ルルのことは謎だけど、わたしたちはお嬢様のお友達。お嬢様が成長するためにいるのだ。
午前中はお嬢様と一緒に座学。午後はお菓子を作ったり運動に付き合ったりと、これ、友達か? とは思いはしたものの、二週間も過ぎればいろいろ話すような仲にはなれた。
三週間目になると、お嬢様の学習内容が変わった。
「明日から魔法について学んでもらいます」
「貴族社会に魔法って必要なんですか?」
これまで魔法らしい魔法を使っているところなんて見たことないわよ。
「そう必要はないわ。けど、貴族は魔力が多いことが優先されます。ですが、魔力が多いと抑えるのも大変です。抑えるために魔法を学ぶのです」
「確かわたしは魔力判定330だったかしら?」
魔力判定なんてあるんだ。
「はい。貴族としての最低限が200ですね」
え? この世界、インフレ起きちゃう系? わたしの魔力は53万と言っちゃう系なの? 何だかロマンがない世界ね……。
「魔力って計れるものなんですか?」
「ええ。専門の鑑定士がいて計ってくれるのよ。冒険者ギルドにも鑑定士はいるわ」
あー。前に広場に来た魔法使いのお姉さんがそんなこと言ってたっけ。
「わたしたち平民にも魔力はあるんですか?」
「あるけど、平民なら50もあればいいほうでしょうね。たまに100を越える者もいるそうですが」
そういう人が魔法使いになったりするのかもね。
次の日、貴族出の魔法使い──魔導師(と言うそうよ)がお城にやってきた。
年齢はお爺ちゃんってくらいの年齢で、黒に銀の刺繍が入った服を着て、杖ってより錫杖みたいなものを持っていた。
「マリスカ様。ようこそお出でくださいました。サーシャ・コンミンドと申します」
わたしたちも同席しているけど、今日はお嬢様がメイン。わたしたちは口を出すことはせず、生徒の一人としてお嬢様の左右に座っていた。
それは魔導師様にも伝わっているようで、わたしたちがいても怪訝な表情は見せず、生徒の一人として扱っている感じだった。
最初は魔法がなんたるかを口上し、お嬢様の属性を調べた。
魔法にも属性があり、大抵の人は属性を持っているそうだ。
お嬢様は光属性。これは聖魔法とも呼ばれ、回復系や補助系の魔法とのことらしい。貴族に回復系や補助系なんて必要なの? と思ったけど、貴族の世界では使える使えないはどうでもよくて、どんな魔法が使えるかがステータスっぽいみたいよ。
なんじゃそりゃ? と、口から出そうなのを必死に堪えた。
貴族には貴族の価値観があり、平民のわたしがどうこう言う資格すらない。そうなんだと受け取るしかないのよ。
「サーシャ嬢は補助系の魔法が向いていますね」
モノクルみたいなものでお嬢様を鑑定すると、そんなことを口にした。自身の能力で鑑定するんじゃないかーい!
「補助系ですか。どんな補助なんですか?」
「そうですね。能力増加や身体強化ですね。他にも学べば使えるようになるでしょう」
能力増加はいいわね。誰に使うかはわからないけど。
「わたしとしては回復系がよかったですわ。怪我をしても自分で治せますもの」
「補助系が向いているだけで、回復系も使えますよ。練習は補助系より大変ではありますがね」
どう練習するの? と思っていたら羊皮紙的なものを出してお嬢様に渡した。
「これは、ラーカイル。魔法を覚えるための学習陣です。付与魔法の応用で作られたものです」
学習陣? 付与魔法? なんだか奥が深そうな言葉が出て来るわね。でも、付与魔法は魔法を覚えさせることも出来るんだ。覚えておこうっと。
それからは覚えた補助系の魔法を発動させる練習が続き、四日くらいて身体強化の魔法をマスターした。
もちろん、身体強化魔法の練習相手はわたしたち。お嬢様の魔法を受けて身体強化魔法の具合を確認していったわ。
ただ、魔法の、っていうか、魔力を感じることが出来て、自分の中にある魔力を感じられるようになった。
まあ、だからなんだと言われたら困るんだけど、まあ、わたしに魔力があることはわかっただけでも収穫でしょう。ティナも身体強化を使えることがわかったしね。
魔導師様は十日ほど滞在し、以後は自主鍛練を行ってくださいと言って帰って行ったわ。
「伯爵家お抱えの魔導師様っていないんですか?」
お嬢様の鍛練に付き合いながら疑問に思ったことを尋ねてみた。
「いるわよ。でも、お兄様に付いているわ。わたしは嫁ぐ身だから外部から来てもらうのよ」
「嫁ぐんですか? お嬢様は第一夫人のお子様ですよね?」
第二夫人以下の子なら嫁ぐのもわかるけど、第一夫人は本妻みたいなもの。その本妻の子が他家に嫁ぐものなの? じゃあ、誰に嫁ぐんだと訊かれたら答えられないけどさ。
「わたしは第一王子の婚約者候補なのよ」
第一王子の婚約者候補? そんなのがあるんだ。
「コンミンド伯爵家って、そんなに大きい家だったんですか?」
第一王子の婚約者候補になるって、それなりの家じゃないと無理なんじゃないの?
「たくさんいる候補者の中の一人よ。必ず王子の婚約者になるとは限らないわ」
それでも選ばれるんだからコンミンド伯爵家はわたしが思うより大きいんでしょうね。
「わたしは王子の婚約者にはなりたくないわね。王妃とか面倒だわ」
お嬢様らしいセリフだ。この方は、意思が強い。自主自立をよしとする。王妃なんてもの、邪魔でしかないでしょうよ。
午前中はお嬢様と一緒に座学。午後はお菓子を作ったり運動に付き合ったりと、これ、友達か? とは思いはしたものの、二週間も過ぎればいろいろ話すような仲にはなれた。
三週間目になると、お嬢様の学習内容が変わった。
「明日から魔法について学んでもらいます」
「貴族社会に魔法って必要なんですか?」
これまで魔法らしい魔法を使っているところなんて見たことないわよ。
「そう必要はないわ。けど、貴族は魔力が多いことが優先されます。ですが、魔力が多いと抑えるのも大変です。抑えるために魔法を学ぶのです」
「確かわたしは魔力判定330だったかしら?」
魔力判定なんてあるんだ。
「はい。貴族としての最低限が200ですね」
え? この世界、インフレ起きちゃう系? わたしの魔力は53万と言っちゃう系なの? 何だかロマンがない世界ね……。
「魔力って計れるものなんですか?」
「ええ。専門の鑑定士がいて計ってくれるのよ。冒険者ギルドにも鑑定士はいるわ」
あー。前に広場に来た魔法使いのお姉さんがそんなこと言ってたっけ。
「わたしたち平民にも魔力はあるんですか?」
「あるけど、平民なら50もあればいいほうでしょうね。たまに100を越える者もいるそうですが」
そういう人が魔法使いになったりするのかもね。
次の日、貴族出の魔法使い──魔導師(と言うそうよ)がお城にやってきた。
年齢はお爺ちゃんってくらいの年齢で、黒に銀の刺繍が入った服を着て、杖ってより錫杖みたいなものを持っていた。
「マリスカ様。ようこそお出でくださいました。サーシャ・コンミンドと申します」
わたしたちも同席しているけど、今日はお嬢様がメイン。わたしたちは口を出すことはせず、生徒の一人としてお嬢様の左右に座っていた。
それは魔導師様にも伝わっているようで、わたしたちがいても怪訝な表情は見せず、生徒の一人として扱っている感じだった。
最初は魔法がなんたるかを口上し、お嬢様の属性を調べた。
魔法にも属性があり、大抵の人は属性を持っているそうだ。
お嬢様は光属性。これは聖魔法とも呼ばれ、回復系や補助系の魔法とのことらしい。貴族に回復系や補助系なんて必要なの? と思ったけど、貴族の世界では使える使えないはどうでもよくて、どんな魔法が使えるかがステータスっぽいみたいよ。
なんじゃそりゃ? と、口から出そうなのを必死に堪えた。
貴族には貴族の価値観があり、平民のわたしがどうこう言う資格すらない。そうなんだと受け取るしかないのよ。
「サーシャ嬢は補助系の魔法が向いていますね」
モノクルみたいなものでお嬢様を鑑定すると、そんなことを口にした。自身の能力で鑑定するんじゃないかーい!
「補助系ですか。どんな補助なんですか?」
「そうですね。能力増加や身体強化ですね。他にも学べば使えるようになるでしょう」
能力増加はいいわね。誰に使うかはわからないけど。
「わたしとしては回復系がよかったですわ。怪我をしても自分で治せますもの」
「補助系が向いているだけで、回復系も使えますよ。練習は補助系より大変ではありますがね」
どう練習するの? と思っていたら羊皮紙的なものを出してお嬢様に渡した。
「これは、ラーカイル。魔法を覚えるための学習陣です。付与魔法の応用で作られたものです」
学習陣? 付与魔法? なんだか奥が深そうな言葉が出て来るわね。でも、付与魔法は魔法を覚えさせることも出来るんだ。覚えておこうっと。
それからは覚えた補助系の魔法を発動させる練習が続き、四日くらいて身体強化の魔法をマスターした。
もちろん、身体強化魔法の練習相手はわたしたち。お嬢様の魔法を受けて身体強化魔法の具合を確認していったわ。
ただ、魔法の、っていうか、魔力を感じることが出来て、自分の中にある魔力を感じられるようになった。
まあ、だからなんだと言われたら困るんだけど、まあ、わたしに魔力があることはわかっただけでも収穫でしょう。ティナも身体強化を使えることがわかったしね。
魔導師様は十日ほど滞在し、以後は自主鍛練を行ってくださいと言って帰って行ったわ。
「伯爵家お抱えの魔導師様っていないんですか?」
お嬢様の鍛練に付き合いながら疑問に思ったことを尋ねてみた。
「いるわよ。でも、お兄様に付いているわ。わたしは嫁ぐ身だから外部から来てもらうのよ」
「嫁ぐんですか? お嬢様は第一夫人のお子様ですよね?」
第二夫人以下の子なら嫁ぐのもわかるけど、第一夫人は本妻みたいなもの。その本妻の子が他家に嫁ぐものなの? じゃあ、誰に嫁ぐんだと訊かれたら答えられないけどさ。
「わたしは第一王子の婚約者候補なのよ」
第一王子の婚約者候補? そんなのがあるんだ。
「コンミンド伯爵家って、そんなに大きい家だったんですか?」
第一王子の婚約者候補になるって、それなりの家じゃないと無理なんじゃないの?
「たくさんいる候補者の中の一人よ。必ず王子の婚約者になるとは限らないわ」
それでも選ばれるんだからコンミンド伯爵家はわたしが思うより大きいんでしょうね。
「わたしは王子の婚約者にはなりたくないわね。王妃とか面倒だわ」
お嬢様らしいセリフだ。この方は、意思が強い。自主自立をよしとする。王妃なんてもの、邪魔でしかないでしょうよ。