1月20日
「これは...?」
 俺はこの日、彼の母親から一つの封筒を受け取った。7時30分。サラサラと雪が降り、積もるまではいかなくとも凍える寒さの朝。
「預かっていたの。この場所に、この時間にいたら必ずあなたに会えるって、一真が」
「最近ばったり会わなくなったから心配だったんです。一真くん、どうしてますか?」
「……」
 彼女は俯いたまま何も言わず、華奢な腕に着けた時計をチラッと見ると
「ごめんなさい、そろそろ行かないと」
 そう言って俺と外壁の間を通り抜けた。
「あの、わざわざありがとうございました!」
 遠くなる背中にそう声をかけると、彼女はぴたりと足を止め振り返り深く一礼した。
「……一真」
 俺は、とある青年の名前をその時初めて知った。
 彼の母親から受け取った封筒をバッグにしまい、時計を確認すると、電車の時間があと3分に迫っていた。俺は久々に全力で住宅街を駆け抜け、駅まで走り続けた。改札を通ろうと定期をかざすと、ホームに電車が到着した。
 間一髪、間に合った電車に乗り、空いている座席に腰をかけた。
 呼吸を整えながら、受け取った封筒をバッグから取り出す。中身を確認すると文字が丁寧に並べられたA4用紙が約30枚。一番最初に刷られた文字は『人生で最も』だった。