ピザパン(と命名しました)は二人に好評で、試しに銅貨八枚で売り出したら即完売となってしまった。
「まさか完売するとは思わなかったわ」
「いや、お嬢ちゃんが売るものは他のよら美味いからな。知っているヤツは迷わず買うさ」
作っているのはお母ちゃんなんだけどね。
でもまあ、売れるというなら量を増やすとしましょう。腸詰めは品切になることもなさそうだしね。
「チーズ多めってのもいいわね」
ありがたいことにチーズはかなり昔からあるようで、コンミンド伯爵領でも結構作られているそうだ。まあ、チーズもお酒のツマミになるものらしく、うちの食卓には上がらなかったわ……。
「焼いたチーズがこんなに美味いとはな。損した気分だ」
なぜ焼かなかったのが不思議で仕方がないわ。こんなに食に魅了された人が多いってのにね。いや、わたしが目覚めさせちゃったのかな?
八割ピザパン。二割芋餅になってしまった頃、綺麗なドレスを着た十歳くらいの女の子が侍女らしい女性を連れて現れた。
「サーシャ様」
と、ローダルさんが口を開いた。様ってことは確実に伯爵様より下の立場の人なんだ。
「ローダル。久しぶりね。何か美味しいものを売っているそうじゃない。わたしにもいただけるかしら?」
何やらフランクなお嬢様ね。歳の割りに賢そうでもあるわ。
「サーシャ様がいただくようなものではありませんよ」
貴族のお嬢様はどんな豪華なものを食べているのかしら?
「とても人気があるらしいじゃない。わたしも食べてみたいわ」
お嬢様の後ろにいる侍女さんが小さく頭を下げた。
「わかりました。チェミー。何か包めるものはあるか?」
包むもの? この時代に何か包むものなんてあるの? 布? あ、包むものはないけど、お皿があったわ。
鞄からお皿を出してピザパンを置いた。これでいいでしょう。
お皿を差し出すと、侍女さんが受け取ってくれた。
「ありがとう」
くるりと背中を見せてお城に戻って行った。
「……相変わらず困ったお嬢様だ……」
どうやらアクティブなお嬢様のようだ。あれでは普通のお嬢様では相手出来ないかもね……。
「みゃあ~」
ん? なに? え、猫? この世界、猫がいるんだ。
「お嬢様の猫だ。いろいろ出歩いているから捕まえたりするなよ」
捕まえたりはしないけど、なんて猫かしら? ずっと病院暮らしだったから猫に詳しくないのよね。別に猫好きでもなかったしね。
「やっぱり貴族が飼う猫は毛並みがいいですね」
全体的に灰色だけど、足先だけがオレンジ色っていう、なかなかファンタジー感があること。
「腸詰め、食べる?」
ご主人様が食べてペットが食べられないのは可哀想よね。食べちゃダメなものは知らないけど、この時代では長生きも出来ないでしょう。美味しいものを食べて太く短く生きなさいな。
「みゃあ~」
切った腸詰めを鼻先に出すと、パクっと食べた。
「美味しい?」
「みゃあ~」
何だか美味しそうに食べる猫ね。いいもの食べさせてもらってないのかしら?
腸詰め一本分食べたら満足そうに前足で顔を洗って帰って行った。
「自由よね」
まあ、自由には自由なりの大変さがあるもの。あんたもご主人様に捨てられないようがんばんなさいよ。
お嬢様が帰ったことで波のように去って行ったお客さんが戻って来た。
また忙しくなり、完売をしたら材料を買って帰る。お嬢様のことも忘れて商売を続けていたらお嬢様の来る頻度が増えて行き、等々毎日来るようになった。
お嬢様が来ることで話すことも増えていき、仲良くなれた、ような気がしてきた。
年齢は同じだけど、やはり身分がある人は教養があるな~と思わせる。まあ、アクティブな性格がそれを邪魔しているところもあるけどね。
お嬢様が来ると他のお客さんが波のように引いていくのが困ったものだけど、誰も文句を言えないのだから仕方がない。帰る時間がちょっと遅くなるだけよ。
「お嬢様。そろそろ」
侍女さんの言葉にがっかりとしながらお城に戻って行くお嬢様。何だか自由はないみたいね……。
「その分、あんたが自由ってわけか」
お嬢様には自由はなく猫には自由がある。農民の子に生まれてよかったわ。
「みゃあ~」
「はいはい。あんたの分はお嬢様にもらっているから好きなだけ食べなさい」
昨日から豚肉が買えたので、ハンバーガーのお肉だけあげた。
「みゃあ~」
満腹になったらハイ、さようなら。猫って現金な生き物よね。
「そろそろ城に上がる準備をしないとな。まだ秋も半ばですよ?」
「お嬢ちゃんたちがいなくなったら屋台も終わってしまうだろう。それじゃ買いに来てくれるお客さんに申し訳ない。次のヤツを探さなくちゃならんだろう」
言われてみれば確かにそうね。これだけ買いに来てくれているのに今日で終わりは無責任すぎるわ。ちゃんと後継を残してから去らないとね。
「誰か当てがあったりするんですか?」
「ちゃんと考えてあるよ。そのためにおれがお嬢ちゃんたちに教わっていたんだからな」
あ、学ぶために付いて来てたんだ。暇なのか? とか思ってすみません。まあ、口にすると怒られそうなので「さすがです」とよいしょしておいた。
「まさか完売するとは思わなかったわ」
「いや、お嬢ちゃんが売るものは他のよら美味いからな。知っているヤツは迷わず買うさ」
作っているのはお母ちゃんなんだけどね。
でもまあ、売れるというなら量を増やすとしましょう。腸詰めは品切になることもなさそうだしね。
「チーズ多めってのもいいわね」
ありがたいことにチーズはかなり昔からあるようで、コンミンド伯爵領でも結構作られているそうだ。まあ、チーズもお酒のツマミになるものらしく、うちの食卓には上がらなかったわ……。
「焼いたチーズがこんなに美味いとはな。損した気分だ」
なぜ焼かなかったのが不思議で仕方がないわ。こんなに食に魅了された人が多いってのにね。いや、わたしが目覚めさせちゃったのかな?
八割ピザパン。二割芋餅になってしまった頃、綺麗なドレスを着た十歳くらいの女の子が侍女らしい女性を連れて現れた。
「サーシャ様」
と、ローダルさんが口を開いた。様ってことは確実に伯爵様より下の立場の人なんだ。
「ローダル。久しぶりね。何か美味しいものを売っているそうじゃない。わたしにもいただけるかしら?」
何やらフランクなお嬢様ね。歳の割りに賢そうでもあるわ。
「サーシャ様がいただくようなものではありませんよ」
貴族のお嬢様はどんな豪華なものを食べているのかしら?
「とても人気があるらしいじゃない。わたしも食べてみたいわ」
お嬢様の後ろにいる侍女さんが小さく頭を下げた。
「わかりました。チェミー。何か包めるものはあるか?」
包むもの? この時代に何か包むものなんてあるの? 布? あ、包むものはないけど、お皿があったわ。
鞄からお皿を出してピザパンを置いた。これでいいでしょう。
お皿を差し出すと、侍女さんが受け取ってくれた。
「ありがとう」
くるりと背中を見せてお城に戻って行った。
「……相変わらず困ったお嬢様だ……」
どうやらアクティブなお嬢様のようだ。あれでは普通のお嬢様では相手出来ないかもね……。
「みゃあ~」
ん? なに? え、猫? この世界、猫がいるんだ。
「お嬢様の猫だ。いろいろ出歩いているから捕まえたりするなよ」
捕まえたりはしないけど、なんて猫かしら? ずっと病院暮らしだったから猫に詳しくないのよね。別に猫好きでもなかったしね。
「やっぱり貴族が飼う猫は毛並みがいいですね」
全体的に灰色だけど、足先だけがオレンジ色っていう、なかなかファンタジー感があること。
「腸詰め、食べる?」
ご主人様が食べてペットが食べられないのは可哀想よね。食べちゃダメなものは知らないけど、この時代では長生きも出来ないでしょう。美味しいものを食べて太く短く生きなさいな。
「みゃあ~」
切った腸詰めを鼻先に出すと、パクっと食べた。
「美味しい?」
「みゃあ~」
何だか美味しそうに食べる猫ね。いいもの食べさせてもらってないのかしら?
腸詰め一本分食べたら満足そうに前足で顔を洗って帰って行った。
「自由よね」
まあ、自由には自由なりの大変さがあるもの。あんたもご主人様に捨てられないようがんばんなさいよ。
お嬢様が帰ったことで波のように去って行ったお客さんが戻って来た。
また忙しくなり、完売をしたら材料を買って帰る。お嬢様のことも忘れて商売を続けていたらお嬢様の来る頻度が増えて行き、等々毎日来るようになった。
お嬢様が来ることで話すことも増えていき、仲良くなれた、ような気がしてきた。
年齢は同じだけど、やはり身分がある人は教養があるな~と思わせる。まあ、アクティブな性格がそれを邪魔しているところもあるけどね。
お嬢様が来ると他のお客さんが波のように引いていくのが困ったものだけど、誰も文句を言えないのだから仕方がない。帰る時間がちょっと遅くなるだけよ。
「お嬢様。そろそろ」
侍女さんの言葉にがっかりとしながらお城に戻って行くお嬢様。何だか自由はないみたいね……。
「その分、あんたが自由ってわけか」
お嬢様には自由はなく猫には自由がある。農民の子に生まれてよかったわ。
「みゃあ~」
「はいはい。あんたの分はお嬢様にもらっているから好きなだけ食べなさい」
昨日から豚肉が買えたので、ハンバーガーのお肉だけあげた。
「みゃあ~」
満腹になったらハイ、さようなら。猫って現金な生き物よね。
「そろそろ城に上がる準備をしないとな。まだ秋も半ばですよ?」
「お嬢ちゃんたちがいなくなったら屋台も終わってしまうだろう。それじゃ買いに来てくれるお客さんに申し訳ない。次のヤツを探さなくちゃならんだろう」
言われてみれば確かにそうね。これだけ買いに来てくれているのに今日で終わりは無責任すぎるわ。ちゃんと後継を残してから去らないとね。
「誰か当てがあったりするんですか?」
「ちゃんと考えてあるよ。そのためにおれがお嬢ちゃんたちに教わっていたんだからな」
あ、学ぶために付いて来てたんだ。暇なのか? とか思ってすみません。まあ、口にすると怒られそうなので「さすがです」とよいしょしておいた。