痣のところに手を当てて回復魔法を施していき、綺麗に治してしまった。

「獣人の体は人より丈夫なんですね」

 悪いと思ったけど、女の子の肌を押すと、思うより弾力があった。わたしの腕なんてぷにぷによ。これで冒険者やれるのか?

「筋肉密度が違うのかな? 折れてないところをみると骨の密度も高いみたいね」

 人間より獣に近いのかな? 爪もなんか尖っているわね。歯もちょっと尖っているわ。

「服の縫い方からして縫製技術も高そうね。生地もかなりいいわ。地位がある子なのかしら?」

 見た目は十二、三歳。汚れているけど、髪の色は金色か。ちゃんと洗ったら輝きそうね。

「キャロ。そのくらいにしたら」

 あ、そうね。好奇心に我を忘れたわ。

 体を拭いてあげ、わたしの替えの下着を着させて毛布を掛けた。

「ラレア様。ありがとうございました」

 わたしがお礼を言う立場でもないけど、この子から情報を得ようとしているのだからわたし預かり、ってことになる。保護者(?)として責任を持ちましょう。

「これが仕事だからね。あなた、どこでそんな知識を得たの?」

「知識?」

「あなたの言動は人体をよく知っている言動だったわ」

「そうなんですか? ごく一般的な知識だと思うんですけど……」

 わたし、何か難しいことやった? 見たまんまのことを述べていただけなんだけど。まあ、病院暮らしが長かっから先生の真似事はしたと思うけどさ。

「そんな一般的な知識を冒険者見習いが知っているわけないでしょう」

 いや~そう言われても~。一般的な知識でしかないしな~。

「……まあ、いいわ。バイバナル商会が預かっている子ですしね」

「後学のために魔法医って固有魔法がないとなれないものなんですか?」

「それなりの素質がないとなれないものだけど、固有魔法がなくてもなれるわよ」

 それに環境も整ってないとダメってことか。まあ、お医者さんもなるまで大変でお金が掛かるようだしね、この時代ならさらになるのは厳しいんでしょうね。

「素質は魔法ってことですか?」

「それは危険な考えるだから止めておきなさい」

 あー。これは魔法がなくても治療が出来ることを上のほうは理解しているってことか。この時代にも利権だなんだとあるものみたいね……。

「ありがとうございます。以後、気を付けます」

 これは忠告だ。目を付けられないようにしないとね。

「……本当に賢い子なのね……」

「まだまだ世間知らずな小娘ですよ。処世術も学ばないとダメだってことがわかりました」

 後ろ盾や伝手だけではなく処世術も必要とか、生きるって大変だわ。まあ、それでも身に付けなければ生きられないのなら身に付けるまでだ。わたしはやりたいことがいっぱいあるんだからね。

「ティナ。クルスさんを呼んで来て。ラレア様。ラレア様のほうからクルスさんに説明をお願いします。看病はわたしがしますので」

 わたしも話を聞きたいところだけど、その場にわたしはいないほうがいいでしょう。きっとわたしのことを話し合うでしょうからね。

「わかったわ。クイス。支度を」

「はい、先生」

 道具や服を片付け始めるお弟子さん。師弟制度なのかしら?

 片付けが終わると二人は出て行き、わたしは飲み水を用意する。

 脱水症状にはなってないみたいだけど、唇はカサカサだ。食べてもいないなら飲んでもいないんでしょうね。

 布に水を含んで唇に当てると、無意識に布を吸い出した。

「体が水を求めていたみたいね」

「そういう知識を見せるから怪訝に思われるのよ」

 ルルがベッドに上がって来て、器用に嘆息した。猫としての構造間違ってない?

「で、あの魔法医を追い出して何するの?」

「追い出したなんて人聞きが悪いわね。わたしは身を引いただけよ」

「悪知恵が働くこと。あんなに素直な子だったのに」

 わたしとあなたは一年とちょっとの付き合いでしょうが。

「回復魔法は見たし、治癒力を高める付与をこの子に掛けてみるわ」

 ただ、転写って建前だから布で作った腕輪を作り、腕につけてあげた。

 治癒力上昇の付与を施し、様子を見る。
 
 唇に濡らした布を当てていると、獣人の女の子が目を覚ました。

 髪と同じ金色の瞳。何か高貴そうな目よね。お姫様ってオチじゃないでしょうね?

 いきなり飛び掛かることはなく、知らない天井に戸惑っているようだった。

「自分の名前は言える?」

 わたしの声に反応してこちらに目を向けた。

「名前、言える?」

 優しい声音でもう一度尋ねた。

「……マ…リカル。マリカル・ルーナイ……」

 名字持ちか。やはりいい家の出っぽいわね。

「マリカルね。わたしはキャロル。あなたを助けた人たちの仲間よ。自分が倒れたときの記憶、ある?」

「……崖から落ちて、誰かに助けられた……」

 崖から落ちたんだ。よく生きてたわね。獣人の肉体、どんだけよ?

「水、飲める?」

 うんと頷いたので、上半身を起こして白湯を飲ませた。

「……ありがとう……」

「どう致しまして。体はどう? 痛いところはある?」

 ううんと首を振った。やはり回復魔法って凄いのね。付与魔法で代用できないかな? いや、怪我や病気にならないようにしたほうが早いか。

「痛くはないけど、凄くダルい」

 回復魔法の影響かしら? 外からのエネルギーで治るってわけでもなささうね。

「もうちょっと休んだら胃に優しいものを入れましょうね。今は白湯を飲んで体を慣れさせましょうか」

 残りの白湯を飲ませたら眠くなったのでしょう。横にさせたらすぐ眠りに付いてしまったわ。