日帰り宿屋の手伝いをしながら狩りに道具作りに勤しんでいると、屋台組のミリアがお城からの手紙を持って来た。
お嬢様が帰って来たのかなと手紙を読むと、お友達係の解任と、その説明をしたいからお城に来てくれとのことだった。
いったい何が起こったの? とは思うものの、行かなければわからないのだから行くしかない。
次の日、屋台組の馬車に揺られてお城に向かった。
お友達係は解任されたけど、お城に入ることは出来たので、部屋で着替えてからマリー様にお会いした。
「お嬢様は、第一王子様の婚約者候補として王宮に上がることになったのよ」
説明を聞いたらそんなことが返ってきた。
「もう帰って来ないのですか?」
「そうね。候補者が決まるまでは帰って来ないと思うわ。わたしも来年の春には王都に行くことになるでしょう。婚約者候補として恥ずかしくない環境を整えないといけませんからね」
「ナタリア婦人もですか?」
「ええ。ナタリア婦人は王都の出ですからね。お嬢様の教育には必要な方です」
つまり、お嬢様に仕えていた方々はすべて王都に移るってことか。まだ学びたいことやお嬢様と話をしたかったのに……。
「とても残念です。お嬢様もあなた方を気に入っていましたからね」
「わたしたちも残念です。お嬢様ともっと仲良くなりたかったです。あの、マリー様は来年に王都に向かうならお嬢様に届けて欲しいものがあります。迷惑でなければお届けいただけませんでしょうか?」
お嬢様には何かとお世話になった。わたしに出来るお礼をしたいわ。
「ええ、いいわ。わたしもお願いしたいこともあるからね」
「何でしょうか?」
「料理の作り方を書いたものをいただけないかしら? もちろん、お礼はします」
「わかりました。冬の間に書いて、お嬢様に渡すものも作ってしまいます」
「ありがとう。お嬢様に手紙も書いてちょうだい。思い出もお嬢様の支えとなるからね」
「あ、ルルはどうしますか?」
ちなみにルルはティナの背中にしがみついています。
「あなたが預かってちょうだい。ルルを連れて行くわけにはいかないから」
「では、お嬢様がここに帰って来るまで預かっておきますね」
ルルはお嬢様の飼い猫。ルルがどう思おうとお嬢様に飼われていたのならお嬢様の猫なのよ。
「大切にしてあげて」
お礼を言い、部屋を片付けてお城を後に──しようとしたら料理長さんに呼び止められてしまった。
「料理の作り方、おれにも書いてくれないか? 旦那様や奥様たちに作って欲しいと言われているんだ。ちゃんと礼はするから頼むよ」
「わかりました。うちで作っているものでいいのなら持って来ますね」
「ああ、頼むよ。門番にはおれのほうからも伝えておく。何なら教えに来てくれても構わないぞ。お前さんたちなら身元も性格も安心だからな」
そんなんでお城に入れて大丈夫なのか? と思わくもないけど、一番調味料が揃う場所はお城だ。入れてくれるのなら甘えさせていただきましょう。
「わかりました。時間を見つけて来ますね。山で狩りもするので」
もう秋も終わりに近づいているけど、冬眠しない獣はいる。冬に鹿が歩いていた記憶があるわ。
「ああ、頼むよ。旦那様は鹿の炙り肉が好きなんでな」
「炙り? 鹿って生でも食べれるんですか?」
「いや、生は無理だ。だが、調理法があるんだよ」
そう言えば、低温調理とかあったわね。低い温度のお湯で時間を掛けて煮るとかだったはず。捕まえたら挑戦してみましょう。
「じゃあ、解体して持って来ますね。燻製肉も挑戦してみたいんで」
「おう。いいのが出来たら持って来てくれ。出来がよければ買わせてもらうから」
「はい。そのときはお願いします」
この冬は忙しくなると感じながら家に帰宅。マイゼンさんにお友達係を解任された理由を話した。
「そうですか。婚約者候補選別を早めるなど何かあったんでしょうかね?」
「そこまでは訊けませんでした。お貴族様の事情ですからね」
踏み入ってはならないラインがある。短いお友達係の中で察せられたわ。
「そうですね。詳しい事情を知るのは危険ですね」
「わたしたちはお嬢様に送るものや料理書を作ったり狩りに行ったりするんで日帰り宿屋のことはお願いしますね。時間があれば手伝いますので」
「大丈夫ですよ。脱穀が終われば手伝いも増えますからね」
そうだったわね。もう脱穀も終盤。それが終われば手が空いてくるんだった。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
冬は長いとは言え、やることいっぱい。すぐに始めないと間に合わなくなる。ティナと二手に別れて……いや、ルルもいたんだった。
部屋に行き、ルルに出来ることを聞いた。
「んー。ちょっと離れた場所に移りましょう」
さすがに今日は無理なので、次の日に狩りと称して山に向かった。
「わたしの能力でキャロルたちの力になるとしたらこのくらいかしらね」
と、ルルが巨大化。わたしたちが乗っても平気なくらいになった。
「結界と合わせるとわたしの背中に乗れるわ」
結果から言うとネコバス化した、って感じね。いろいろ問題があるのでルルカーと命名するとしましょう。いや、ルルカーでも不味いかしら?
「まあ、ルルカーでいいわね」
ルルは妖精猫。モルモットじゃないんだからね。
「何だか不名誉な名前を付けられたような気がするのは気のせいか?」
「気のせい気のせい。これで移動が楽になるわ」
朝は無理でも夜に走ればいいだけ。いや、結界を使えば昼間でも乗れるわ。
「今年の冬はがんばるわよ!」
お嬢様のことは悲しいけど、一生会えないわけじゃない。会える日を楽しみにがんばるとしましょうかね!
お嬢様が帰って来たのかなと手紙を読むと、お友達係の解任と、その説明をしたいからお城に来てくれとのことだった。
いったい何が起こったの? とは思うものの、行かなければわからないのだから行くしかない。
次の日、屋台組の馬車に揺られてお城に向かった。
お友達係は解任されたけど、お城に入ることは出来たので、部屋で着替えてからマリー様にお会いした。
「お嬢様は、第一王子様の婚約者候補として王宮に上がることになったのよ」
説明を聞いたらそんなことが返ってきた。
「もう帰って来ないのですか?」
「そうね。候補者が決まるまでは帰って来ないと思うわ。わたしも来年の春には王都に行くことになるでしょう。婚約者候補として恥ずかしくない環境を整えないといけませんからね」
「ナタリア婦人もですか?」
「ええ。ナタリア婦人は王都の出ですからね。お嬢様の教育には必要な方です」
つまり、お嬢様に仕えていた方々はすべて王都に移るってことか。まだ学びたいことやお嬢様と話をしたかったのに……。
「とても残念です。お嬢様もあなた方を気に入っていましたからね」
「わたしたちも残念です。お嬢様ともっと仲良くなりたかったです。あの、マリー様は来年に王都に向かうならお嬢様に届けて欲しいものがあります。迷惑でなければお届けいただけませんでしょうか?」
お嬢様には何かとお世話になった。わたしに出来るお礼をしたいわ。
「ええ、いいわ。わたしもお願いしたいこともあるからね」
「何でしょうか?」
「料理の作り方を書いたものをいただけないかしら? もちろん、お礼はします」
「わかりました。冬の間に書いて、お嬢様に渡すものも作ってしまいます」
「ありがとう。お嬢様に手紙も書いてちょうだい。思い出もお嬢様の支えとなるからね」
「あ、ルルはどうしますか?」
ちなみにルルはティナの背中にしがみついています。
「あなたが預かってちょうだい。ルルを連れて行くわけにはいかないから」
「では、お嬢様がここに帰って来るまで預かっておきますね」
ルルはお嬢様の飼い猫。ルルがどう思おうとお嬢様に飼われていたのならお嬢様の猫なのよ。
「大切にしてあげて」
お礼を言い、部屋を片付けてお城を後に──しようとしたら料理長さんに呼び止められてしまった。
「料理の作り方、おれにも書いてくれないか? 旦那様や奥様たちに作って欲しいと言われているんだ。ちゃんと礼はするから頼むよ」
「わかりました。うちで作っているものでいいのなら持って来ますね」
「ああ、頼むよ。門番にはおれのほうからも伝えておく。何なら教えに来てくれても構わないぞ。お前さんたちなら身元も性格も安心だからな」
そんなんでお城に入れて大丈夫なのか? と思わくもないけど、一番調味料が揃う場所はお城だ。入れてくれるのなら甘えさせていただきましょう。
「わかりました。時間を見つけて来ますね。山で狩りもするので」
もう秋も終わりに近づいているけど、冬眠しない獣はいる。冬に鹿が歩いていた記憶があるわ。
「ああ、頼むよ。旦那様は鹿の炙り肉が好きなんでな」
「炙り? 鹿って生でも食べれるんですか?」
「いや、生は無理だ。だが、調理法があるんだよ」
そう言えば、低温調理とかあったわね。低い温度のお湯で時間を掛けて煮るとかだったはず。捕まえたら挑戦してみましょう。
「じゃあ、解体して持って来ますね。燻製肉も挑戦してみたいんで」
「おう。いいのが出来たら持って来てくれ。出来がよければ買わせてもらうから」
「はい。そのときはお願いします」
この冬は忙しくなると感じながら家に帰宅。マイゼンさんにお友達係を解任された理由を話した。
「そうですか。婚約者候補選別を早めるなど何かあったんでしょうかね?」
「そこまでは訊けませんでした。お貴族様の事情ですからね」
踏み入ってはならないラインがある。短いお友達係の中で察せられたわ。
「そうですね。詳しい事情を知るのは危険ですね」
「わたしたちはお嬢様に送るものや料理書を作ったり狩りに行ったりするんで日帰り宿屋のことはお願いしますね。時間があれば手伝いますので」
「大丈夫ですよ。脱穀が終われば手伝いも増えますからね」
そうだったわね。もう脱穀も終盤。それが終われば手が空いてくるんだった。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
冬は長いとは言え、やることいっぱい。すぐに始めないと間に合わなくなる。ティナと二手に別れて……いや、ルルもいたんだった。
部屋に行き、ルルに出来ることを聞いた。
「んー。ちょっと離れた場所に移りましょう」
さすがに今日は無理なので、次の日に狩りと称して山に向かった。
「わたしの能力でキャロルたちの力になるとしたらこのくらいかしらね」
と、ルルが巨大化。わたしたちが乗っても平気なくらいになった。
「結界と合わせるとわたしの背中に乗れるわ」
結果から言うとネコバス化した、って感じね。いろいろ問題があるのでルルカーと命名するとしましょう。いや、ルルカーでも不味いかしら?
「まあ、ルルカーでいいわね」
ルルは妖精猫。モルモットじゃないんだからね。
「何だか不名誉な名前を付けられたような気がするのは気のせいか?」
「気のせい気のせい。これで移動が楽になるわ」
朝は無理でも夜に走ればいいだけ。いや、結界を使えば昼間でも乗れるわ。
「今年の冬はがんばるわよ!」
お嬢様のことは悲しいけど、一生会えないわけじゃない。会える日を楽しみにがんばるとしましょうかね!