「この部屋を使ってくれ。必要なものは運ばせるから」
ガルジさんが案内してくれまのは母屋の屋根裏部屋で、二段ベッドが二つとテーブルがあった。
屋根裏部屋にはちゃんと窓があり、板を外すと家の前が見下ろせた。
「これは、歓迎されてない感じ?」
「単に部屋がここしかなかったんじゃない?」
「いい部屋じゃない。藁の寝台だったらアルプスの少女だわ」
わたし、あれに憧れてたのよね。犬とかいないのかな?
「アルプス? なに?」
「なんでもないわ。掃除しちゃいましょうか」
そこまで埃は被ってないけど、数ヶ月は使ってない感じで空気が籠っている。空気の入れ換えと数日借りるんだから綺麗にしましょうかね。
ティナには水を汲んで来てもらい、わたしとマリカルではたきを使って埃を落とした。
「ルル。埃を吸って」
結界を作ってベッドで眠るルル。掃除してんだから手伝いなさい。
「はいはい」
動かないで部屋の埃を結界で吸ってくれ、外に排出してくれた。
ティナが戻って来て、水拭きしていると、三十歳くらいの女性と二十歳くらいの女性が藁を運んで来た。あ、やっぱり藁を敷くんだ。
「もう掃除してたのかい」
「お城で働いていたのでつい」
別にそんな理由ではないけど、好感を持ってもらえるようにそう言っておいた。
「お城で?」
「はい。お嬢様のお友達係として働いていました」
領民なら誰でも……かどうかはわからないけど、長いことコンミンドで生きていたらお嬢様がいることくらいは耳にしているでしょうよ。
「そう言えば、そんなウワサを聞いたことがあるわ」
ウワサになるんだ。案外、筒抜けなのね。まあ、別に隠すほどでもないか。お嬢様、そこまで重要な立場でもなかったしね。
「今はバイバナル商会の手伝いをしています。今度、隊商に付いて行くので馬を買いに来たんです」
おそらく、この女性はガルジさんの奥さんでしょう。ガルジさんが説明している時間もなかったはずだからわたしからも説明しておいた。
「……何だか凄いお嬢さん方だったのね……」
「あくまでもわたしたちはバイバナル商会のお手伝いをしているだけです。あまり畏まらず、気軽にお付き合いください」
さすがにバイバナル商会に関係あるわたしたちを無下には出来ないでしょうが、だからと言って気を使われるのも面倒だ。娘だと思って扱われるほうがいろいろ尋ねられるってものだわ。
よく思われつつ、フレンドリーに相手してもらう。これが一番よ。
藁の他にシーツと蝋燭ランタン、何かの毛皮で作った毛布を持って来てくれた。
「寒かったら手持ち暖炉を持ってくるから」
鉄のもので、炭を入れて暖を取るヤツよ。暖炉のない部屋で使われるものだ。
「ありがとうございます。寒いときは声を掛けさせてもらいます」
わたしたちはルルの結界があるので寒さ暑さは関係ないんだけどね。
「マリカルはガルジさんから予定を聞いてきて。ティナは馬のことを教えてもらって。わたしは家のお手伝いをするから」
わたしは二人より習得が遅いから、ティナが学んでからゆっくり教えてもらうわ。いざとなればわたしの付与魔法で馬を従わせればいいしね。それより、牧場の料理がどんなものか知りたいわ。
ルグスクさんの奥さん、ミルコさんとガルジさんの妹さん、アルシンさんと台所に向かった。
牧場では三世代と妹さん夫婦、弟さん夫婦が働いており、下働きの夫婦で回しているそうだ。
ルクラグ村では家族経営が普通であり、マージック牧場(ここの名前ね)はまだ小さいほうなんだって。ただ、馬を扱っているのはルクラグ村一。バイバナル商会が主な商売相手だから儲けもグルング村一らしいわ。
そんな話を聞かせてもらいながら、夕食作りをする。
マージック牧場の食はミルコさんとアルシンさん、そして、下働きのミニカさんの三人で当たっているそうよ。
ミルコさんの子供たちは牧場に出て牧草刈りや柵の修繕、厩舎の掃除をしているんだってさ。
パンは村のパン屋が担っているそうで、ミニカさんの子供さんが取りに行き、タイミングよく両手に手提げ籠を持って帰って来た。
バゲットのようなパンを四等分に切り、母屋の食堂に並べた。
「大家族の食卓って感じですね。でも、ちょっと狭くありません?」
一般家庭の三倍はあるけど、ここで働いている数を考えたら狭いんじゃない? テーブルも二つで六人用じゃない?
「まあ、生き物相手の商売だからね、皆一緒にってことはならないんだよ」
へー、そうなんだ。牧場業も大変ね。
「チーズ、美味しそうですね」
家々でチーズは作っており、家庭によって味が違うらしい。
牧場だからお肉とか出るのかと思ったら野菜中心で、蒸し野菜にパン、チーズ、腸詰めが一人一本。モグルの乳が水代わりだそうだ。
「汁物は出さないんですか?」
この時代、汁物が主なのに。
「朝に出すよ。夜はいつもこれだね」
これ、なんだ。自分たちの食卓が豊かになったから忘れていたけど、今の時代を考えたらこれでも豪華なほうだ。
「芋があるなら芋餅を作ってもいいですか?」
さすがにこれじゃティナやルルががっかりしてしまう。せめて今日は芋餅を出してあげましょう。おかあちゃん特製のマー油は持って来ているからね。
「芋餅?」
「わたしの家で作っているものです。すぐ作れてとっても美味しいんですよ」
「へー。じゃあ、お願いしようかね」
よし。これで台所の食材を探れるわ。ウフフ。
ガルジさんが案内してくれまのは母屋の屋根裏部屋で、二段ベッドが二つとテーブルがあった。
屋根裏部屋にはちゃんと窓があり、板を外すと家の前が見下ろせた。
「これは、歓迎されてない感じ?」
「単に部屋がここしかなかったんじゃない?」
「いい部屋じゃない。藁の寝台だったらアルプスの少女だわ」
わたし、あれに憧れてたのよね。犬とかいないのかな?
「アルプス? なに?」
「なんでもないわ。掃除しちゃいましょうか」
そこまで埃は被ってないけど、数ヶ月は使ってない感じで空気が籠っている。空気の入れ換えと数日借りるんだから綺麗にしましょうかね。
ティナには水を汲んで来てもらい、わたしとマリカルではたきを使って埃を落とした。
「ルル。埃を吸って」
結界を作ってベッドで眠るルル。掃除してんだから手伝いなさい。
「はいはい」
動かないで部屋の埃を結界で吸ってくれ、外に排出してくれた。
ティナが戻って来て、水拭きしていると、三十歳くらいの女性と二十歳くらいの女性が藁を運んで来た。あ、やっぱり藁を敷くんだ。
「もう掃除してたのかい」
「お城で働いていたのでつい」
別にそんな理由ではないけど、好感を持ってもらえるようにそう言っておいた。
「お城で?」
「はい。お嬢様のお友達係として働いていました」
領民なら誰でも……かどうかはわからないけど、長いことコンミンドで生きていたらお嬢様がいることくらいは耳にしているでしょうよ。
「そう言えば、そんなウワサを聞いたことがあるわ」
ウワサになるんだ。案外、筒抜けなのね。まあ、別に隠すほどでもないか。お嬢様、そこまで重要な立場でもなかったしね。
「今はバイバナル商会の手伝いをしています。今度、隊商に付いて行くので馬を買いに来たんです」
おそらく、この女性はガルジさんの奥さんでしょう。ガルジさんが説明している時間もなかったはずだからわたしからも説明しておいた。
「……何だか凄いお嬢さん方だったのね……」
「あくまでもわたしたちはバイバナル商会のお手伝いをしているだけです。あまり畏まらず、気軽にお付き合いください」
さすがにバイバナル商会に関係あるわたしたちを無下には出来ないでしょうが、だからと言って気を使われるのも面倒だ。娘だと思って扱われるほうがいろいろ尋ねられるってものだわ。
よく思われつつ、フレンドリーに相手してもらう。これが一番よ。
藁の他にシーツと蝋燭ランタン、何かの毛皮で作った毛布を持って来てくれた。
「寒かったら手持ち暖炉を持ってくるから」
鉄のもので、炭を入れて暖を取るヤツよ。暖炉のない部屋で使われるものだ。
「ありがとうございます。寒いときは声を掛けさせてもらいます」
わたしたちはルルの結界があるので寒さ暑さは関係ないんだけどね。
「マリカルはガルジさんから予定を聞いてきて。ティナは馬のことを教えてもらって。わたしは家のお手伝いをするから」
わたしは二人より習得が遅いから、ティナが学んでからゆっくり教えてもらうわ。いざとなればわたしの付与魔法で馬を従わせればいいしね。それより、牧場の料理がどんなものか知りたいわ。
ルグスクさんの奥さん、ミルコさんとガルジさんの妹さん、アルシンさんと台所に向かった。
牧場では三世代と妹さん夫婦、弟さん夫婦が働いており、下働きの夫婦で回しているそうだ。
ルクラグ村では家族経営が普通であり、マージック牧場(ここの名前ね)はまだ小さいほうなんだって。ただ、馬を扱っているのはルクラグ村一。バイバナル商会が主な商売相手だから儲けもグルング村一らしいわ。
そんな話を聞かせてもらいながら、夕食作りをする。
マージック牧場の食はミルコさんとアルシンさん、そして、下働きのミニカさんの三人で当たっているそうよ。
ミルコさんの子供たちは牧場に出て牧草刈りや柵の修繕、厩舎の掃除をしているんだってさ。
パンは村のパン屋が担っているそうで、ミニカさんの子供さんが取りに行き、タイミングよく両手に手提げ籠を持って帰って来た。
バゲットのようなパンを四等分に切り、母屋の食堂に並べた。
「大家族の食卓って感じですね。でも、ちょっと狭くありません?」
一般家庭の三倍はあるけど、ここで働いている数を考えたら狭いんじゃない? テーブルも二つで六人用じゃない?
「まあ、生き物相手の商売だからね、皆一緒にってことはならないんだよ」
へー、そうなんだ。牧場業も大変ね。
「チーズ、美味しそうですね」
家々でチーズは作っており、家庭によって味が違うらしい。
牧場だからお肉とか出るのかと思ったら野菜中心で、蒸し野菜にパン、チーズ、腸詰めが一人一本。モグルの乳が水代わりだそうだ。
「汁物は出さないんですか?」
この時代、汁物が主なのに。
「朝に出すよ。夜はいつもこれだね」
これ、なんだ。自分たちの食卓が豊かになったから忘れていたけど、今の時代を考えたらこれでも豪華なほうだ。
「芋があるなら芋餅を作ってもいいですか?」
さすがにこれじゃティナやルルががっかりしてしまう。せめて今日は芋餅を出してあげましょう。おかあちゃん特製のマー油は持って来ているからね。
「芋餅?」
「わたしの家で作っているものです。すぐ作れてとっても美味しいんですよ」
「へー。じゃあ、お願いしようかね」
よし。これで台所の食材を探れるわ。ウフフ。


