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あの日、僕らは勝利の女神ミツハが言った通りに、アマチュア高校生団体の中で優勝を勝ち取った。夕陽が大きく赤く染まる頃、それぞれが自分の相棒であるギター、ベース、スティックと、おそろいの小さなトロフィーを抱えて、会場を後にした。
アマチュアコンテストとはいえ、わりと大きな協賛がついていたようで、たくさんのインタビューをうけた僕らが帰路につけたのは閉会式が終了してからだいぶ経ってからだった。
「ふわー! 楽しかったぁあ!!」
夕陽の中、ぐん、と伸びをしてそう言ったミツハは、持っているトロフィーを大事そうに抱き締めて僕らを振り返った。
「そうだな、楽しかった」
珍しく、モモの口元にも笑みが浮かんでいた。僕なんかは言わずもがな、へらへらしっぱなしだった。
そのまま3人で他愛無い話をしながら、ぶらぶらと駅までの道を歩いた。と、「あっ」とミツハが声を上げた。
何かと思って彼女を振り返れば、ビルの大きなパネルに表示された映像を指さして、ミツハは言った。
「ねぇ! 次の目標は、あれにしようよ! あれに出るの!」
「え、あれって」
否応なしに目線を持っていかれるほどの、音量と色彩。それは、この国最大級の音楽番組のCMだった。
「…………は?」
「…………え?」
モモとこんなにも意見があったのは、ミツハのバンド宣言以来だったかもしれない。
「いや次の目標って、目標でかすぎだろ」
「そうだよミツハ、もうちょっと現実的なところで……」
「もー、これだからうちの男どもは!」
そう言ったミツハは、ちょうど青信号になった横断歩道で、一歩前に出て僕らを振り返る。
「夢はでっかく口に出す! これが夢を叶える第一歩だよ!!」
「……そうですか」
「……あっそ」
てきとうに相槌をうちながら、ギターとベースを背負いなおした僕らは、こっちを向きながら後ろ歩きを続けるミツハに付いて行く。
「もー! 信じてないな!? じゃあ私が、有言実行してあげる!!」
次の瞬間。
「絶対、3人で行こう!! 約束ね!」
そう言って最高の笑顔で笑ったミツハが、
僕らの目の前から消えた。