お二人に泊まりに来るよう誘ったけど、わたしたちにはやることがあるので、お二人には自由行動してもらうことにした。
「すみません。相手出来なくて」
「構いませんよ。こうしてのんびり出来ることなんてありませんからね」
「ええ。この人は仕事仕事ばかりでしたからね」
仕事人間だったんだ。それなら余計に暇なんじゃないかしら?
「もし暇なら陶器でも焼いてみますか? ティナのお母さんが窯焼きをしていたので道具は揃えているんですよ」
ティナの両親って多才なのか、ここって何気に充実しているのよね。窯もその一つで、なかなかしっかりした窯があるのよね。
「老後に窯焼き、ってのもいいかもしれませんよ。まあ、レンラさんにはまだ早いかもしれませんがね」
まだ引退する歳でもない。商人の定年って知らないけど、まだまだ働き盛りでしょうよ。
「わたしたちが冒険者として旅立ったらここを自由に使ってください。それまで快適にしておきますんで」
老後、山でスローライフってのも悪くないでしょうよ。レンラさんならお金も持っているでしょうし、使用人とか雇えばそう大変な暮らしにはならないでしょうよ。
「宿屋にするのもいいかもしれませんね。お金持ちなら泊まりに来るんじゃないですかね? 美味しい料理とお風呂を売りにすれば」
まだペンションとかの概念はないはず。娯楽も少ないんだし、ちょっとした旅行なら需要はあるんじゃないかしら? 日帰り宿屋も今では娯楽施設になっている。
あそこが庶民の娯楽ならペンションはちょっと裕福な人の娯楽になるんじゃないかな? ゴルフでも広めようかしら?
「キャロルさんは、本当におもしろいことを考えますね」
「考えただけですよ。それをどういう形にするかは別問題。子供の戯れ言です」
「その戯れ言がすべて商売になっていて、少なからず儲けとなっています。キャロルさんの言葉は無視できませんよ」
「そんなものですかね?」
わたしは思い付きでやっているだけ。勝算とかまるでないわ。まあ、どう考えるかはレンラさんの自由。好きなように山の家で過ごしてもらい、そして、帰って行った。この近くに家を建てさせてもらいますと言い残してね。
「何だか大袈裟なことになりそうね」
「いいんじゃない」
「ティナは嫌じゃなかった? 勝手に言っちゃったけどさ」
「構わないよ。ボクはキャロと冒険者になると決めたし。それに、もう実家はここじゃない。キャロやおばさん、おじさんがいるあの家だしね」
なかなか可愛いことを言うティナに抱き付いた。
「わたしたちは姉妹。家族だよ」
ティナのほうが年上だけど、わたしの中では妹だ。この先、どんなことがあろうとも妹を守ると誓うわ。
「はいはい。じゃあ、狩りに行って来るよ」
ひょいとわたしの腕の中から逃げ出し、狩りに出掛けて行った。ティナのイケず!
「……まあ、わたしも麦麹に挑戦しましょうかね。醤油が食べたいしね」
醤油の味なんて忘れちゃったけど、美味しくなればオッケーよ。米麹を作るわけじゃないんだしね。
麦麹に挑戦しながらあれこれやっていると、また馬車がやって来た。
「今度は誰かしら?」
落ち着いて実験も出来ないわね。
ティナは山菜採りに出ているので、わたしとルルで迎えた。
「料理長さん!?」
馬車に乗っていたのは料理長さんと側仕えのミーカさんだった。
「どうしたんです? 料理長ともあろう人が……」
てか、伯爵家の料理はいいの?
「伯爵様方は王都に移ったからな、その間、お嬢ちゃんにパン作りを教わろうと思ってな」
わたしみたいな小娘から、何て今さら。そこは問題じゃない。伯爵家の料理人が付いて行かなくていいものなの?
いろいろ聞きたいので、まずは家に招き入れた。
お茶はレンラさんが持って来てくれたので、カフェオレ(見た目は紅茶なんだけどね)にして出した。
「王都の館にも料理人はいるからな、伯爵様方が帰って来るまでは城の者たちの食事を作る。だが、今は充分足りているからな、お嬢ちゃんのところに教わりに行こうと思ったのさ。柔らかいパンは限られた者にしか伝承されないからな」
そうなの? 長い歴史があれば誰か見つけているものなんじゃない? 伝承されるもの?
「わたしって、不味いことしました?」
「まあ、そうだが、だからと言って法で縛れることじゃない。バイバナル商会が売り出すならお嬢ちゃんに害はないさ」
それはよかった。わたし、何かやっちゃいました? になるところだったわ。
「でも、いいのか? あれは一財産になるものだぞ」
「お金は大切ですが、だからと言ってお金に縛られる人生はしたくありません。お金よりコネのほうが後々役に立ちますからね」
わたしは豪華な暮らしがしたいんじゃない。自分の足で世界を見ることがしたいのよ。人生を楽しみたいのよ。
「……相変わらず歳に見合わない考えをするお嬢ちゃんだ……」
「わたしはただ、冒険者になりたいだけです。まあ、冒険者の修業に来て、それらしいことしてませんがね」
あれやこれやとやりたいことが多くて本当に困るわ。もっと早くに前世の記憶が蘇って欲しかったわ。
「で、料理長さんたちはしばらく滞在するんですか?」
「ああ、構わないか? 料理は任せてくれ。そして、新しい料理があるなら教えてくれ。もちろん、酵母の作り方もな」
道具は揃えてきたと言うので承諾することにした。料理の時間が削れるなら他のことも出来るしね。
「すみません。相手出来なくて」
「構いませんよ。こうしてのんびり出来ることなんてありませんからね」
「ええ。この人は仕事仕事ばかりでしたからね」
仕事人間だったんだ。それなら余計に暇なんじゃないかしら?
「もし暇なら陶器でも焼いてみますか? ティナのお母さんが窯焼きをしていたので道具は揃えているんですよ」
ティナの両親って多才なのか、ここって何気に充実しているのよね。窯もその一つで、なかなかしっかりした窯があるのよね。
「老後に窯焼き、ってのもいいかもしれませんよ。まあ、レンラさんにはまだ早いかもしれませんがね」
まだ引退する歳でもない。商人の定年って知らないけど、まだまだ働き盛りでしょうよ。
「わたしたちが冒険者として旅立ったらここを自由に使ってください。それまで快適にしておきますんで」
老後、山でスローライフってのも悪くないでしょうよ。レンラさんならお金も持っているでしょうし、使用人とか雇えばそう大変な暮らしにはならないでしょうよ。
「宿屋にするのもいいかもしれませんね。お金持ちなら泊まりに来るんじゃないですかね? 美味しい料理とお風呂を売りにすれば」
まだペンションとかの概念はないはず。娯楽も少ないんだし、ちょっとした旅行なら需要はあるんじゃないかしら? 日帰り宿屋も今では娯楽施設になっている。
あそこが庶民の娯楽ならペンションはちょっと裕福な人の娯楽になるんじゃないかな? ゴルフでも広めようかしら?
「キャロルさんは、本当におもしろいことを考えますね」
「考えただけですよ。それをどういう形にするかは別問題。子供の戯れ言です」
「その戯れ言がすべて商売になっていて、少なからず儲けとなっています。キャロルさんの言葉は無視できませんよ」
「そんなものですかね?」
わたしは思い付きでやっているだけ。勝算とかまるでないわ。まあ、どう考えるかはレンラさんの自由。好きなように山の家で過ごしてもらい、そして、帰って行った。この近くに家を建てさせてもらいますと言い残してね。
「何だか大袈裟なことになりそうね」
「いいんじゃない」
「ティナは嫌じゃなかった? 勝手に言っちゃったけどさ」
「構わないよ。ボクはキャロと冒険者になると決めたし。それに、もう実家はここじゃない。キャロやおばさん、おじさんがいるあの家だしね」
なかなか可愛いことを言うティナに抱き付いた。
「わたしたちは姉妹。家族だよ」
ティナのほうが年上だけど、わたしの中では妹だ。この先、どんなことがあろうとも妹を守ると誓うわ。
「はいはい。じゃあ、狩りに行って来るよ」
ひょいとわたしの腕の中から逃げ出し、狩りに出掛けて行った。ティナのイケず!
「……まあ、わたしも麦麹に挑戦しましょうかね。醤油が食べたいしね」
醤油の味なんて忘れちゃったけど、美味しくなればオッケーよ。米麹を作るわけじゃないんだしね。
麦麹に挑戦しながらあれこれやっていると、また馬車がやって来た。
「今度は誰かしら?」
落ち着いて実験も出来ないわね。
ティナは山菜採りに出ているので、わたしとルルで迎えた。
「料理長さん!?」
馬車に乗っていたのは料理長さんと側仕えのミーカさんだった。
「どうしたんです? 料理長ともあろう人が……」
てか、伯爵家の料理はいいの?
「伯爵様方は王都に移ったからな、その間、お嬢ちゃんにパン作りを教わろうと思ってな」
わたしみたいな小娘から、何て今さら。そこは問題じゃない。伯爵家の料理人が付いて行かなくていいものなの?
いろいろ聞きたいので、まずは家に招き入れた。
お茶はレンラさんが持って来てくれたので、カフェオレ(見た目は紅茶なんだけどね)にして出した。
「王都の館にも料理人はいるからな、伯爵様方が帰って来るまでは城の者たちの食事を作る。だが、今は充分足りているからな、お嬢ちゃんのところに教わりに行こうと思ったのさ。柔らかいパンは限られた者にしか伝承されないからな」
そうなの? 長い歴史があれば誰か見つけているものなんじゃない? 伝承されるもの?
「わたしって、不味いことしました?」
「まあ、そうだが、だからと言って法で縛れることじゃない。バイバナル商会が売り出すならお嬢ちゃんに害はないさ」
それはよかった。わたし、何かやっちゃいました? になるところだったわ。
「でも、いいのか? あれは一財産になるものだぞ」
「お金は大切ですが、だからと言ってお金に縛られる人生はしたくありません。お金よりコネのほうが後々役に立ちますからね」
わたしは豪華な暮らしがしたいんじゃない。自分の足で世界を見ることがしたいのよ。人生を楽しみたいのよ。
「……相変わらず歳に見合わない考えをするお嬢ちゃんだ……」
「わたしはただ、冒険者になりたいだけです。まあ、冒険者の修業に来て、それらしいことしてませんがね」
あれやこれやとやりたいことが多くて本当に困るわ。もっと早くに前世の記憶が蘇って欲しかったわ。
「で、料理長さんたちはしばらく滞在するんですか?」
「ああ、構わないか? 料理は任せてくれ。そして、新しい料理があるなら教えてくれ。もちろん、酵母の作り方もな」
道具は揃えてきたと言うので承諾することにした。料理の時間が削れるなら他のことも出来るしね。