*
▶
「ついに、だね、モモ」
「そうだな、ナシ」
緊張で震えた声で話しかけた僕に、いつもと変わらず穏やかな低い声でそう答えたのは、幼馴染のモモ。
「モモ、緊張してないの」
「……してる」
「嘘だ、全然いつも通りじゃん……」
「ナシが緊張しすぎなだけだろ。なんだよその声」
「だって……」
手が震える。有名な音楽番組のロゴの入った進行表に、『桃坂ミツル』と『梨河サトル』の文字が書かれているのが、まだ夢のようで。
「……ナシ、手ぇ貸して」
「え」
唐突に落とされた言葉に目を瞬いた。僕が驚いている間に、深呼吸をしたモモは、そのまま舞台裏の薄暗い場所で肩から下げたベースを一度下ろして傍に置き、こちらに左手を差し出した。
「……手、貸して」
言い方が、先ほどとは違った。聞き覚えのあるその口調に、ぎゅう、と唇を噛み締めた。
無言で僕もギターを下ろした。そのまま、そっと指先を伸ばす。
ざらりとした彼の手に、僕の手のひらが重なった。
繋いだ手のひらから、ジワリと伝わる熱。
絡んだ指の、瑞々しさ。
蘇る、君の。
ああ、すきだった。
ほんとうに、僕は、君のことがすきだった。
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「ついに、だね、モモ」
「そうだな、ナシ」
緊張で震えた声で話しかけた僕に、いつもと変わらず穏やかな低い声でそう答えたのは、幼馴染のモモ。
「モモ、緊張してないの」
「……してる」
「嘘だ、全然いつも通りじゃん……」
「ナシが緊張しすぎなだけだろ。なんだよその声」
「だって……」
手が震える。有名な音楽番組のロゴの入った進行表に、『桃坂ミツル』と『梨河サトル』の文字が書かれているのが、まだ夢のようで。
「……ナシ、手ぇ貸して」
「え」
唐突に落とされた言葉に目を瞬いた。僕が驚いている間に、深呼吸をしたモモは、そのまま舞台裏の薄暗い場所で肩から下げたベースを一度下ろして傍に置き、こちらに左手を差し出した。
「……手、貸して」
言い方が、先ほどとは違った。聞き覚えのあるその口調に、ぎゅう、と唇を噛み締めた。
無言で僕もギターを下ろした。そのまま、そっと指先を伸ばす。
ざらりとした彼の手に、僕の手のひらが重なった。
繋いだ手のひらから、ジワリと伝わる熱。
絡んだ指の、瑞々しさ。
蘇る、君の。
ああ、すきだった。
ほんとうに、僕は、君のことがすきだった。