マグリックさんの魔法に感動してしまった。
これまで魔法は見てはいたけど、ゲームのような魔法はこれが初めて。この世界の魔法、わたしが考えるより凄いのかもしれないわ。
「今の、何回できますか?」
「んー。数えたことはないが、十回以上は出来ると思うぞ」
三十畳くらいの倉庫が一瞬にして氷の世界になってしまった。
マグリックさんの表情からそう魔力を使った様子はない。少し歩いたていどのものでしかないみたいだ。
「お城の魔法使いになれたのでは?」
もしかして貴族の出ではないかしら? マグリックさんって。
「実力だけではなれんよ」
「人間関係ですか?」
「ふふ。人の世は強さだけではやっていけんってことだ」
「難しいんですね」
わたしはまだ人間社会に立って二年も過ぎてない。
「まあ、出世するだけが成功ではないさ。こうして人の繋がりでいい仕事にありつけた。城で頭を下げているより何倍もいい」
人の幸せは千差万別。マグリックさんが満足しているならわたしがどうこう言うつもりはないわ。わたしとしても氷を出せる系の魔法使いは欲しかったからね。
「しかし、冬に氷室を作って意味あるのか?」
「温度が一定じゃないと生物は長期保存出来ません。それを知るためにもまずは氷が凍る温度と凍らない温度で保存を調べるんです」
この時代に気温の数値は存在せず概念すらない。ただ氷室はあるようで、何でもかんでも冷やせばいいものじゃないってことは知られているそうよ。
「マグリックさんって、ゆっくり氷を作ることは出来ますか? 氷の中に空気を入れないように」
「変な注文だな?」
「そのほうが溶け難いんです。強いお酒なんかに入れると、普通に凍らせるより長く持つんです。実験しました」
「強い酒? 蒸留酒か?」
「はい。去年に仕込んだので伯爵様とマレイスカ様に飲んでもらおうと思いまして」
「蒸留酒は秘中の秘だぞ?」
「基礎は知られていて、蒸留酒という答えがあります。その間を探して行けは答えに辿り着くことは可能です。まあ、手間隙は掛かりましたけどね」
「それがわからんから世に蒸留酒は広まってないんだがな」
「まあ、蒸留するだけで一苦労ですからね。それをさらに飲めるようにするのは難しかったです。世に広めようとしたら莫大な資金が必要となるでしょうよ」
個人で作るとなると樽一つが精々じゃないかな? 元となるワインが三から四倍は必要だったからね。
「お嬢ちゃんは発明家にでもなる気か?」
「わたしは冒険者になるのが夢です。今はその資金稼ぎとコネ作りですね」
あっちにフラフラ、こっちにフラフラしているように見えているかもしれないけど、これでも考えて行動はしてますから。これも計画の一部なんです。
「冒険者なんぞ過酷なだけだぞ」
「そうならないための準備ですよ。わたし、危険なことがしたいわけじゃないですから」
世界を見て回るには冒険者になるのが一番なだけで、過酷な日々を送りたいわけじゃない。楽出来るところは楽をし、快適な旅が出来るように考えているんだから。
「マグリックさんの魔法を転写出来るようになれば暑い日でも涼しく過ごせますし、飲み水を集めることも可能です。そう言えば、火とか出せないんですか?」
「火は苦手だな。わしは、氷に長けていたからこれを極めてきたんだよ」
「……熱を操るってことですか?」
「熱?」
「はい。魔力で周囲の温度を下げて魔法を発動しているんですよね?」
「あ、いや、イリジクツだな」
「イリジクツ?」
「頭の中で現象を思い浮かべることだな。これがはっきりと思い浮かべられると発動効果が大きくなるんだよ」
イメージか。確かに呪文とか魔法陣とか見たことはないな。お嬢様に魔法を教えていた先生も魔法適正により教え方も違うとか言ってたっけ。
「ちょっと試してもらっていいですか?」
「何をするんだ?」
「ちょっと待ってててください」
その場から離れ、バケツに水を入れて戻ってきた。
「この水を強く振動させるイリジクツをしてください。水の粒を擦るように強く速く振動させるように」
「うむ。やってみよう」
バケツの水に手を向け、瞼を閉じて集中した。どうなる?
長年イリジクツをしてきただけあるのか、水から湯気が出てきてグツグツ煮えてきた。やはり魔法でも物理法則は起こせるんだ。
「どういうことだ? こんなことが出来るなんて……」
「上手く説明出来ませんが、手を擦ると温かくなりますよね。あれって擦れて熱が発生しているってことです。なら、その摩擦を止めて行けば冷たくなるんじゃないかって考えていたんです。やはり、マグリックさんは熱を操れる魔法使いなんだと思います。ただ、止めるほうに才能が片寄っていたんじゃないですかね?」
「……熱を操る……」
そんなこと考えたこともなかったって驚きね。
「イリジクツも良し悪しですね」
と言うか、この世界の人、感覚に頼りすぎじゃない。考えるな、感じろってか?
「これでお湯を沸かす魔法が手に入れられました」
付与魔法で熱を発生させるってことだ。マッチではなく熱を発する棒とかあってもいいわね。ヒートスティックとかいいわね。
これまで魔法は見てはいたけど、ゲームのような魔法はこれが初めて。この世界の魔法、わたしが考えるより凄いのかもしれないわ。
「今の、何回できますか?」
「んー。数えたことはないが、十回以上は出来ると思うぞ」
三十畳くらいの倉庫が一瞬にして氷の世界になってしまった。
マグリックさんの表情からそう魔力を使った様子はない。少し歩いたていどのものでしかないみたいだ。
「お城の魔法使いになれたのでは?」
もしかして貴族の出ではないかしら? マグリックさんって。
「実力だけではなれんよ」
「人間関係ですか?」
「ふふ。人の世は強さだけではやっていけんってことだ」
「難しいんですね」
わたしはまだ人間社会に立って二年も過ぎてない。
「まあ、出世するだけが成功ではないさ。こうして人の繋がりでいい仕事にありつけた。城で頭を下げているより何倍もいい」
人の幸せは千差万別。マグリックさんが満足しているならわたしがどうこう言うつもりはないわ。わたしとしても氷を出せる系の魔法使いは欲しかったからね。
「しかし、冬に氷室を作って意味あるのか?」
「温度が一定じゃないと生物は長期保存出来ません。それを知るためにもまずは氷が凍る温度と凍らない温度で保存を調べるんです」
この時代に気温の数値は存在せず概念すらない。ただ氷室はあるようで、何でもかんでも冷やせばいいものじゃないってことは知られているそうよ。
「マグリックさんって、ゆっくり氷を作ることは出来ますか? 氷の中に空気を入れないように」
「変な注文だな?」
「そのほうが溶け難いんです。強いお酒なんかに入れると、普通に凍らせるより長く持つんです。実験しました」
「強い酒? 蒸留酒か?」
「はい。去年に仕込んだので伯爵様とマレイスカ様に飲んでもらおうと思いまして」
「蒸留酒は秘中の秘だぞ?」
「基礎は知られていて、蒸留酒という答えがあります。その間を探して行けは答えに辿り着くことは可能です。まあ、手間隙は掛かりましたけどね」
「それがわからんから世に蒸留酒は広まってないんだがな」
「まあ、蒸留するだけで一苦労ですからね。それをさらに飲めるようにするのは難しかったです。世に広めようとしたら莫大な資金が必要となるでしょうよ」
個人で作るとなると樽一つが精々じゃないかな? 元となるワインが三から四倍は必要だったからね。
「お嬢ちゃんは発明家にでもなる気か?」
「わたしは冒険者になるのが夢です。今はその資金稼ぎとコネ作りですね」
あっちにフラフラ、こっちにフラフラしているように見えているかもしれないけど、これでも考えて行動はしてますから。これも計画の一部なんです。
「冒険者なんぞ過酷なだけだぞ」
「そうならないための準備ですよ。わたし、危険なことがしたいわけじゃないですから」
世界を見て回るには冒険者になるのが一番なだけで、過酷な日々を送りたいわけじゃない。楽出来るところは楽をし、快適な旅が出来るように考えているんだから。
「マグリックさんの魔法を転写出来るようになれば暑い日でも涼しく過ごせますし、飲み水を集めることも可能です。そう言えば、火とか出せないんですか?」
「火は苦手だな。わしは、氷に長けていたからこれを極めてきたんだよ」
「……熱を操るってことですか?」
「熱?」
「はい。魔力で周囲の温度を下げて魔法を発動しているんですよね?」
「あ、いや、イリジクツだな」
「イリジクツ?」
「頭の中で現象を思い浮かべることだな。これがはっきりと思い浮かべられると発動効果が大きくなるんだよ」
イメージか。確かに呪文とか魔法陣とか見たことはないな。お嬢様に魔法を教えていた先生も魔法適正により教え方も違うとか言ってたっけ。
「ちょっと試してもらっていいですか?」
「何をするんだ?」
「ちょっと待ってててください」
その場から離れ、バケツに水を入れて戻ってきた。
「この水を強く振動させるイリジクツをしてください。水の粒を擦るように強く速く振動させるように」
「うむ。やってみよう」
バケツの水に手を向け、瞼を閉じて集中した。どうなる?
長年イリジクツをしてきただけあるのか、水から湯気が出てきてグツグツ煮えてきた。やはり魔法でも物理法則は起こせるんだ。
「どういうことだ? こんなことが出来るなんて……」
「上手く説明出来ませんが、手を擦ると温かくなりますよね。あれって擦れて熱が発生しているってことです。なら、その摩擦を止めて行けば冷たくなるんじゃないかって考えていたんです。やはり、マグリックさんは熱を操れる魔法使いなんだと思います。ただ、止めるほうに才能が片寄っていたんじゃないですかね?」
「……熱を操る……」
そんなこと考えたこともなかったって驚きね。
「イリジクツも良し悪しですね」
と言うか、この世界の人、感覚に頼りすぎじゃない。考えるな、感じろってか?
「これでお湯を沸かす魔法が手に入れられました」
付与魔法で熱を発生させるってことだ。マッチではなく熱を発する棒とかあってもいいわね。ヒートスティックとかいいわね。