マレイスカ様はすっかりマラッカに魅了されてしまった。

「うーん。一人でやるのもつまらんな」

 もうその言葉が出てしまったか。まさかその日に出るとは思わなかったわ。

「では、競いますか?」

 ロックダル様にやれと言っても無理だろうし、マラッカをやれるのはわたしだけ。自然とわたしにお鉢が回ってくることが目に見えてたわ。

「ほう。競いか。どうするのだ?」

「ロックダル様に玉を適当に置いてもらい、先に入れたほうが勝ちです」

「なるほど。それはよいな」

「市井の者ならお金を賭けるのでしょうが、さすがにそれも出来ないので純粋に──」

「賭けか。それはおもしろいな。わたしはやったことないが、一度やってみたかったなだ」

 あ、いや、やらなければそれにこしたことはないのでは……。

「ロックダル。金は持っているか?」

「え、あ、はい。少額ではありますが」

「よし。お前はどちらに勝つか賭けろ。勝ったほうに賭け金が渡る。それでよいだろう」

 それだとロックダル様が損するだけでは?

「わかりました。それでは、キャロル嬢の腕を見せてもらいましょう。でないと賭けれませんからね」

 あれ? もしかして賭け事が好きな方でした? 

「わかりました。玉を適当な場所に置いてください」

 パターはやったことないけど、まあ、そう難しくないでしょう。あれ? 意外と難しいわね。一発で入ると思ったのに。

 それでも二回で入れられた。ふー。

「なかなか上手いではないか」

「一回で入れるつもりだったんですけどね。見誤りました」

「ふふ。難しいだろう」

 何でドヤるんだ? あなたも今日始めたばかりなのに。

「キャロル嬢の腕もなかなかですな。これは、玉の置いた場所で勝負が決まりますな」

「それならこの箒で地面を変換させてください。少しの凹凸で軌道はズレますからね」

「なるほど。それは勝負に変化を与えられるな。マレイスカ様、よろしいでしょうか?」

「構わんぞ」

 マレイスカ様もノリノリだわ。

「キャロル。手加減は無用だぞ」

「畏まりました。本気で挑ませてもらいます」

 本気だからこそおもしろいと感じる人なんでしょう。てか、パターで本気出せとかどうすりゃいいのよ?

 まあ、やるからには真面目に勝つようにやるとしましょうか。

「まずは玉をここに置きます。次は先攻後攻を決めましょうか」

 どうやらこの世界にもコイントスがあるようだ。

「キャロル嬢から決めてくだい」

「裏でお願いします」

 コインを投げて表が出た。ってことで先攻はマレイスカ様か。

「一回目はマレイスカ様に賭けさせてもらいます。では、勝負開始」

 マレイスカ様は本気のようで玉筋? 道筋? を読んで玉を打った。

 残念ながら穴をカスってしまい入ることはなかった。

「クッ。外れたか」

 悔しがっていても二回で穴に入れた。

「次はキャロル嬢だ」

 玉を違う場所に置いてわたしも道筋(こっちにします)を読んだ。

 歩いたことにより小さな凹凸が生まれているけど、強く打てば問題はない。ほらよっと。

「よし」

 一発ホールイン。あ、ホールインって言うんだったわ。案外、覚えているものね。

「キャロル嬢の勝利。賭け金はドロック」

 ドロック? 引き分けとかドローって意味か? それとも流れたって意味か? 

「ドロックってどういう意味ですか?」

「勝負無効って意味だ。この場合は、キャロル嬢には入らないが、胴元に取られることになる。まあ、今回は次に足すようにしよう」

 本当に賭け事が好きなようだ。でも、ロックダル様には何の得にもならないのでは?

「ロックダルは無類の賭け好きでな。これがなければ騎士として出世したんだがな」

「借金で身を滅ぼしてないのが自慢です」

 何だろう。この人、絶対結婚してないわ。

「それでは平等ではないのでわたしも銅貨を出します。ロックダル様も参加してください。護衛はティナにやらせますので」

 これではわたしが得でしかない。勝負と言うならわたしもリスクを負わないと。

「マレイスカ様やロックダル様には少額で申し訳ありませんが、大金を賭けるほどでもありません。大金を賭けるときは大金を持っている方々とやってください」

「そうだな。勝負ではあるが、お遊びだ。少額で構わんだろう」

「わたしも構いません。賭けは儲けるより勝負を楽しむものですから」

 借金しないのはそんな考えがあるからみたいね。

「では、ティナを呼んで参ります。ロックダル様、練習しててください」

「子供でも容赦はせんぞ」

「それが勝負です」

 にっこり笑って答える。勝負は本気でやるのが楽しいってわかるからね。

 ティナを呼びに行き、マリカルにレンラさんを呼んで来るようにお願いする。レンラさんにも見せておきたいからね。あ、あと、側仕えの方も。

 ティナを連れて戻ったら勝負開始。それぞれが相手の玉を地面に置き、勝負毎に地面を箒で履いた。

 しばらくしてレンラさんや側仕えの方がやって来て、ティナから説明を聞いていた。

 勝負は夕方まで続き、わたしが六回。マレイスカ様は四回。ロックダル様は八回勝利した。

「うむ。楽しかった。次は勝つぞ」

 一番勝てなかったマレイスカ様だけど、一番楽しんでいたのはマレイスカ様だった。

「マレイスカ様。汗を。すぐに風呂を用意します」

「頼む。喉も乾いた。冷えた麦酒を用意してくれ。では、また明日だ」

 ふー。また明日もやるのか。心の中でため息をつきながらマレイスカ様を見送った。