ルクゼック商会をあとにしてバイバナル商会に行くと、馬車が何台も出て行った。

「物資かな?」

 あの量となるとゴブリンも大量に現れたっぽいわね。大丈夫なんだろうか?

 非力なわたしにはどうすることも出来ない。ただ、無事討伐されることを願うしかない。どうか無事に帰って来てください。

「……そう言えば、宗教の話、全然聞いたことないわね……?」

 パルセカ村でもロンドカ村でも教会っぽい建物を見たことないわ。神様とかいない世界なの? まあ、生まれてこのかた祈ったこともないし、いなけりゃいないで不都合はないか。

「キャロルさん」

 出て行く馬車を見送っていたらマルケルさんに声を掛けられた。

「あ、こんにちは。忙しそうですね」

「はい。王都から騎士団も来てくれたので伯爵様からその物資をお願いされたんですよ」

「マレイスカ様が来ているからですか?」

「相変わらず事の本質を見極めるのに長けてますね」

 やっぱりそうなんだ。マレイスカ様、わたしが考えるより地位が高い人なのかもしれないわね。

「そのマレイスカ様のことで相談があるのですがよろしいですか?」

「嫌とは言えない案件で?」

「そこまで深刻なことではないですが、まあ、マレイスカ様を守れ、喜ばすることが出来、結果、バイバナル商会の利益にはなるんじゃないですかね?」

 たぶん、だけどね。

「それはもう嫌とは言えない案件ですね」

「そこまで深刻になることもないかと。ダメなときの場合を考えてルクゼック商会にロコルさんを借りるお願いをしてきましまから」

 ゴルフウェアやゴルフバッグを作ってあげるだけで喜ばれるでしょうよ。

「ハァー。深刻になる案件です。わたしどもは何をしたらよいのですか?」

 何だかわたしが無理難題言ってるような? ダメならダメで断ってくれても構わないのに。

「人足さんを三十人から四十人。可能なら五十人は用意してくれませんか? ちょっと作りたいものがあるので」

「五十人ですか。それは大事ですね」

「数がいるならゴブリンも進んで集まって来ることもないでしょう。仮に集まったとしてもマレイスカ様たちを逃す時間稼ぎは出来ます」

 護衛騎士のロックダル様と配下の騎士様が三人いる。ティナやルルもいるんだからロンドカ村のお城まで逃がすことが出来るわ。

「人足に何をさせるので?」

「なだらかな山を整備してマラッカ場を作ります」

「マラッカ、ですか?」

 手頃な棒を借り、ライカの実(松ぼっくり)を出して打ってみせた。

「こんな感じの遊戯ですね。マレイスカ様が気に入ってしまったので、その場を作ろうかと思いまして。高位貴族のマレイスカ様が気に入ったのなら他のお貴族様もやるようになるでしょう。道具、服、場所、宿泊所、食事、お酒、お風呂と一大収容施設が必要となります。最初はたくさんお金は掛かりますが、民宿が儲けているなら損はしないと思いますよ」

「…………」

 どうイメージしていいかわからず沈黙してしまうマルケルさん。説明がダメだったかな?

「絵にしてみますか?」

 視覚的のほうがイメージ出来るでしょうよ。

「お願いします」

 紙を用意してもらい、一大収容施設を描いてみた。

「わかりやすくしているだけで、こうしろってわけじゃないですからね。土地が違えば配置も変わってきますからね」

 上下水道があるわけでも電気があるわけでもない。この時代に合わせるとなるといろいろ違ってくるでしょうからね。

「まずは民宿周辺をちょっと変えるくらいですね」

 なだらかな斜面のところをマラッカ場とする。この辺は太い木もない。たぶん、薪用にするために伐ったんでしょうね。それとも畑にしようとしたのかな?

 頭をフル回転させているんでしょう。マルケルさんの額に汗が浮かんでいるわ。ハゲなきゃいいけど。

 わたしのことなど見えなくなったようなのでお茶の用意でもする。あ、クッキーでも出してあげますか。

「マルケルさん、いますか?」

 お茶を飲みながらマルケルさんが復活するのを待っていると、ルーグさんがやって来た。

「また無理難題ですか?」

「わたし、無理難題なんて言ったことないですよ」

 失礼な。出来ないなら出来ないで構わないことしか言ってないわ。やると決めたのはバイバナル商会側よ。

「冗談ですよ。次は何をしようとしているんです?」

 マルケルさんにした説明をルーグさんにもした。

「それはまた大仕事ですね」

「やれないのなら別の商会に回せばいいのでは? 誰もやったことがないもの。苦労も失敗も大きい商会でやってもらうのも手ですよ」

 別に二番煎じが悪いってんならこの世は一つしか商売が出来ない。特許がある世界でもないんだしね。誰かがやったあとで上手くやればいいだけだわ。

「みすみす儲けられる商売を捨てれる商人はいませんよ。キャロルさんがやることに失敗はなく、しっかりと利益を出してますからね」

「わたしも失敗することもありますよ」

「キャロルさんは、失敗するくらいならやらないでしょう。勝算があるから動いていました」

 周りからはそう見えたんだ。別に勝算とか失敗とか考えてなかったんだけどな~。