12月になり、寒さが本格化してきた頃。先輩はもうすぐるいくんの誕生日だと教えてくれた。
「24日のクリスマスイブなんだ。もうすぐだから、どこか行きたい場所ある?って聞いたらどこって答えたと思う?」
「んー遊園地とか?」
僕は5歳児がどんな場所を希望するのかわからず、ありきたりなイメージで答えてみた。
「いや、海だって」
「海⁉︎真冬ですよ?」
「そう!絶対やばいよね。多分寒すぎるよ」
るいくんの想像を超える答えに目を見開いた。そして子供は突拍子もない欲を素直に出せる、羨ましさすらあった。
「去年の夏に一度だけ海に行ったんだ。家族で。その時よっぽど楽しかったんだろうな」
「行くんですか?真冬の海」
「入らないよ?」
僕の質問に先輩はとぼけたような表情で冗談を言った。
「当たり前ですよっ!」
「ハハッ」
僕たちの朝はこんなふうにくだらないことで笑い合って、楽しいことを共有して。日常に新しいピースが増えたことへの喜びから、少しずつ人生に色が付くんだと初めて知った。先輩の言葉は冬の寒空にオレンジ色の虹をかけるような温もりがあった。そして僕はふと思い出した。まだ互いの名前すら知らないことを。