「わたしは、百回生まれ変わる妖精猫と呼ばれているわ」

 この世界にはそんな妖怪──生き物がいるのね。

「ちなみに何回目なの、今?」

「二十回までは数えてたけど、もう忘れちゃったわ。たぶん、三十回くらいじゃないかしら?」

 三十回も死んでいるんだ。それってどんな気持ちなんだろう? よく精神を保てられているわよね。

「妖精猫の寿命は?」

「長く生きたときで十二年かしら? 短いときは五年くらいで死んじゃったわ。ちなみに今は一年ね。子猫時代にサーシャに拾われたわ」

 猫って一年でこんなに大きくなっちゃうものなのね。

「生まれ変わる毎に能力を一つだけ授かるんだけど、未だに人間の言葉を話せなかったから助かったわ。キャロルの魔法って何なの?」

「まだ確証はないけど、恐らく付与魔法だと思う」

「付与魔法か。一度見たことがあるけど、キャロルの付与魔法はちょっと違う感じの付与魔法かもね。わたしが見た付与魔法師は猫をしゃべらすほどの力はなかったからね」

 そ、そうなんだ。個体差があるってことなんだろうか?

「わたしがしゃべれるのは永続的なのかしら?」

「どうだろう? 付与魔法と気づいたの、最近だしさ」

 アイテムボックス化した鞄はこれと言って何もしてない。もしかしたらわたしから魔力を奪っているのかもしれないけど、永続的かはまだ何とも言えないわ。

「まあ、しゃべれるだけマシね。わかってもらえないって結構イライラが募っていたからね」

「でも、しゃべる猫がいたら捕まえられるんじゃないの?」

 解剖とかされたりしない?

「しゃべっても大丈夫な人にしか声をかけたりしないわ。今のところはキャロルとティナだけにするわ」

 ルルが視線をズラしたので釣られて見たらティナが起きていた。

「ごめんね、うるさかった?」

「そんなことない」

 寝袋から出て、火にかけていた芋餅をつかんで口にした。

「ティナにもルルの言葉は聞こえるんだね」

「ああ、聞こえる」

 ってことはルルの言葉は誰にも聞こえるってことだ。

「気になってたんだけど、ルルって人間が食べるもの食べたりしていいの? 猫に味の濃いのは毒なんじゃない?」

「大丈夫よ。何回目かの生で悪食って能力を得たから。何を食べても栄養となるわ。まあ、不味いものは食べたくないけどね」

 味覚はあるんだ。それも能力なの?

「お城で出される料理は味気なくて嫌だったのよね。キャロルの作るものは味がしっかりしてて好みだったわ」

 味の違いがわかる猫、ってか。いや、猫は猫でも妖精猫なんだけどさ。

「お城に住んでんのに贅沢だな」

 呆れるティナ。確かにそうね。平民の家だったら自給自足だよ。

「猫だって快適に生きたい生き物なのよ。キャロル、ハンバーガー食べたいわ」

 寝る前にたくさん食べたのによく食べること。なんて思いながらもハンバーガーを出してあげた。

「わたしの能力に結界ってのがあるから朝まで眠っていいわよ。元々張ってたんだけどね」

「だからガラの悪い冒険者たちが弾かれたんだ」

 そんなことがあったの? あ、だから変な感じだったのか……。

「結界は林の中まで伸ばしてあるから用を足しに行くことも出来るからね」

「何でもありね」

「出来ることと出来ないことはあるわよ。生活に役立つ能力ってあまりないからね」

 まあ、普通の猫ならネズミでも狩っていれば生きて行けるでしょうけど、人間並みの思考が出来たら暮らしを楽にしたいって思いも出て来るでしょうよ。それで、野良になるのは辛いでしょうね。

「大丈夫なら寝よっか」

 その効果はティナが確かめている。なら、安全ってこと。明日のためにしっかり眠るとしましょうか。

「ティナは寝袋で寝てね。わたしは、蓙を敷いて寝るから」

 一人用の蓙を鞄から出して敷いた。これにも柔らかさ倍増の付与を施しているので地面の上でも苦ではないわ。毛布も温かさ倍増しているからね。

「ルルはどうする?」

 悪食なせいか、出したハンバーガーをムシャムシャ食べているわ。

「寝てていいわよ。朝までわたしが見張るから」

「いいの?」

「構わないわ。明日はまた背負い籠の中で眠らせてもらうから」

 歩くの面倒とばかりにティナが背負っていた籠の中で眠ってたっけね。

「じゃあ、遠慮なく休ませてもらうね。ティナ、寝よう」

 蓙の上に横たわり、すぐ眠りについたと思ったら朝になっていた。

 火は消えていたけど、寒さは感じなかった。結界のお陰かしら?

 ティナはとっくに起きており、弓の準備をしていた。

「おはよう。すぐ朝食の準備をするね」

 鍋を出して豚骨水を入れ、火を点けて温める。朝からコッテリだけど、今日は猪を狩るんだからしっかり食べておかないとね。

「ルルは?」

「ボクが起きたら眠ったよ」

 寝袋を見たら丸って眠っていた。出発まで眠らせておきますか──と思ったら、豚骨の匂いに釣られて起きてきたわ。悪食ってより食いしん坊って感じね。

 三人(?)で朝食をすべて食べ、食休みしたら出発準備を始めた。

「じゃあ、猪を狩りに行きますか」

「うん。出来れば二匹は狩りたい。いっぱい肉が食べたい」

「猪、いいわね。わたしも協力するわ」

 何かヘンテコなパーティーになっちゃったけど、お互いの力を合わせたら猪も怖くなし。命大事に狩りをしましょうかね。

「うん。出発だ!」