次の日、藁をもらいに山を降りた。
藁は家畜のエサや寝床になるので、売ってくれるところは結構あり、おとうちの知り合いのところで荷台一杯に売ってもらった。
「今さらですけど、ローダルさん、仕事はいいんですか?」
何の商売をしているか未だに知らないけど、何日もわたしたちに付き合ってていいのかしら?
「問題ない。今、一番の商売相手と取引しているからな」
一番の商売相手? って、わたしたちのこと? わたしたち、そんなに儲ける商売してないけど?
「おれの勘が、お嬢ちゃんたちの発想には金一万枚の価値があると言っている。だから今のうちに恩を売っておくのさ」
「わたしたちにそんな価値があると思えないんですけど」
所詮、わたしは若くして死んだ身。勉強だって知識だってそこまで深いわけじゃない。漫画や小説の薄い知識しかない。とても金一万枚の情報なんて持ってないわ。
「いや、お嬢ちゃんたちには価値がある。おれはおれの勘を信じる。まあ、今はそう思っておけばいい。だが、お嬢ちゃんたちを一番買っているのはおれだと知っておいてくれ。お嬢ちゃんたちに一番買っている商人はおれだと思われるようがんばるからさ」
「……変わってますね、ローダルさんは……」
儲けたいならもっと違うことすればいいのに、こんな小娘にそんなこと言うんだから。
「一番の褒め言葉だ」
「…………」
自信満々に言うローダルさんに何も言えなくなってしまった。
ま、まあ、悪い人じゃないし、商人との伝手を持っているのは悪いことじゃない。仲良くしようって言うなら仲良くしておきましょう。
「そうそう。マッチを置きにバイバナル商会に向かうな」
「わかりました。ティナ。悪いけど、実家から卵をもらってきて。マヨネーズを作るから」
「あれか! 任せて! ルル、行くよ!」
なぜかルルまで連れて行ってしまった。
「何だ、マヨネーズって?」
「調味料の一つですね。いろいろ作ってみて発見したものです。食材をたくさん無駄にしてお母ちゃんに怒られて封印してたものですが、今は食材があるのでまた挑戦しようと思ったんです」
わたしの付与魔法とルルの結界があれば簡単に作れるはず。前はちょっと作ってティナに味見したらマヨネーズに取り憑かれちゃったのよね。でも、作るの大変だったから我慢させてたのよ。
「あ、酢も買わなくちゃならないか。材料、何が必要だったっけ?」
何て考えながらバイバナル商会に向かい、ローダルさんがマッチを渡している間に酢と油を大量に買った。
「お待たせ」
一時間くらいしてローダルさんが戻って来た。
「随分と時間が掛かりましたね? 売れませんでした?」
火をつけるなら火打石や置き火でもいいんだしね。お金持ちなら火を点けるのに拘らないでしょうよ。
「いや、売れた。それどころかもっと欲しいと言われた」
「あらら」
「あらら、じゃない。お嬢ちゃんが作ることになるんだぞ。次来るときは倍は欲しいと言われたよ」
「倍もですか? 需要ありすぎじゃないですか?」
どこで求められてんのよ? 火を点けるくらいいくらでも方法があるってのにさ。
「コルディアム・ライダルス王国って聞いたことあるか?」
「いえ、ありません。と言うか、この国の名前も知りません」
お城で聞きそうなものだけど、なぜか耳にすることはなかった。まあ、そのうち聞くだろうと呑気にしてたら聞かず仕舞いに終わっちゃったわ。
王国や王都で話が通じたからね。わざわざ国名を出す機会もなかったし。
「ニーシアリ王国だ。コルディアム・ライダルス王国に比べたら小国だが、魔物が少ない地で住みやすい国だな。まあ、それでも魔物の被害はあちらこちらで起こっているがな」
ファンタジーな世界は危険なのね。やはりわたしも何か武器を持ったほうがいいかもしれないわね。何がいいかしら?
「少し前からコルディアム・ライダルス王国からタバコが輸入され、貴族の間では人気になっているだよ」
「あー。前に言ってましたね」
「タバコは火を点けて吸うものだ」
「ですね。あ、コルディアム・ライダルス王国にもマッチがあるんですか?」
「いや、ライターって魔道具がある。十数回火が出せるものだ。貴族の必須とされている。だが、ライターは高額でありこの国の貴族でもかなり高位でなければ持つことも出来ない」
「そこでマッチと言うわけですか」
「ああ。ライターには劣るが、持ち運べるのがいい」
「綺麗な箱か布に入れると見映えはしますしね」
「箱か。そこまでは考えなかった。どういう箱がいいんだ?」
普通の箱でええやん。って言葉は飲み込んでおく。
「うーん。すぐには思い付きませんけど、貴族の男性の服に入れやすいものがいいんじゃないですか? マッチなんて十本も入っていればいいんですから」
貴族の服なんてそうじっくり見たわけじゃないし、人の前に立つ服も知らない。そういうのは貴族の服を作っている人にやらせたらいいんじゃないの?
「そうだな。それは後々で構わないか。で、マッチは作ってくれるのか?」
「まあ、毎日三十本は作れるので十日に一回くらいに取りに来てくれたら三百本は渡せますよ。毎日やっていれば上達するかもしれませんしね」
面倒になったら一気に作っておけるしね。
「まあ、いきなりたくさん売るのも価値が下がるしな。うん。十日に一回取りに行くとしよう」
何だかマッチを売るだけで一財産築けそうだわ。
藁は家畜のエサや寝床になるので、売ってくれるところは結構あり、おとうちの知り合いのところで荷台一杯に売ってもらった。
「今さらですけど、ローダルさん、仕事はいいんですか?」
何の商売をしているか未だに知らないけど、何日もわたしたちに付き合ってていいのかしら?
「問題ない。今、一番の商売相手と取引しているからな」
一番の商売相手? って、わたしたちのこと? わたしたち、そんなに儲ける商売してないけど?
「おれの勘が、お嬢ちゃんたちの発想には金一万枚の価値があると言っている。だから今のうちに恩を売っておくのさ」
「わたしたちにそんな価値があると思えないんですけど」
所詮、わたしは若くして死んだ身。勉強だって知識だってそこまで深いわけじゃない。漫画や小説の薄い知識しかない。とても金一万枚の情報なんて持ってないわ。
「いや、お嬢ちゃんたちには価値がある。おれはおれの勘を信じる。まあ、今はそう思っておけばいい。だが、お嬢ちゃんたちを一番買っているのはおれだと知っておいてくれ。お嬢ちゃんたちに一番買っている商人はおれだと思われるようがんばるからさ」
「……変わってますね、ローダルさんは……」
儲けたいならもっと違うことすればいいのに、こんな小娘にそんなこと言うんだから。
「一番の褒め言葉だ」
「…………」
自信満々に言うローダルさんに何も言えなくなってしまった。
ま、まあ、悪い人じゃないし、商人との伝手を持っているのは悪いことじゃない。仲良くしようって言うなら仲良くしておきましょう。
「そうそう。マッチを置きにバイバナル商会に向かうな」
「わかりました。ティナ。悪いけど、実家から卵をもらってきて。マヨネーズを作るから」
「あれか! 任せて! ルル、行くよ!」
なぜかルルまで連れて行ってしまった。
「何だ、マヨネーズって?」
「調味料の一つですね。いろいろ作ってみて発見したものです。食材をたくさん無駄にしてお母ちゃんに怒られて封印してたものですが、今は食材があるのでまた挑戦しようと思ったんです」
わたしの付与魔法とルルの結界があれば簡単に作れるはず。前はちょっと作ってティナに味見したらマヨネーズに取り憑かれちゃったのよね。でも、作るの大変だったから我慢させてたのよ。
「あ、酢も買わなくちゃならないか。材料、何が必要だったっけ?」
何て考えながらバイバナル商会に向かい、ローダルさんがマッチを渡している間に酢と油を大量に買った。
「お待たせ」
一時間くらいしてローダルさんが戻って来た。
「随分と時間が掛かりましたね? 売れませんでした?」
火をつけるなら火打石や置き火でもいいんだしね。お金持ちなら火を点けるのに拘らないでしょうよ。
「いや、売れた。それどころかもっと欲しいと言われた」
「あらら」
「あらら、じゃない。お嬢ちゃんが作ることになるんだぞ。次来るときは倍は欲しいと言われたよ」
「倍もですか? 需要ありすぎじゃないですか?」
どこで求められてんのよ? 火を点けるくらいいくらでも方法があるってのにさ。
「コルディアム・ライダルス王国って聞いたことあるか?」
「いえ、ありません。と言うか、この国の名前も知りません」
お城で聞きそうなものだけど、なぜか耳にすることはなかった。まあ、そのうち聞くだろうと呑気にしてたら聞かず仕舞いに終わっちゃったわ。
王国や王都で話が通じたからね。わざわざ国名を出す機会もなかったし。
「ニーシアリ王国だ。コルディアム・ライダルス王国に比べたら小国だが、魔物が少ない地で住みやすい国だな。まあ、それでも魔物の被害はあちらこちらで起こっているがな」
ファンタジーな世界は危険なのね。やはりわたしも何か武器を持ったほうがいいかもしれないわね。何がいいかしら?
「少し前からコルディアム・ライダルス王国からタバコが輸入され、貴族の間では人気になっているだよ」
「あー。前に言ってましたね」
「タバコは火を点けて吸うものだ」
「ですね。あ、コルディアム・ライダルス王国にもマッチがあるんですか?」
「いや、ライターって魔道具がある。十数回火が出せるものだ。貴族の必須とされている。だが、ライターは高額でありこの国の貴族でもかなり高位でなければ持つことも出来ない」
「そこでマッチと言うわけですか」
「ああ。ライターには劣るが、持ち運べるのがいい」
「綺麗な箱か布に入れると見映えはしますしね」
「箱か。そこまでは考えなかった。どういう箱がいいんだ?」
普通の箱でええやん。って言葉は飲み込んでおく。
「うーん。すぐには思い付きませんけど、貴族の男性の服に入れやすいものがいいんじゃないですか? マッチなんて十本も入っていればいいんですから」
貴族の服なんてそうじっくり見たわけじゃないし、人の前に立つ服も知らない。そういうのは貴族の服を作っている人にやらせたらいいんじゃないの?
「そうだな。それは後々で構わないか。で、マッチは作ってくれるのか?」
「まあ、毎日三十本は作れるので十日に一回くらいに取りに来てくれたら三百本は渡せますよ。毎日やっていれば上達するかもしれませんしね」
面倒になったら一気に作っておけるしね。
「まあ、いきなりたくさん売るのも価値が下がるしな。うん。十日に一回取りに行くとしよう」
何だかマッチを売るだけで一財産築けそうだわ。