早いものでマレイスカ様たちが帰る日がやって来た。
感覚的には一月くらいいたような気がしないでもないけど、実質、十五日くらいだ。激動の日々だったわ。
「ゆっくりしに来たのに忙しい日々にしてしまい申し訳ありませんでした」
一応、謝っておく。わたしが誘導したところもあるからね。
「なに、謝ることはない、楽しい日々に感謝しかない。また来たいものだ」
「はい。そのときにはマラッカ場も広がっていると思います。余暇を楽しんでください」
そういう計画で進んでいる。次来るときは三コースくらいは出来ているんじゃないかしら?
「それは楽しみだ。誰か連れて来るか」
「では、いろいろ取り揃えておきます。形から入るのも楽しいですからね」
バイバナル商会とルクゼック商会に頑張りいただきましょう。わたしたちがいなくてもいいようにね。
朝の十時くらいにマレイスカ様たちが民宿を出た。
今日はお城に泊まるというのでわたしたちも同行させられ、伯爵夫妻との夕食の席にまで連れ出されてしまった。
何事もなく夕食は終わり、明日のために早くに就寝。まだ陽も昇らないときから起き出して料理長さんとお弁当作りを行った。
さすがに魔法の鞄は渡せないので密封って転写にして二日分を用意した。
王都まで四日から五日らしいけど、王都に近付けば貴族相手の宿があるそうなので、二日分あれば大丈夫なんだってさ。
陽が昇り、マレイスカ様が出て来た。
「世話になったな」
「楽しかったわ」
奥様に一人一人抱き締められた。特にマリカルと仲良くなれたようで猫耳を重点的に撫でていた。奥様、猫好きか?
長い別れを惜しみ、やっとこさ馬車に乗り込んだ。
「お元気で。また会える日を楽しみにしております」
持ちつ持たれつな関係とは言え、前世のおばあちゃんやおじいちゃんが重なってしまう。二人には長生きして欲しいわ。
「ええ。また会いましょうね」
奥様が名残惜しそうに涙を流している。それだけ気に入ってもらえたことが嬉しいわ。
馬車が出発して、わたしは走り出して手を振った。
「さようなら~!」
何か昔のアニメで観たようなことしてるな~と思いながら門のところまで走り、馬車の姿が見えなくなるまで手を振った。
いつの間にかティナとマリカルも来ていた。
「いい人たちだったよね」
「貴族とは思えないくはい気さくだった」
うんとだけ答え、ため息を一つ吐いて気持ちを切り替えた。
「次はプランガル王国だね」
長い旅になるから必要なものはたくさんある。快適な旅をするために可能な限り用意しなくちゃ。
でも、その前に伯爵様やマルケルさんたちと話し合いをしなくちゃダメか。こちらも用意しなくちゃならないことはたくさんあるんだからね。
「そうだね。わたしは冒険者ギルドに手紙を出してくるよ。終わったら先に帰るね」
マリカルとはそこで別れ、伯爵様のところに戻った。
「申し訳ありませんでした」
勝手に動いてしまったことを謝った。
「いや、お前のお陰でマレイスカ様と深く繋がれた。まあ、いろいろ問題も出来たがな。それでもコンミンド家としては利を得ることは出来た。感謝しかない」
「もったいないお言葉です」
「わたしも王都に戻らねばならん。それまでに解決出来ることや問題点を把握しておきたい。もうしばらく付き合ってもらうぞ」
「はい。お任せください」
飛ぶ鳥跡を濁さず、って言うしね。納得するまで付き合いますとも。
それから五日、お城で過ごし、午前と午後、マルケルさんやハガリアさんも交ざって話し合いを続けた。
「ふー。やっと終わった」
すっかり厳しい冬は越えており、気温も二桁に近付いている気がする。あと一月もすれば春の山菜が生えてきそうだわ。
「キャロルさん。行きますよ」
終わったのは伯爵様との話し合い。次はマルケルさんやハガリアさんたちとの話し合いが待っている。飛ぶ鳥──うんぬんは省略してバイバナル商会にドナドナされてしまった。
こちらでも同じくらい拘束され、やっと山の家に帰ったら春と言ってもいい季節になっていた。
……そんなに拘束されてたか、わたし……?
って思うくらい今年春は早かったようだ。
「民宿、通常営業に戻ったみたいね」
お金持ちが乗りそうな馬車が停まっていた。さすがに客足が落ちると思ったけど、そうでもなかったみたいね。よかったよかった。
そのまま家に向かうと、ローダルさんがいた。
「お久しぶりです。支部に寄らなくてよかったんですか?」
「ああ。知り合いを民宿に連れて来たんでな。支部にこれこら行くよ」
「そうだったんですね。わざわざ呼び付けて申し訳ありませんでした」
「いや、構わないよ。おれは気ままな行商人。商売があればどこにでも行くさ」
その設定、まだ生きているんだ。まあ、別に本性を暴きたいわけでもなので追及はしない。そのまま貫かせてあげましょう。
「プランガル王国のことは聞いたんですか?」
「大まかなことはな。お嬢ちゃんから話を聞かせてくれ」
「わかりました。今日は今日泊まっていきますか?」
「ああ。一晩お世話になるよ。あ、そこのはお土産だ。遠慮なく使ってくれ」
何の荷物かと思ったらお土産だったのね。
「ありがとうございます。今日はご馳走にしますね」
お城の料理もいいけど、お肉が少ないのが残念だった。塩漬け肉があるからトンカツでもしましょうかね。
「それはありがたい。お嬢ちゃんの料理が食いたかったんだよ」
「ふふ。お世辞が上手なんだから」
さて。カツサンドも作ってあげましょうかね。
感覚的には一月くらいいたような気がしないでもないけど、実質、十五日くらいだ。激動の日々だったわ。
「ゆっくりしに来たのに忙しい日々にしてしまい申し訳ありませんでした」
一応、謝っておく。わたしが誘導したところもあるからね。
「なに、謝ることはない、楽しい日々に感謝しかない。また来たいものだ」
「はい。そのときにはマラッカ場も広がっていると思います。余暇を楽しんでください」
そういう計画で進んでいる。次来るときは三コースくらいは出来ているんじゃないかしら?
「それは楽しみだ。誰か連れて来るか」
「では、いろいろ取り揃えておきます。形から入るのも楽しいですからね」
バイバナル商会とルクゼック商会に頑張りいただきましょう。わたしたちがいなくてもいいようにね。
朝の十時くらいにマレイスカ様たちが民宿を出た。
今日はお城に泊まるというのでわたしたちも同行させられ、伯爵夫妻との夕食の席にまで連れ出されてしまった。
何事もなく夕食は終わり、明日のために早くに就寝。まだ陽も昇らないときから起き出して料理長さんとお弁当作りを行った。
さすがに魔法の鞄は渡せないので密封って転写にして二日分を用意した。
王都まで四日から五日らしいけど、王都に近付けば貴族相手の宿があるそうなので、二日分あれば大丈夫なんだってさ。
陽が昇り、マレイスカ様が出て来た。
「世話になったな」
「楽しかったわ」
奥様に一人一人抱き締められた。特にマリカルと仲良くなれたようで猫耳を重点的に撫でていた。奥様、猫好きか?
長い別れを惜しみ、やっとこさ馬車に乗り込んだ。
「お元気で。また会える日を楽しみにしております」
持ちつ持たれつな関係とは言え、前世のおばあちゃんやおじいちゃんが重なってしまう。二人には長生きして欲しいわ。
「ええ。また会いましょうね」
奥様が名残惜しそうに涙を流している。それだけ気に入ってもらえたことが嬉しいわ。
馬車が出発して、わたしは走り出して手を振った。
「さようなら~!」
何か昔のアニメで観たようなことしてるな~と思いながら門のところまで走り、馬車の姿が見えなくなるまで手を振った。
いつの間にかティナとマリカルも来ていた。
「いい人たちだったよね」
「貴族とは思えないくはい気さくだった」
うんとだけ答え、ため息を一つ吐いて気持ちを切り替えた。
「次はプランガル王国だね」
長い旅になるから必要なものはたくさんある。快適な旅をするために可能な限り用意しなくちゃ。
でも、その前に伯爵様やマルケルさんたちと話し合いをしなくちゃダメか。こちらも用意しなくちゃならないことはたくさんあるんだからね。
「そうだね。わたしは冒険者ギルドに手紙を出してくるよ。終わったら先に帰るね」
マリカルとはそこで別れ、伯爵様のところに戻った。
「申し訳ありませんでした」
勝手に動いてしまったことを謝った。
「いや、お前のお陰でマレイスカ様と深く繋がれた。まあ、いろいろ問題も出来たがな。それでもコンミンド家としては利を得ることは出来た。感謝しかない」
「もったいないお言葉です」
「わたしも王都に戻らねばならん。それまでに解決出来ることや問題点を把握しておきたい。もうしばらく付き合ってもらうぞ」
「はい。お任せください」
飛ぶ鳥跡を濁さず、って言うしね。納得するまで付き合いますとも。
それから五日、お城で過ごし、午前と午後、マルケルさんやハガリアさんも交ざって話し合いを続けた。
「ふー。やっと終わった」
すっかり厳しい冬は越えており、気温も二桁に近付いている気がする。あと一月もすれば春の山菜が生えてきそうだわ。
「キャロルさん。行きますよ」
終わったのは伯爵様との話し合い。次はマルケルさんやハガリアさんたちとの話し合いが待っている。飛ぶ鳥──うんぬんは省略してバイバナル商会にドナドナされてしまった。
こちらでも同じくらい拘束され、やっと山の家に帰ったら春と言ってもいい季節になっていた。
……そんなに拘束されてたか、わたし……?
って思うくらい今年春は早かったようだ。
「民宿、通常営業に戻ったみたいね」
お金持ちが乗りそうな馬車が停まっていた。さすがに客足が落ちると思ったけど、そうでもなかったみたいね。よかったよかった。
そのまま家に向かうと、ローダルさんがいた。
「お久しぶりです。支部に寄らなくてよかったんですか?」
「ああ。知り合いを民宿に連れて来たんでな。支部にこれこら行くよ」
「そうだったんですね。わざわざ呼び付けて申し訳ありませんでした」
「いや、構わないよ。おれは気ままな行商人。商売があればどこにでも行くさ」
その設定、まだ生きているんだ。まあ、別に本性を暴きたいわけでもなので追及はしない。そのまま貫かせてあげましょう。
「プランガル王国のことは聞いたんですか?」
「大まかなことはな。お嬢ちゃんから話を聞かせてくれ」
「わかりました。今日は今日泊まっていきますか?」
「ああ。一晩お世話になるよ。あ、そこのはお土産だ。遠慮なく使ってくれ」
何の荷物かと思ったらお土産だったのね。
「ありがとうございます。今日はご馳走にしますね」
お城の料理もいいけど、お肉が少ないのが残念だった。塩漬け肉があるからトンカツでもしましょうかね。
「それはありがたい。お嬢ちゃんの料理が食いたかったんだよ」
「ふふ。お世辞が上手なんだから」
さて。カツサンドも作ってあげましょうかね。