「詩桜……僕を殺して、星巫女になって。もう、誰にも文句なんて、言われないように」

 それが遥斗の望みだというのか。けれど詩桜は、それを受け入れる事ができなかった。
 辰秋は、仲間に囲まれ幸せそうに笑っている詩桜の未来を見たと言う。
 遥斗を犠牲に星巫女の座を手に入れた自分は、はたして心から笑えるだろうか。

 否、笑えるわけない。

「わたしは……たとえ世界が滅びても、遥ちゃんがいればいいなんて、無責任な道は選べない」
「うん……だから、僕にとどめを」
「でも、だからって、遥ちゃんが犠牲になればいいとも思えないの」
 そんな自分の願いはワガママなのだろうか。

「地上の精気を奪いつくし闇を放つ……こんな僕が怖くないの?」

 彼の体を中心に植物たちは、みるみると枯れ果ててゆく。
 そんな彼が怖くないと言ったら嘘になる。禍々しい妖し風を、その身体から巻き起こしているのだから。けれど、それだけじゃない。詩桜は、いつも傍にいてくれた遥斗を知っているから。

「詩桜……」
 遥斗は朦朧としたまま薄っすらと瞼を持ち上げる。
 詩桜は恐れることなくそっと赤黒い痣に染められた左手を握りしめた。

「あなたはわたしの、一番の親友だよ。怖くなんかない」
「……君はバカだよ」
 力なくそう呻き泣きそうな顔をして、遥斗はついに意識を失ってしまった。

「遥ちゃんっ!」
 どうすれば遥斗を救えるのかわからない。
 でも、予言通り彼を倒せば星巫女になれるというなら、そんな地位いらない。

(そんなものいらないから、たとえ綺麗事だと言われても、わたしは倒すことじゃなく救う力が欲しい)

 そう強く願った瞬間、その思いに共鳴するように詩桜の身体と誓い刀から光が溢れ力が漲ってくる。

「これは……」

 自分に唯一ある特殊な力は、妖し風を清めることが出来る能力。
 狂鬼にしか使ったことがなかったけれど、闇に犯されている人間にも有効なのかもしれない。

「遥ちゃん、消えたりしないで。自分の未来を諦めないで」

 彼の身体ごと飲み込もうとする闇を押し返すように、詩桜の身体からは星巫女として覚醒した霊力が溢れ出す。

 この力が遥斗にも届くように、再び詩桜は立ち上がると清めの舞いを捧げた。
 力を使い果たし倒れるまで。