんだ。九竜が本当にすごい奴ってこともわかってる。
わかってるけど――、くるみが惚れてる男なのが、悔しくて仕方ない。
いつからか、くるみは九竜にカメラを向けなくなっていた。
元々撮られるのが嫌いな奴だけど、くるみの押しの強さに負けることもあった。すっげー嫌そうな顔してたけど。
それが、いつの間にか九竜にカメラを向けることがなくなり、いつの間にか九竜に熱っぽい視線を向けるようになっていた。
俺には絶対に見せない表情。
一目で恋してる、ってわかっちまった。
……先に好きになったのは俺なのに。
ずっとお前のこと見てたのも俺なのに。
なんでなんだよ……。
「……。」
「……和泉、さっきから何?」
こいつのどこがいいんだよ……!
ちょっと顔が良くて運動神経良くて、腕っぷしが強いだけじゃねぇか……。
「九竜と橙矢、何してんの?」
もう一人の男子寮生、赤星が怪訝そうに俺たちを覗く。
ちなみに寮生は男女合わせて6人。去年もう一人女子がいたが、転校してしまった。
「……なんか和泉がめっちゃ見てくる」
「えー?橙矢、九竜のこと好きなの?」
「んなわけあるかっ!!」
「……。」
「お前もちょっと嫌そうな顔してんじゃねーよ!」
マジでなんでこいつが学校一モテてんのかわかんねぇ!!
全然笑わねーし無口だし無愛想のくせに!