休みは意外と早くやって来た。

 何でもお嬢様の母方のお祖父様が亡くなったとかで、急遽、王都に行くことになったそうだ。

 さすがにわたしたちを連れて行くなんてならず、急遽休みになったわけだ。

 ろくに挨拶も出来ずにお嬢様たちは出発。ただ、ルルをお願いとだけ言われたわ。

「にゃ~」

「あんたはご主人がいなくなっても呑気よね」

 わたしが預かってよいものかとナタリア婦人に尋ねたら、構わないとのこと。元々、ルルは自由気ままな猫のようで世話らしい世話はしてないとのこ。勝手に厨房に行って人間用の料理を食べていたそうだ。

「にゃ~」

 よろしくとばかりにわたしの足にスリスリしてきた。

「仕方がないわね。わたしたちは狩りに行くけど、離れないようにしなさいよ」

 さすがに何かあったらお嬢様に申し訳ない。わたしの固有魔法はほぼ付与魔法っぽい。はぐれてもわかるようルルの位置がわかるようイメージして上着を作ってあげて着させた。

「それはあなたの位置がわかるようにしてあるから脱いだりしちゃダメよ」

 毛繕いに邪魔……あれ? あんた毛繕いとかしてたっけ? お嬢様がブラシ(わたしが作ったヤツね)掛けをしているところしか見てないわ……。

「にゃ~」

 わかっているんだかわかってないだか。まあ、嫌がる様子もないし、なんでもいっか。

 帰る準備をしてお城を出た。

 すぐに必要なものを買いにバイバナル商会にレッツらゴー! なにやらいつもより出入りが激しかった。繁忙期ってヤツ?

「キャロルさん。ティナさん。お休みですか?」

 忙しいだろうにわたしたちの姿を見つけたレンラさんがやって来てくれた。

「はい。お嬢様の母方のお祖父様が亡くなったそうで、一家総出で王都に行ってしまった」

「それでお城が騒がしかったのですね。旦那様に話して来ます。入り用なものがあったら言ってください。キャロルさんたちを優先するよう伝えておりますので」

 慌てることはないけど、重要なことらしくすぐに立ち去ってしまった。

 大きな商会ともなると伯爵家とのしがらみもあるのでしょう。他の人に声をかけて欲しいものを買って帰った。

 前回から三日くらいしか経ってないけど、我が家が発展著しいことこの上ない。集会所的な感じの建物が完成していた。

 お風呂も衝立みたいなものが出来ており、そこに置いた長椅子で五目並べや的当てなんかをしていた。

 よくある転生者みたいなことやってんなーとは思うけど、よくあることしか出来ないのが凡人転生者の限界。自慢じゃないけど、オ◯ロもしたことがない。将棋やチェスなんかはそれ以上に知らないわ。

「お帰りなさい。今回は早かったんですね」

 ちょうどいたマイゼンさんに迎えられ、お城でのことを話した。

「そうでしたか。かなり長いお休みになるので?」
 
「そうですね。一月は休みになるかもしれません。なので、わたしたちも一月くらいお友達業も一月延びるかもしれません。下手したら春まで延びるかもと言われました」

 秋の間だけってことだったけど、お嬢様がわたしたちを気に入ってくれて、延長してくれって話になったのよ。

 まあ、決めるのは伯爵様なのでどうやるかわからないけど、断れないんだからそのときは飲むしかないわ。

「まあ、こちらは調いつつあるので安心してください。利益も出てますし、旅芸人一座とも交渉が始まりました。収穫祭はここで行われる話も出ています」

 収穫祭か~。大人たちが騒いでいる記憶しかないけど、ここでやるなら子供たちも楽しめるかもしれないわね。社会勉強だと、お嬢様を呼び出せないかしら? 帰って来ないとなんともならないけどさ。

「それはいいですね。わたしも参加出来るときに備えて準備だけはしておきます」

 参加出来ないときはお嬢様に屋台を出して美味しいものを食べてもらいましょう。

「あ、まだお肉の値段が上がるそうですよ。仕入れは大丈夫ですか?」

「それは大丈夫ですよ。ローダルさんが運んでくれますので品切になることもありません」

 それなら狩りに行かなくてもいいかな? とは思ったけど、お店用と個人用は分けていたほうがいいでしょう。お友達としてのお給料は家に入れてないんだからね。

 日帰り宿屋としての稼ぎからお母ちゃんたちのお給料は出している。そこにわたしたちが稼いだお金を入れると、お友達業も日帰り宿屋の仕事になってしまう。それだと他の商人からよく思われないそうだ。

 何かを言われないためにもわたしたちが稼いだお金は入れないほうがいいとなったのよ。

「わたしたち、山に狩りに行きますね。お城に入るお肉も高くなってあんまり食べれなくなったんで」

「そうですか。気をつけてくださいね」

 わたしたちが冒険者になることはマイゼンさんも知っていること。危険な商売であることも知っていること。狩りの一つも出来なくては冒険者なんてやってられない。なりたいと言うのだから止めることはしないのでしょうよ。

「しばらく山で野宿すると思うんで、台所借りますね」

 そこはお目こぼしを、ってことで当分の食事を作ることにした。

「お母ちゃん、砂糖は買えている?」

 朝から晩まで厨房で働いているお母ちゃん。本人は満足そうだけど、やはりもう一人は本格的な料理人は欲しいところよね。おばちゃんたちも毎日来れるわけじゃないんだしね。

「大丈夫だよ。必要なら使って構わないよ」

「ううん、大丈夫。お城ではお嬢様用のお菓子はわたしが作っているから砂糖はもらえるから」

 研究用として使わしてもらっている。ほんと、太っ腹な伯爵様で助かるわ。