「……マレイスカ様。よろしいでしょうか? わたしとしては許可を出したいと思うのですが」

 熟考した伯爵様がやっと口を開いた。

「王国の一大事に関わることなら反対は出来ん。まずはコンミンド伯爵の名で調べてくれ。こちらも根回しはしておこう」

「ありがとうございます」

 伯爵様がこちらを見て手を振った。席を外せとね。

「失礼します」

 一礼して部屋を退出した。

 ほぼ許可が出たようなものなので、バイバナル商会が集まる部屋に向かった。

 部屋にはマルケルさんや商会でも上の人が集まっていた。

「マルケルさん。ローダルさんって呼べますか?」

「ローダルを、ですか?」

「はい。ちょっと相談したいことがあるもので。春までに会いたいです」

 わたしの言葉から不穏なことを感じ取ったのでしょう。表情が固くなった。

「まだ詳しいことは言えませんが、わたしたちはプランガル王国に旅立つかもしれません。その相談をローダルさんとしたいんです」

「……キャロルさんのことだから断れない状況になっているんでしょうね……」

「やるやらないはバイバナル商会が決めて構いませんよ。わたし、強制するの嫌いですから」

 わたしは自由に生きたいと思っている。だから他者の自由も大切にしたい。断られたら諦めるわ。

「それがもう強制みたいなものなんですよ。ちゃんとバイバナル商会の利益も考えていますよね?」

「プランガル王国との交易権、とかですかね?」

 伯爵様とマレイスカ様の後ろ盾があり、プランガル王国と繋がるマリカルがいる。これほどカードが揃っていて勝負を放棄する商人がいるなら見てみたいものだわ。

「……いつから考えいたんですか……?」

「旅に出ることがわたしの夢なんです。旅に出たいと思ったときから手札を集め始めました。今回、手札が揃ったから出したまでです」

 王都に行けるカードが揃えられなかったからプランガル王国に行けるカードを切ったまでよ。

「その計画は決まったわけではないのですね?」

「計画の形が見えてきたのでマルケルさんに声を掛けました」

 ちゃんと準備期間を与えないとわたしたちの関係が悪くなるからね。充分な準備期間を与えなくちゃ申し訳ないってものでしょう。

「ハァー。わかりました。こいらも話を進めておきましょう。その前にマレイスカ様のことを進めましょう」

「はい。わかりました」

 夜もふけてきたのでバイバナル商会の方々には解散してもらい、また明日来てもらうことに。ルクゼック商会の方々はお城に泊まってもらう。わたしたちもお嬢様係として与えられていた部屋で休んだわ。

 朝になり、奥様の服を作るのに付き合い、マレイスカ様や伯爵様の相手はティナやマルケルさんに任せた。

「とてもいい服ね」

 奥様には散歩用の服を用意した。創作活動には外を歩くのも大事と聞いたことがあるからね、奥様の年齢に適した散歩服を作ったのよ?

「ありがとうございます。次はお抱えの針師に作らせてください。寸法は側仕えの方に渡しておきますので」

「本当にいいの? 他の針師に作らせたりして……」

「構いません。針師の方にこちらの腕を示すためのものですから」

 特許とかない世界。いいものはすぐに真似される。だけど、称号《ロゴ》だけは付けないようにお願いしている。侯爵夫人の針師が称号《ロゴ》まで真似たら奥様の名を汚すことになる。

 そういう法がないからこそ信頼は大事なのだそうだ。任される針師も奥様を敵にしてまで真似はしないでしょうよ。

 それに、地方の針師が作った服を真似た服を作ったなど公言出来ないでしょう。よほどの恥知らずでもなければね。

「あなたの考えがまったくわからないわ」

「口で説明するのは難しいので、どうなるか見ていてください」

 わたしも計算づくで動いているわけじゃない。ルクゼック商会の名が広まればそれでよし。その他は副産物でしかないわ。失敗しても構わないのよ。

「失礼します。キャロル。マレイスカ様の試しが終わりました。こちらをお願いします」

 お嬢様係モードになったティナがやって来た。

「わかりました。ロコルさん。お願いします」

 この場は側仕えの方々に任せてマレイスカ様のところに向かった。

「お待たせしました。服は具合は如何でしたでしょうか?」

「悪くない。やはり普段で着ていたいものだな」

 相当気に入ったようね。

「それはなによりです。バイバナル商会を通じてお届けさせていただきます」

「それはありがたい。もうこの服がないと落ち着かんよ」

「キャロル。わたしにも作ってくれるか?」

 伯爵様も気になるようでマラッカウェアを求めてきた。

「はい。大まかには作ってありますのですぐに採寸を致します。夜には完成させられると思います」

 求められることは予想していたからね。パーツは作っておいたわ。

「……お前は、本当に用意周到だな……」

「お嬢様に教えていただきました」

「娘に? あいつも何か用意しているのか?」

「お嬢様ですからきっと何かを用意しながら日々を過ごしているのかと思います」

 わたしたちにしゃべることはなかったけど、お嬢様なら何かを考えて行動しているでしょうね。

「……一度、娘と面会しなくてはならんな……」

 会えるものなんだ。

「お嬢様と面会出来るのでしたら差し入れを用意しなくてはなりませんね」

「あまり変なものは送るなよ。変なものは弾かれるからな」

 その情報に無言で頭を下げた。きっとあまり教えちゃいけないことだと思うからね。