何とか予定したとおりには作れたような気がする。

「雪が降らないといいんだけどな~」

 今が冬だってのを忘れて働いてたけど、雪が降っても不思議じゃない季節だったよ。

「マレイスカ様。寒いから民宿で待っててもらってもよろしいのですよ」

 朝起きてマラッカ場に来たらもうマレイスカ様たちが来ていたのよね。遠足前の子供か! わたしは遠足行ったことないけど。

「いや、わたしにもやらせてくれ。楽しみにしていたんだ」
 
 子供か。仕方がないな~。

「それでどうするんだ?」

「山側に穴入れを楽しむ場で谷側で打ちっ放しを行います」

 パターコースは三つ。バンカーコースが一つ。打ちっ放し場には距離がわかるように旗を立てているわ。

 そこまで細かな説明はいらないので、一つ一つコースを回ってみた。

「なかなかいいではないか。屋敷にも欲しいな」

「管理が大変なので、網を張って打つといいかもしれませんね。玉が遠くに飛んで行くこともありませんから。あ、そろそろ戻りますか。朝食の時間を過ぎてますし」

 もう九時前にはなっているはず。レンラさんも困っているでしょうよ。

「うむ。確かに腹が空いたな。戻るとしよう」

 ロックダル様に視線を飛ばしてあとはお願いしますと頷いた。

 マレイスカ様が民宿に上がって行ったら人足頭さんたちを集めて朝食とした。

「ありがとうございました。バイバナル商会によく働いてくれたと報告しておきますね。十人だけ残して山を下りてください」

「そうか。いい仕事は、あっと言う間に過ぎてしまうな」

「そのことなんですが、またお願いするかもしれません。バイバナル商会と相談してからになりますけど」

「それは楽しみだ。こんな美味い仕事はなかなかないからな」

「そうなんですか? 外で眠ってもらったのに?」

 この真冬に天幕一つで眠ってもらった。なかなかブラックな仕事だったと思うんだけどな~。

「寒さが吹き飛ばすほどの美味いものが食えるんだ。それだけでいい仕事だと言えるよ」

「しかも、夜は酒まで出してくれるんだから最高さ」

「そうそう。仕事も暗くなったら終わりだもな」

 わたしが考えるよりこの時代の労働は大変なようだわ。

「帰る人にはわたしからも少し出させてもらいますね。またお願いしたいので付け届けです」

「いいのか? こっちとしてはありがたい限りだから」

「大丈夫ですよ。そんなにたくさん出せるわけじゃないんですから。お酒代くらいですよ」

 一晩の飲み代がいくらかわかんないけど、大銅貨一枚あれば充分でしょう。

「昼までに用意しますね」

 朝食を終えたらわたしも民宿に向かい、レンラさんと打ち合わせをする。

「ロコルさんはどうしてます?」

 一応、マレイスカ様の寸法を測ってもらい、あとは完全に丸投げなのよね。

「部屋に籠っていますよ」

「そうですか。朝食が終わったらマレイスカ様をお願いします。わたしはロコルさんの様子を見ますんで」

「わかりました」

 そうお願いして一旦家に戻ってティナに付け届けを用意して人足さんたちに渡すようお願いした。

「マリカル。奥様はどう?」

「執筆に勤しんでいるわよ。たまに散歩に出ているみたい」

「休みに来たのにね」

 ってまあ、唆したわたしが言っていいことじゃないけど。

「マリカル。奥様が大丈夫なら娯楽宿屋に今回のことを伝えてくれない。わかることでいいから」

 ドジっ子ではあるけど、頭はいいマリカル。上手く伝えてくれるでしょうよ。

「わたしも行く。久しぶりにあっちの料理を食べたいから」

 ルルは相変わらずね。食っちゃ寝の猫なんだから。

「キャロは大丈夫?」

「大丈夫だよ。そんなに疲れてないから」

 ちゃんと夜は暖かい部屋で、柔らかいベッドで寝ている。疲れはしっかり取れているわ。

「じゃあ、あとはよろしくね」

 家を出たらロコルさんがいる部屋に向かった。

 マレイスカ様たちのために民宿は貸し切りなので、一室をロコルさんに貸し、作業部屋として使ってもらっている。

 ノックをして中に入る。職人さんは集中すると周りの音が耳に入らないからね、遠慮なんてしてらんないのよ。

「ロコルさん。進捗はどうですか?」

「あまりよくないわ。寒くなく動きやすく。素材を代えてやっているけど、なかなか上手く行かないのよ」

「完全に寒さを遮断しなくてもいいですよ。汗が逃げないのも体を悪くしますからね。そこは火を焚いて体を暖めたらいいですからね」

 あとは蒸留酒、ブランデーが出来たら中からも暖められる。体にいいかまでは知らないけど。

「まずは一着作って、マレイスカ様に具合を見てもらいましょう。マレイスカ様は、ちゃんと理を知った方です。理由があれば納得して答えてくれますよ」

 大貴族ってことで気負っているようだけど、マラッカウェアが出来ないことが一番ダメなことだわ。

「だ、大丈夫かしら?」

「ロコルさんの腕なら問題ありませんよ。落ち着いて、普段どおりの仕事をしてください。それでいい服が出来るんですからね」

 大貴族の仕事をたくさんして、たくさん経験を積んでください。たぶん、たくさんの注文を受けるようになると思いますんで。