九竜くんは寮を出て行った。
最後は笑顔で見送ることができて、スッキリしてる。
これで晴れやかに春を迎えることができそう。
そうだ、せっかくだから動画回そうかな。
「ヤッホー!くるみですっ!今日は卒業式だったんだ……っ」
いつも通り動画を撮り始めたのに、ボロっと大粒の涙が零れる。
……あれ?
なんでだろう、私ちゃんと笑えてるのに……。
「こんな時まで、ヘラヘラ動画撮ってんじゃねーよ」
「……橙矢……」
「バカじゃねーの?泣きたいなら泣けばいいだろっ!」
「……ぅっ、うわあああああああっ」
橙矢の言葉に、感情が爆発した。
なんでよ、なんでなのよ。
私は笑って終わりたかった。
橙矢なんて口が悪くてデリカシーないくせに、なんでこういう時は気づくのよ……っ。
なんで橙矢の前では子どもみたいに、大声で泣けちゃうんだろう……。
「……俺にしろよ……」
絞り出すような橙矢の一言は、私の泣き声に掻き消えた。
橙矢はハンカチを差し出すわけでもない。
無理矢理私の頭を自分の方に引き寄せて、泣き顔を隠すように寄り添ってくれた。
それがまたひどく安心できて、また涙が止まらなくなる。
私は橙矢の隣で泣き続けた。
この涙が枯れるまで。
* * *
さようなら、私の初恋。
15歳の恋は、こうして終わりを告げた。
でも、私は後悔なんかしてないよ。
九竜くんを好きになったことも、告白したことも。
受け取ってもらえなかったホワイトチョコも、全部後悔なんかしてない。
初恋の卒業とともに、私は前に進む。
だからどうか、幸せになってね。
あなたの好きな人と一緒に――。