「ついに、だね、モモ」

「そうだな、ナシ」



 緊張で震えた声で話しかけた僕に、いつもと変わらず穏やかな低い声でそう答えたのは、幼馴染のモモ。



「モモ、緊張してないの」

「……してる」

「嘘だ、全然いつも通りじゃん……」

「ナシが緊張しすぎなだけだろ。なんだよその声」

「だって……」



 手が震える。有名な音楽番組のロゴの入った進行表に、『桃坂ミツル(とうさかみつる)』と『梨河サトル(なしかわさとる)』の文字が書かれているのが、まだ夢のようで。



「……ナシ、手ぇ貸して」

「え」



 唐突に落とされた言葉に目を瞬いた。僕が驚いている間に、深呼吸をしたモモは、そのまま舞台裏の薄暗い場所で肩から下げたベースを一度下ろして傍に置き、こちらに左手を差し出した。



「……手、貸して」



 言い方が、先ほどとは違った。聞き覚えのあるその口調に、ぎゅう、と唇を噛み締めた。

 無言で僕もギターを下ろした。そのまま、そっと指先を伸ばす。

 ざらりとした彼の手に、僕の手のひらが重なった。



 繋いだ手のひらから、ジワリと伝わる熱。

 絡んだ指の、瑞々しさ。
 蘇る、君の。


 ああ、すきだった。
 ほんとうに、僕は、君のことがすきだった。