これまで運動してこなかったから、次の日、マレイスカ様が筋肉痛に襲われた。
「まさかこの歳で筋肉痛を経験するとはな」
この世界に湿布がないので側仕えの方に脚を揉んでもらっていた。
「お風呂で温まるといいですよ」
貴族だからって毎日お風呂に入る人はいないようで、マレイスカ様も体を拭いただけでお風呂に入らなかったそうだ。
「そうか。なら、入るとするか」
なぜかわたしが呼ばれたけど、お風呂に入るのは側仕えの方がやってくれるので、家に戻ろうとしたら奥様に声を掛けられてしまった。
奥様はミリヤナ様と言い、穏やかな感じの人で、いい感じに歳を取った人でもあった。
「少しお話しましょうか」
否とも言えるわけもないので、民宿のサロンに移り、わたしが淹れたお茶を飲みながら話をすることにした。
「ごめんなさいね。主人に言われて来たものの時間をどう使っていいかわからなくて」
言われてみれば確かに、って感じよね。こんな知り合いもいない山奥に連れて来られても何するんだって話だ。
「お気になさらず。ここは日頃の疲れを癒す場所。のんびりするところですからね。満足した日々を送っている方には暇な場所でしょうから」
「いい場所なのはわかるんだけど、何をしていいかわからないのよね」
「奥様、趣味はおありですか?」
コンミンド伯爵夫人は……趣味らしい趣味をやっているところは見なかったわね。わたしたちはお嬢様のお友達で、ご夫妻を見るなんて一日一回あるかないかだったしね。
「趣味、ね~。これと言ってないわね。強いて言うなら読書かしらね?」
貴族の女性って暇を持て余しているのね。ボケるの早いんじゃない?
「読書ですか。それはいいですね。お嬢様のお友達として本を読ませてもらいましたが、なかなか難しくて苦労しました。奥様はどんな本を読むのですか?」
「恋愛小説をよく読んでいたわ。王都は本屋がたくさんあるから毎日読めたわ」
この時代で恋愛小説とかあるんだ。しかも本屋がたくさんあるとか印刷技術があるってこと? いや、転生者がいるっぽいし、印刷技術が発展してても不思議じゃないか。
奥様は、読書が好きなみたいだけど、しゃべるのも好きなようで止まることがない。まるでこれまでのうっぷんを晴らすかのようだった。
いろいろしゃべると奥様がどんな人か、貴族の暮らしがどんなものかわかってきた。
奥様には女二人、男一人のお子様がいて、長女と長男は結婚しており、次女は騎士をしているそうだ。
女騎士か。ファンタジーな世界なだけに女性でも騎士になれるんだね。どんなか見てみたいものだわ。
長男はマレイスカ様の後を継いで政務大臣としてお城で働いていて、長女は公爵家に嫁いだそうだ。
その話を聞くだけでマレイスカ様がどれだけ偉い人かわかるものだ。けど、そんな偉い人でも老後はやることがないってのも悲しいものね。無駄にお金があるとやりたいことも見つからないとか、何が幸せかわからなくなるわね……。
お昼までおしゃべりは続き、なぜかお昼も一緒に食べることに。なんだか奥様に気に入られてしまったようだわ。
「マレイスカ様。筋肉痛はどうですか?」
「ああ。少しは楽になったよ」
「それは何よりです。今日は無理しないでくださいね。無理しても体に悪いですから」
「それは残念だ。今日は玉を飛ばしたかったんだがな」
「それなら部屋で出来るものを用意しますか?」
職人さんなら三十分もしないで作ってくれるでしょうよ。
「そんなことが出来るのか?」
「はい。昼食が終われば用意しますね」
まだ食べている最中なので終わったら職人さんたちのところに向かった。
絨毯を細く切り、坂を作って穴を開ける。ハイ、完成っと。
職人さんに設置してもらってマレイスカ様に試してもらう。
「うん。いいではないか」
「変化が欲しいときは絨毯の下に紙を入れるとよろしいかと」
聞いちゃいないようなので側仕えの方に言っておく。
「キャロルは本当に賢いのね」
「畏れ入ります」
貴族相手には「畏れ入ります」が一番。下手に謙虚になるのも失礼になるときがあるからね。
「そうだ。わたしにジェドを教えてくれないかしら? 女性でも始める方が多くてどうしようかと思っていたの」
一大ブームが来ているのかしら? 貴族、やることないの?
「はい。わかりました」
マーシャさんに用意してもらい、駒の並べ方から教えた。
元々頭のいい人で、頭を使うのが得意なんでしょう。
「奥様は、文化系のことに才能があるみたいですね」
「文化系?」
「読書だったり遊戯だったりです。これなら絵や文章をやってもいいかもしれませんね。物語を書いて本にするのもいい余暇を過ごせると思います」
「……物語を書く……」
「はい。奥様は知識も多く、造詣も深い。物語もたくさん読んでいるみたいですし、書いてみてもおもしろいと思いますよ」
ついでに読み終わった本を貸していただけたら幸いです。
「……そう、ね。ちょっと書いてみようかしら……」
「書いたら読ませてください。奥様がどんなものを書くか興味があります」
気持ちがそちらに傾いているようなのでもう一押ししておく。何だかこのままだとご夫妻がいる間、ずっと相手しなくちゃならない感じだからね。
「まさかこの歳で筋肉痛を経験するとはな」
この世界に湿布がないので側仕えの方に脚を揉んでもらっていた。
「お風呂で温まるといいですよ」
貴族だからって毎日お風呂に入る人はいないようで、マレイスカ様も体を拭いただけでお風呂に入らなかったそうだ。
「そうか。なら、入るとするか」
なぜかわたしが呼ばれたけど、お風呂に入るのは側仕えの方がやってくれるので、家に戻ろうとしたら奥様に声を掛けられてしまった。
奥様はミリヤナ様と言い、穏やかな感じの人で、いい感じに歳を取った人でもあった。
「少しお話しましょうか」
否とも言えるわけもないので、民宿のサロンに移り、わたしが淹れたお茶を飲みながら話をすることにした。
「ごめんなさいね。主人に言われて来たものの時間をどう使っていいかわからなくて」
言われてみれば確かに、って感じよね。こんな知り合いもいない山奥に連れて来られても何するんだって話だ。
「お気になさらず。ここは日頃の疲れを癒す場所。のんびりするところですからね。満足した日々を送っている方には暇な場所でしょうから」
「いい場所なのはわかるんだけど、何をしていいかわからないのよね」
「奥様、趣味はおありですか?」
コンミンド伯爵夫人は……趣味らしい趣味をやっているところは見なかったわね。わたしたちはお嬢様のお友達で、ご夫妻を見るなんて一日一回あるかないかだったしね。
「趣味、ね~。これと言ってないわね。強いて言うなら読書かしらね?」
貴族の女性って暇を持て余しているのね。ボケるの早いんじゃない?
「読書ですか。それはいいですね。お嬢様のお友達として本を読ませてもらいましたが、なかなか難しくて苦労しました。奥様はどんな本を読むのですか?」
「恋愛小説をよく読んでいたわ。王都は本屋がたくさんあるから毎日読めたわ」
この時代で恋愛小説とかあるんだ。しかも本屋がたくさんあるとか印刷技術があるってこと? いや、転生者がいるっぽいし、印刷技術が発展してても不思議じゃないか。
奥様は、読書が好きなみたいだけど、しゃべるのも好きなようで止まることがない。まるでこれまでのうっぷんを晴らすかのようだった。
いろいろしゃべると奥様がどんな人か、貴族の暮らしがどんなものかわかってきた。
奥様には女二人、男一人のお子様がいて、長女と長男は結婚しており、次女は騎士をしているそうだ。
女騎士か。ファンタジーな世界なだけに女性でも騎士になれるんだね。どんなか見てみたいものだわ。
長男はマレイスカ様の後を継いで政務大臣としてお城で働いていて、長女は公爵家に嫁いだそうだ。
その話を聞くだけでマレイスカ様がどれだけ偉い人かわかるものだ。けど、そんな偉い人でも老後はやることがないってのも悲しいものね。無駄にお金があるとやりたいことも見つからないとか、何が幸せかわからなくなるわね……。
お昼までおしゃべりは続き、なぜかお昼も一緒に食べることに。なんだか奥様に気に入られてしまったようだわ。
「マレイスカ様。筋肉痛はどうですか?」
「ああ。少しは楽になったよ」
「それは何よりです。今日は無理しないでくださいね。無理しても体に悪いですから」
「それは残念だ。今日は玉を飛ばしたかったんだがな」
「それなら部屋で出来るものを用意しますか?」
職人さんなら三十分もしないで作ってくれるでしょうよ。
「そんなことが出来るのか?」
「はい。昼食が終われば用意しますね」
まだ食べている最中なので終わったら職人さんたちのところに向かった。
絨毯を細く切り、坂を作って穴を開ける。ハイ、完成っと。
職人さんに設置してもらってマレイスカ様に試してもらう。
「うん。いいではないか」
「変化が欲しいときは絨毯の下に紙を入れるとよろしいかと」
聞いちゃいないようなので側仕えの方に言っておく。
「キャロルは本当に賢いのね」
「畏れ入ります」
貴族相手には「畏れ入ります」が一番。下手に謙虚になるのも失礼になるときがあるからね。
「そうだ。わたしにジェドを教えてくれないかしら? 女性でも始める方が多くてどうしようかと思っていたの」
一大ブームが来ているのかしら? 貴族、やることないの?
「はい。わかりました」
マーシャさんに用意してもらい、駒の並べ方から教えた。
元々頭のいい人で、頭を使うのが得意なんでしょう。
「奥様は、文化系のことに才能があるみたいですね」
「文化系?」
「読書だったり遊戯だったりです。これなら絵や文章をやってもいいかもしれませんね。物語を書いて本にするのもいい余暇を過ごせると思います」
「……物語を書く……」
「はい。奥様は知識も多く、造詣も深い。物語もたくさん読んでいるみたいですし、書いてみてもおもしろいと思いますよ」
ついでに読み終わった本を貸していただけたら幸いです。
「……そう、ね。ちょっと書いてみようかしら……」
「書いたら読ませてください。奥様がどんなものを書くか興味があります」
気持ちがそちらに傾いているようなのでもう一押ししておく。何だかこのままだとご夫妻がいる間、ずっと相手しなくちゃならない感じだからね。