「……ぼやけてるの?」松野が言う。
「ああ。なんか、いつもより画質悪いんだ」孝慈が写真を見せる。
 和歌子が前を見たまま言う。
「なんとか未来写真が撮れたのは良いのですが、ちょっと解りづらいかもしれません。急いで撮ったので、画質も角度も悪いです」
「そういうものなの?」
 彼女の言うとおり、ちょっと画質が悪い。それに、写真のターゲットが遠く、どことなく右端にずれて寄っている。
 例えるなら、バスの中で、遠くに見えるビルをカメラのズーム機能で無理やり撮ったような感じだ。
「未来写真は、ターゲットが遠いとこんなふうに不鮮明になっちゃいます。普通のカメラが、ぶれたりピントがぼやけたりするようなものです」
 言い終える頃には、和歌子はずいぶんと先に行ってしまった。
「あ、待ってよ」
「……ちょっと、その写真貸してくれ」
「うん」
 孝慈は僕から写真を受け取ると、歩きながらじっと見始めた。やや首をかしげてもいる。写真に気になる部分でもあったのだろうか。
 曲がり角の前のファミレスで、僕たちはよくやく和歌子に追い付く。和歌子はというと、走るのをやめて、困ったように立ち止まっていた。
「どうしたの?」
「いえ、どうやら白河さんを見失っちゃったみたいで」
「そうなの?」僕は視線をさまよわせる。「なら、先輩を追いかけないと――ええと」
 ここはさっき白河先輩が歩いていった場所のはずだが、すでに別の角をまわったか、あるいは建物の中に入ったのか、姿が見当たらない。
 位置的には、学校の時計台は建物に隠れて、尖塔のてっぺんがわずかに見えるだけだった。
 白河先輩が曲がった角はちょうどファミレスの入り口で、お店のガラスの奥には、歌高生や他校の生徒達とおもわしき私服や制服姿のグループが見えた。
 クラスメイトや隣のクラスの男女の姿もある。集団の中に白河先輩の姿を探そうとするが、店内にはいないようだった。
「完全に見失っちゃったよ、どうすれば……」
「なんだ、先輩居なくなっちゃったのか?」
と孝慈が手に持った写真にじっと目を向けたまま言う。
 周囲のようすには目もくれずに熱心に見ているが、写真の何に気づいたんだろう。
「……でも、和歌子ちゃんなら追跡できるよね。稲田先生のときみたいに」松野が言った。
「それは厳しいです……」和歌子が首を振る。
「……どうして?」
「あれを見てください」和歌子は遠くを指差す。
 彼女の人差し指の先では、ビル街の隙間から旧校舎の時計塔の上端だけが針のように覗いている。
「時計塔からこの駅前は、ほとんど見えません。
 本体から探そうにも、障害物が多くて、反応をたどるのに苦労しそうです。
 それもあって、駅前は、わたしの力が及ぶか及ばないかの境界の場所です」
「じゃあ稲田先生の時みたいに追いかけられないの?」
「ええ、難しそうです。ここは力が弱まっていて、わたしの能力を、不幸を感知するレーダーやアンテナと言い切るとすれば、駅前では電波が悪く、精度が落ちています」