お二方が民宿に来て早十日。
他のお客さんに忘れられそうになるんじゃないかと思うけど、侯爵様が気に入った宿、としての名は欲しくても滅多には得られない名誉。それだけでこの先何年も戦えるとのことだった。
まあ、隠居した身とは言え、いつまでもここにいられるわけでもない。長くとも二十日から三十日くらいでしょうとのこと。
最初は十日を予定していたみたいだけど、帰るとは聞いてないので延長したのでしょう。この分では三十日くらい滞在しそうね。
わたしはマレイスカ様と奥様を行ったり来たり。ロックダル様や側仕えの方々と打ち合わせ。わたしの見習い冒険者期間はどこに行ったんだ?
そうは思いはしても大貴族相手にどうこう言えるわけもなし。ただ淡々と今をこなすしかないわ。
「キャロルさん、少しよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
レンラさんに呼ばれて事務所に向かった。
「ゴブリンが討伐されたそうです」
「へー。それは何よりですね」
こちらまで話が流れて来ないのですっかり忘れてたけど。
「ええ。死者も出たそうですが、二百匹以上いたゴブリンは討伐されたそうです」
二百匹もいたの!? かなり大事だったじゃん!
「コンミンド伯爵領は大丈夫なんですか?」
村一つ滅んだようなもの。収入、かなり減ったんじゃない?
「かなり痛手を負いましたが、お家が崩れるほどではありません。天候が悪くなったり農作物が実らなかったわけでもありませんからね」
そんなものなんだ。時代劇みたいに若い娘が売られるってことはないのね。
「ゴブリン討伐も終わったので、伯爵様がマレイスカ様方をお城に呼ぼうと思っているようなんです」
まあ、侯爵が来ているのなら呼びたいと思うのは不思議じゃないことよね。
「──もしかして、わたしに説得しろと?」
そんなことないよね? てか、なんでわたしが説得することになるのよ?
「はい。どうにかならないでしょうか?」
「……伯爵様とマレイスカ様、関係がよくないのですか……?」
どんな関係か知りたくないけど、そこを聞いておかないと説得もなにもあったものじゃないわ。
「悪くはないですが、そこまでいい関係ではあるとは言えません。今回のことはバイバナル商会の会長から話を通して、伯爵様には協力していただいた、と言った感じです」
「面倒ですね」
率直な感想を口にした。
「……はい。面倒なことです……」
「あちらを立てればこちらが立たず、と言うわけですか」
「上手いことをおっしゃいますね。まさにそのとおりです。両方を立てるいい方法はないものでしょうか?」
レンラさんもバイバナル商会では上のほうでもさらに上がいるってことか。大人の世界は大変よね……。
子供に頼らないでください、何てことは今さら。子供らしからぬことをやっているんだからね。
「急ぎですか?」
「今日中に決めていただけるとこちらも早めに動けます」
無茶なこと言ってくるわね。
「ロンドカ村に鍛冶工房ってあります? 鉄を打つのが優秀な方がいれば最高です」
「すぐに用意させます」
そういうところは早いよね。工房の職人さんには申し訳ないけど。
「ガラス職人も用意できます?」
窓ガラスがあるくらいだからいるはずだ。
「用意させます」
「あと、ルクゼック商会の全面的協力をいただければ」
「もちろん、全面的協力させます」
これでマレイスカ様や伯爵様を動かせないんだから人間社会は大変よね……。
「じゃあ、マレイスカ様に相談してみます。お城はお二方を招き入れる準備はできているんですよね?」
「必要とあれば民宿の者を送ります」
完全にわたしなら何とかすると思っての行動のようだ。わたし、そこまでじゃないのになぁ~。
「わかりました。マレイスカ様に話して来ます」
マラッカ場に向かった。
「マレイスカ様。その棒、クラブのことで少しお話しがしたいのですが、よろしいでしょうか?」
打ちっぱなしをしているマレイスカ様に話し掛けた。
「どうした?」
「はい。クラブの打つところ金属にしたいと思いまして、ロンドカ村の鍛冶工房に行こうと思いまして。お城に協力を求めたら快く引き受けてくださったので奥様と一緒に行ってみませんか? 奥様にもガラスで作った筆を見てみたいのです」
「金属にする?」
「はい。玉もよくなりましたが、木だと飛ばすのに限界があります。より遠くに飛ばすなら金属にしたほうがいいかと思いました」
金属にするのはもっと先にしたかったんだけど、伯爵様を立てるには今使うしかないわ。
「……なるほど。金属か……」
「はい。興味があるなら準備を進めますが、如何なさいますか?」
断られたらそれにて終了。また別の方法を考えるとしましょう。何も案はないけどさ。
「……そうだな。コンミンド伯爵にも挨拶をしたいと思っていたところだ。世話になるとしよう」
なんだ。それなら正攻法で行くんだったよ。手札を無駄に一枚切っちゃったじゃない。
「わかりました。こちらで進めておきます。あ、もし、どんな形にしたいか案があれば考えておいてください。使えるかどうか試したいので」
「わたしが考えるか。うむ。やってみよう」
乗り気でなによりだわ。
他のお客さんに忘れられそうになるんじゃないかと思うけど、侯爵様が気に入った宿、としての名は欲しくても滅多には得られない名誉。それだけでこの先何年も戦えるとのことだった。
まあ、隠居した身とは言え、いつまでもここにいられるわけでもない。長くとも二十日から三十日くらいでしょうとのこと。
最初は十日を予定していたみたいだけど、帰るとは聞いてないので延長したのでしょう。この分では三十日くらい滞在しそうね。
わたしはマレイスカ様と奥様を行ったり来たり。ロックダル様や側仕えの方々と打ち合わせ。わたしの見習い冒険者期間はどこに行ったんだ?
そうは思いはしても大貴族相手にどうこう言えるわけもなし。ただ淡々と今をこなすしかないわ。
「キャロルさん、少しよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
レンラさんに呼ばれて事務所に向かった。
「ゴブリンが討伐されたそうです」
「へー。それは何よりですね」
こちらまで話が流れて来ないのですっかり忘れてたけど。
「ええ。死者も出たそうですが、二百匹以上いたゴブリンは討伐されたそうです」
二百匹もいたの!? かなり大事だったじゃん!
「コンミンド伯爵領は大丈夫なんですか?」
村一つ滅んだようなもの。収入、かなり減ったんじゃない?
「かなり痛手を負いましたが、お家が崩れるほどではありません。天候が悪くなったり農作物が実らなかったわけでもありませんからね」
そんなものなんだ。時代劇みたいに若い娘が売られるってことはないのね。
「ゴブリン討伐も終わったので、伯爵様がマレイスカ様方をお城に呼ぼうと思っているようなんです」
まあ、侯爵が来ているのなら呼びたいと思うのは不思議じゃないことよね。
「──もしかして、わたしに説得しろと?」
そんなことないよね? てか、なんでわたしが説得することになるのよ?
「はい。どうにかならないでしょうか?」
「……伯爵様とマレイスカ様、関係がよくないのですか……?」
どんな関係か知りたくないけど、そこを聞いておかないと説得もなにもあったものじゃないわ。
「悪くはないですが、そこまでいい関係ではあるとは言えません。今回のことはバイバナル商会の会長から話を通して、伯爵様には協力していただいた、と言った感じです」
「面倒ですね」
率直な感想を口にした。
「……はい。面倒なことです……」
「あちらを立てればこちらが立たず、と言うわけですか」
「上手いことをおっしゃいますね。まさにそのとおりです。両方を立てるいい方法はないものでしょうか?」
レンラさんもバイバナル商会では上のほうでもさらに上がいるってことか。大人の世界は大変よね……。
子供に頼らないでください、何てことは今さら。子供らしからぬことをやっているんだからね。
「急ぎですか?」
「今日中に決めていただけるとこちらも早めに動けます」
無茶なこと言ってくるわね。
「ロンドカ村に鍛冶工房ってあります? 鉄を打つのが優秀な方がいれば最高です」
「すぐに用意させます」
そういうところは早いよね。工房の職人さんには申し訳ないけど。
「ガラス職人も用意できます?」
窓ガラスがあるくらいだからいるはずだ。
「用意させます」
「あと、ルクゼック商会の全面的協力をいただければ」
「もちろん、全面的協力させます」
これでマレイスカ様や伯爵様を動かせないんだから人間社会は大変よね……。
「じゃあ、マレイスカ様に相談してみます。お城はお二方を招き入れる準備はできているんですよね?」
「必要とあれば民宿の者を送ります」
完全にわたしなら何とかすると思っての行動のようだ。わたし、そこまでじゃないのになぁ~。
「わかりました。マレイスカ様に話して来ます」
マラッカ場に向かった。
「マレイスカ様。その棒、クラブのことで少しお話しがしたいのですが、よろしいでしょうか?」
打ちっぱなしをしているマレイスカ様に話し掛けた。
「どうした?」
「はい。クラブの打つところ金属にしたいと思いまして、ロンドカ村の鍛冶工房に行こうと思いまして。お城に協力を求めたら快く引き受けてくださったので奥様と一緒に行ってみませんか? 奥様にもガラスで作った筆を見てみたいのです」
「金属にする?」
「はい。玉もよくなりましたが、木だと飛ばすのに限界があります。より遠くに飛ばすなら金属にしたほうがいいかと思いました」
金属にするのはもっと先にしたかったんだけど、伯爵様を立てるには今使うしかないわ。
「……なるほど。金属か……」
「はい。興味があるなら準備を進めますが、如何なさいますか?」
断られたらそれにて終了。また別の方法を考えるとしましょう。何も案はないけどさ。
「……そうだな。コンミンド伯爵にも挨拶をしたいと思っていたところだ。世話になるとしよう」
なんだ。それなら正攻法で行くんだったよ。手札を無駄に一枚切っちゃったじゃない。
「わかりました。こちらで進めておきます。あ、もし、どんな形にしたいか案があれば考えておいてください。使えるかどうか試したいので」
「わたしが考えるか。うむ。やってみよう」
乗り気でなによりだわ。