マレイスカ様のマラッカウェアが完成した。
さすが針師の技量は凄いものよね。もう魔法だわ。
「いいではないか。常に着ていたいものだ」
マレイスカ様も気に入ってくれたようだ。
「では、部屋着にしたものを作りましょうか? 人前に出ないのでしたらゆったりした寸法にも出来ますし」
ロコルさんの許諾はないけど、ルクゼック商会としてはありがたいことでしょう。
「それはよいの。人前に出ないときくらい緩やかな服でいたいからの」
「ロコルさん。お願いしますね」
「はい。すぐに作らせていただきます」
少し表情は固いけど、動揺はしてないみたい。覚悟は決まっているよね。
「本当は靴も新調したかったのですが、さすがに今日明日は不可能なので完成したらバイバナル商会を通じて送らせていただきます」
「靴はまあ仕方がないの。楽しみに待っておるよ」
「はい。マレイスカ様、着替えますか? それともその服を慣らしますか?」
「しばらく着ていよう。この服は本当によいからの」
「疲れていないのならマラッカ棒を少し振ってみますか? 服の強度も知っておくのもいいと思うので」
ロコルさんの作りに問題ないとは言え、マレイスカ様にそれはわからない。動いてみてこそわかることもある。安心して着てもらうためにも試してもらうのが一番だわ。
「そうだな。少し動いてみるか」
「ハガリアさん。マレイスカ様のお供をお願いします。わたしは夕食の手伝いがありますので」
ギョっとするハガリアさん。いや、ルクゼック商会が請け負っているんだから驚かないでくださいよ。
「なんだ、キャロルは料理人もやるのか?」
「料理というよりお酒の用意ですね。お城にあった本に蒸留酒の作り方があったので去年から試していたんです。いつか伯爵様に献上しようと思っていたのですが、せっかくだから一年熟成させたものを飲んでもらおうと思いました。その用意です」
「蒸留酒? お前は蒸留酒の作り方を知っておるのか? あれは一子相伝の技術だぞ」
「そうなんですか? 蒸留酒の仕組みは本に書いてありましたけど」
「それは基本中の基本だ。飲めるような蒸留酒などわたしでも滅多に飲めんぞ」
「基本さえわかればあとは創意工夫です。失敗を何度も重ねれば成功に辿り着けます。と言ってもお酒の味がわからないので成功しているか失敗しているかわかりませんけど」
この世界で初めて葡萄酒を口にした。いいのか悪いのかなんてわからないわ。
「……お前は本当に凄いのだな……」
「完成させたわけではありませんし、小樽に三つしかありません。おそらくですが、ちゃんと飲めるには三、四年は掛かるんじゃないかと思います」
蒸留酒の熟成期間なんて知らないけど、蒸留酒も年数を重ねたほうが美味しいんじゃない? よく何年物とか聞くしさ。
「美味しかったらバイバナル商会に作ってもらいます」
「……バイバナル商会は本当に大変だな。こんな変人を抱えなくてはならんのだから……」
なぜか呆れてしまった。何でや?
「では、失礼します。ハガリアさん。ロコルさん。あとはお願いしますね」
夕食まであと二時間くらい。氷を作らなくちゃならないのよ。
部屋を出て厨房に向かうと、ベテランの料理人さんたちが忙しく動き回っていた。
「料理長さん。氷を出せる魔法使いさんはどこですか?」
「第二厨房にいるよ」
と言われたので第二厨房に行ってみると、白髪の老人が椅子に座っていた。
「副料理長さん。この方がそうですか?」
「ああ。冒険者を引退して城で働いてもらうようになったマグリック老だ」
老は敬意するときに使われるはず。ってことはかなり高名な冒険者だったのかな?
「マグリック老。この子が氷を作れる魔法使いを雇うべきだと言った張本人だよ」
「キャロルです」
普通に名乗り、お辞儀した。
「なるほど。変わった子とは聞いておったが、確かに変わっておるわ」
今のどこに変わった様子があった? お辞儀しただけだよね?
「ふふ。お前さんの行動ではなく、魔力のことだよ。固有魔法持ちなんだって?」
「はい。転写系の固有魔法っぽいです。本当かどうかはわからないですけど」
「それでよい。無駄に調べる必要はない。そういうことにしておくとよい」
わたしが転写系じゃないって見抜いている? いや、追及してこないのなら流しておくべきだ。せっかく忠告してくれたんだからね。
「ありがとうございます」
「ふふ。なに、サナリクスのアルセクスはわしの弟子で、この仕事を紹介してもらった。その恩を返しているだけさ」
ってことはわたしが付与魔法であることを知っているわけか。
「アルセクスさんのお師匠様がよろしいんですか? 氷を作る仕事ですよ?」
「この歳になると仕事を探すのも大変だ。寝床をもらえて朝昼晩と食えるななら喜んで氷を作らせてもらうよ」
年金とかない時代だし、最後まで働かないといけないんだ。まさか異世界でも金貨二千枚問題に直面するとは思わなかったわ。
「堅実な生活が一番ですね」
「そうだな。それが一番だ」
まあ、わたしは危険な生活を送ろうとしているけどね。
さすが針師の技量は凄いものよね。もう魔法だわ。
「いいではないか。常に着ていたいものだ」
マレイスカ様も気に入ってくれたようだ。
「では、部屋着にしたものを作りましょうか? 人前に出ないのでしたらゆったりした寸法にも出来ますし」
ロコルさんの許諾はないけど、ルクゼック商会としてはありがたいことでしょう。
「それはよいの。人前に出ないときくらい緩やかな服でいたいからの」
「ロコルさん。お願いしますね」
「はい。すぐに作らせていただきます」
少し表情は固いけど、動揺はしてないみたい。覚悟は決まっているよね。
「本当は靴も新調したかったのですが、さすがに今日明日は不可能なので完成したらバイバナル商会を通じて送らせていただきます」
「靴はまあ仕方がないの。楽しみに待っておるよ」
「はい。マレイスカ様、着替えますか? それともその服を慣らしますか?」
「しばらく着ていよう。この服は本当によいからの」
「疲れていないのならマラッカ棒を少し振ってみますか? 服の強度も知っておくのもいいと思うので」
ロコルさんの作りに問題ないとは言え、マレイスカ様にそれはわからない。動いてみてこそわかることもある。安心して着てもらうためにも試してもらうのが一番だわ。
「そうだな。少し動いてみるか」
「ハガリアさん。マレイスカ様のお供をお願いします。わたしは夕食の手伝いがありますので」
ギョっとするハガリアさん。いや、ルクゼック商会が請け負っているんだから驚かないでくださいよ。
「なんだ、キャロルは料理人もやるのか?」
「料理というよりお酒の用意ですね。お城にあった本に蒸留酒の作り方があったので去年から試していたんです。いつか伯爵様に献上しようと思っていたのですが、せっかくだから一年熟成させたものを飲んでもらおうと思いました。その用意です」
「蒸留酒? お前は蒸留酒の作り方を知っておるのか? あれは一子相伝の技術だぞ」
「そうなんですか? 蒸留酒の仕組みは本に書いてありましたけど」
「それは基本中の基本だ。飲めるような蒸留酒などわたしでも滅多に飲めんぞ」
「基本さえわかればあとは創意工夫です。失敗を何度も重ねれば成功に辿り着けます。と言ってもお酒の味がわからないので成功しているか失敗しているかわかりませんけど」
この世界で初めて葡萄酒を口にした。いいのか悪いのかなんてわからないわ。
「……お前は本当に凄いのだな……」
「完成させたわけではありませんし、小樽に三つしかありません。おそらくですが、ちゃんと飲めるには三、四年は掛かるんじゃないかと思います」
蒸留酒の熟成期間なんて知らないけど、蒸留酒も年数を重ねたほうが美味しいんじゃない? よく何年物とか聞くしさ。
「美味しかったらバイバナル商会に作ってもらいます」
「……バイバナル商会は本当に大変だな。こんな変人を抱えなくてはならんのだから……」
なぜか呆れてしまった。何でや?
「では、失礼します。ハガリアさん。ロコルさん。あとはお願いしますね」
夕食まであと二時間くらい。氷を作らなくちゃならないのよ。
部屋を出て厨房に向かうと、ベテランの料理人さんたちが忙しく動き回っていた。
「料理長さん。氷を出せる魔法使いさんはどこですか?」
「第二厨房にいるよ」
と言われたので第二厨房に行ってみると、白髪の老人が椅子に座っていた。
「副料理長さん。この方がそうですか?」
「ああ。冒険者を引退して城で働いてもらうようになったマグリック老だ」
老は敬意するときに使われるはず。ってことはかなり高名な冒険者だったのかな?
「マグリック老。この子が氷を作れる魔法使いを雇うべきだと言った張本人だよ」
「キャロルです」
普通に名乗り、お辞儀した。
「なるほど。変わった子とは聞いておったが、確かに変わっておるわ」
今のどこに変わった様子があった? お辞儀しただけだよね?
「ふふ。お前さんの行動ではなく、魔力のことだよ。固有魔法持ちなんだって?」
「はい。転写系の固有魔法っぽいです。本当かどうかはわからないですけど」
「それでよい。無駄に調べる必要はない。そういうことにしておくとよい」
わたしが転写系じゃないって見抜いている? いや、追及してこないのなら流しておくべきだ。せっかく忠告してくれたんだからね。
「ありがとうございます」
「ふふ。なに、サナリクスのアルセクスはわしの弟子で、この仕事を紹介してもらった。その恩を返しているだけさ」
ってことはわたしが付与魔法であることを知っているわけか。
「アルセクスさんのお師匠様がよろしいんですか? 氷を作る仕事ですよ?」
「この歳になると仕事を探すのも大変だ。寝床をもらえて朝昼晩と食えるななら喜んで氷を作らせてもらうよ」
年金とかない時代だし、最後まで働かないといけないんだ。まさか異世界でも金貨二千枚問題に直面するとは思わなかったわ。
「堅実な生活が一番ですね」
「そうだな。それが一番だ」
まあ、わたしは危険な生活を送ろうとしているけどね。