「こんなケガを治してもらったというのに、せめてこれだけでも…!」

「お代なら結構です。気にしないでください」

「…しかし!」

「それなら、にんじんをいただいてもよろしいですか?山本(やまもと)さん家の畑で穫れるお野菜はみなおいしいと、村の人たちから聞きましたので」

「そんなものでいいのですかえ?」

「はい!」


それを聞いていた玻玖が、青ざめた顔で和葉の肩をたたく。


「…待て、和葉。にんじんは――」

「玻玖様。にんじんを食べられなくては、村の子どもたちに笑われますよ?」


和葉に言われると、玻玖はぐうの音も出ない。


こうして2人は、ささやかではあるが幸せ溢れる毎日を過ごしていた。



「和葉、愛してる」

「玻玖様、わたしもです」


今日も玻玖と和葉は、ともに月を見上げながら永遠の愛を誓い合うのだった。





『今宵、この口づけで貴方様を――』【完】