マレイスカ様は六十過ぎの白髪のおじいちゃんだった。
第一印象は柔和なおじいちゃん。けど、目が鋭さが一瞬で印象を変えさせた。この人、バケモノだ……。
「この子がウワサの神童か」
神童? わたしが? なんじゃそりゃ?
「はい。本人は至って普通の子供だと思っておりますが」
とはレンラさん。レンラさんもわたしのこと神童とか思ってたの!?
「なるほど。そのようだな」
どうやら顔に出たようだ。マレイスカ様が可笑しそうに表情を緩めていた。
身分の高い人がいるので反論はせず、やり取りはすべてレンラさんに任せている。
「サーシャ嬢の異才はこの子が原因か」
「正しくは、キャロルさんに感化された、でしょう。キャロルさんは、人と考えることが一段、いえ、二段くらい違っておりますから」
レンラさん、貴族と話すの慣れてない? 昔、貴族でも相手してたのかしら? マレイスカ様も自然に相手してるし。
「それにしては場を弁えておるな」
「見極めているのです。キャロルさんは、観察眼もありますから」
ヤダ。わたしのこと理解しすぎです。
「ふふ。それは下手なことを言えんな」
「キャロルさんは、それも考慮しております。しゃべらないことが雄弁に語っていると言われたことがありますから」
え? わたし、そんなこと言ったっけ? まったく記憶にないんですけど。
「ほー。それは恐ろしいな」
「はい。キャロルさんにはウソはつけません」
別に必要ならウソをついてもいいとわたしは思いますよ。正直がいいってこともないんだしさ。
「今さらだが、わたしはマレイスカ・ルズ・ロクラックだ。隠居した身だ。そう畏まらなくともよいぞ」
漫画で読んだ。無礼講と言いつつ無礼にしたら怒られるヤツだ。
「キャロルと申します。よろしくお願い致します」
上位に対する礼を忘れず名を告げた。
「では、案内を頼む」
どうすんじゃ、これ? とは思ったけど、とりあえず外に出ることにした。
「マレイスカ様は、日頃から歩いておりますか?」
「いや、内務が多かったので碌に運動はしておらんよ」
痩せてはいるけど、そこまで病的な細さではない。でも、何か姿勢が悪いな。
「少し失礼します」
地面に足で一本線を五メートルくらい描いた。
「マレイスカ様。この線を目を閉じて歩いてもらえますか?」
「これは?」
「体幹を見るものです」
「たいかん?」
「年齢による衰えや姿勢が悪かったりすると、体の感覚や筋肉が劣るんです」
カカシ立ちしてみせた。
「マレイスカ様、これで立っていられますか?」
「ど、どうだろうな?」
そう言ってやってみると、二秒も姿勢を保っていられなかった。
「やっぱり体幹が弱っていますね。悪くなると体の臓器も衰えてくるので無理しない程度に体を動かすのがよろしいかと」
一本線を目を閉じて歩いてみたけど、やはり一メートルとしてまっすぐ歩けなかった。
「……これほどだとは……」
「これから運動をすれば問題ないかと思います」
この時代で五十歳を越えるのは大変だけど、貴族ならいいものを食べ、医療も受けられるはず。あとは運動すれば長生きは出来るでしょうよ。
「そ、そうか。これから運動するとしよう」
「では、歩きながら敷地内を案内します」
ロックダル様を案内した道順でマレイスカ様を案内して行った。
「山の中もいいものだな」
「王都に緑はないのですか?」
まったく相手しないのも失礼なので軽い質問をしてみた。
「多少はあるが、これぼと緑の臭いが充満するところは初めてだ」
都会暮らしだったのか。それでいきなり田舎に来るってのも極端よね。何かあったのかしら?
「ここは?」
「わたしの訓練場です。わたし、体も小さく体力もないのでここで鍛えているんです」
作業場ではないのであしからず。
「ん? これは?」
道具を入れていた作り掛けのゴルフクラブを発見したマレイスカ様が不思議そうに手に取った。
「玉飛ばしの道具です」
松ぼっくりを置いて、ゴルフクラブで打ってみせた。
「おー」
ナイスショットにマレイスカ様が感嘆の声を上げた。
「おもしろそうだな。やらせてくれ」
やっぱり男の人にはおもしろいものに見えるんだ。世のおじさんがゴルフに夢中になるのもこんな理由からなんだろうか?
松ぼっくりを置き、もう一度手本を見せた。
「うーん。上手く飛ばんな」
「マレイスカ様の利き手はどちらですか?」
「左だ」
だからか。わたしは右手だから左手の人が使ったら上手くもいかないか。握り方も違ってくるよ。
急いで左手用のを削り、握り方を変えさせた──ら、上手く飛んでくれた。
「おもしろい!」
ただ、松ぼっくりを打って飛ばしているだけなんだけどね。
「もうお仕舞いか?」
さすがに何十個も集めてないのであっと言う間になくなってしまった。
「申し訳ありません。明日までに松ぼっくりを集めておきます」
「そうか。これ、借りてよいか? 朝食後に練習したい」
「はい。もっとよいものも用意しておきます」
急造のゴルフクラブだしね。もうちょっとマシなものを作るとしましょう。
「これに名前はあるのか?」
「特にありません。よろしかったらマレイスカ様が名付けてください」
ゴルフと言っても意味は? とか問われても答えられないしね。名付けてもらったほうが他から文句も言われないでしょう。
「わたしが名付けるのか。よし。マラッカと名付けよう。マレイスカは空と言う意味がある。ライカの実を合わせてマラッカだ」
あ、この松ぼっくり、ライカっていうんだ。知らんかったわ。
第一印象は柔和なおじいちゃん。けど、目が鋭さが一瞬で印象を変えさせた。この人、バケモノだ……。
「この子がウワサの神童か」
神童? わたしが? なんじゃそりゃ?
「はい。本人は至って普通の子供だと思っておりますが」
とはレンラさん。レンラさんもわたしのこと神童とか思ってたの!?
「なるほど。そのようだな」
どうやら顔に出たようだ。マレイスカ様が可笑しそうに表情を緩めていた。
身分の高い人がいるので反論はせず、やり取りはすべてレンラさんに任せている。
「サーシャ嬢の異才はこの子が原因か」
「正しくは、キャロルさんに感化された、でしょう。キャロルさんは、人と考えることが一段、いえ、二段くらい違っておりますから」
レンラさん、貴族と話すの慣れてない? 昔、貴族でも相手してたのかしら? マレイスカ様も自然に相手してるし。
「それにしては場を弁えておるな」
「見極めているのです。キャロルさんは、観察眼もありますから」
ヤダ。わたしのこと理解しすぎです。
「ふふ。それは下手なことを言えんな」
「キャロルさんは、それも考慮しております。しゃべらないことが雄弁に語っていると言われたことがありますから」
え? わたし、そんなこと言ったっけ? まったく記憶にないんですけど。
「ほー。それは恐ろしいな」
「はい。キャロルさんにはウソはつけません」
別に必要ならウソをついてもいいとわたしは思いますよ。正直がいいってこともないんだしさ。
「今さらだが、わたしはマレイスカ・ルズ・ロクラックだ。隠居した身だ。そう畏まらなくともよいぞ」
漫画で読んだ。無礼講と言いつつ無礼にしたら怒られるヤツだ。
「キャロルと申します。よろしくお願い致します」
上位に対する礼を忘れず名を告げた。
「では、案内を頼む」
どうすんじゃ、これ? とは思ったけど、とりあえず外に出ることにした。
「マレイスカ様は、日頃から歩いておりますか?」
「いや、内務が多かったので碌に運動はしておらんよ」
痩せてはいるけど、そこまで病的な細さではない。でも、何か姿勢が悪いな。
「少し失礼します」
地面に足で一本線を五メートルくらい描いた。
「マレイスカ様。この線を目を閉じて歩いてもらえますか?」
「これは?」
「体幹を見るものです」
「たいかん?」
「年齢による衰えや姿勢が悪かったりすると、体の感覚や筋肉が劣るんです」
カカシ立ちしてみせた。
「マレイスカ様、これで立っていられますか?」
「ど、どうだろうな?」
そう言ってやってみると、二秒も姿勢を保っていられなかった。
「やっぱり体幹が弱っていますね。悪くなると体の臓器も衰えてくるので無理しない程度に体を動かすのがよろしいかと」
一本線を目を閉じて歩いてみたけど、やはり一メートルとしてまっすぐ歩けなかった。
「……これほどだとは……」
「これから運動をすれば問題ないかと思います」
この時代で五十歳を越えるのは大変だけど、貴族ならいいものを食べ、医療も受けられるはず。あとは運動すれば長生きは出来るでしょうよ。
「そ、そうか。これから運動するとしよう」
「では、歩きながら敷地内を案内します」
ロックダル様を案内した道順でマレイスカ様を案内して行った。
「山の中もいいものだな」
「王都に緑はないのですか?」
まったく相手しないのも失礼なので軽い質問をしてみた。
「多少はあるが、これぼと緑の臭いが充満するところは初めてだ」
都会暮らしだったのか。それでいきなり田舎に来るってのも極端よね。何かあったのかしら?
「ここは?」
「わたしの訓練場です。わたし、体も小さく体力もないのでここで鍛えているんです」
作業場ではないのであしからず。
「ん? これは?」
道具を入れていた作り掛けのゴルフクラブを発見したマレイスカ様が不思議そうに手に取った。
「玉飛ばしの道具です」
松ぼっくりを置いて、ゴルフクラブで打ってみせた。
「おー」
ナイスショットにマレイスカ様が感嘆の声を上げた。
「おもしろそうだな。やらせてくれ」
やっぱり男の人にはおもしろいものに見えるんだ。世のおじさんがゴルフに夢中になるのもこんな理由からなんだろうか?
松ぼっくりを置き、もう一度手本を見せた。
「うーん。上手く飛ばんな」
「マレイスカ様の利き手はどちらですか?」
「左だ」
だからか。わたしは右手だから左手の人が使ったら上手くもいかないか。握り方も違ってくるよ。
急いで左手用のを削り、握り方を変えさせた──ら、上手く飛んでくれた。
「おもしろい!」
ただ、松ぼっくりを打って飛ばしているだけなんだけどね。
「もうお仕舞いか?」
さすがに何十個も集めてないのであっと言う間になくなってしまった。
「申し訳ありません。明日までに松ぼっくりを集めておきます」
「そうか。これ、借りてよいか? 朝食後に練習したい」
「はい。もっとよいものも用意しておきます」
急造のゴルフクラブだしね。もうちょっとマシなものを作るとしましょう。
「これに名前はあるのか?」
「特にありません。よろしかったらマレイスカ様が名付けてください」
ゴルフと言っても意味は? とか問われても答えられないしね。名付けてもらったほうが他から文句も言われないでしょう。
「わたしが名付けるのか。よし。マラッカと名付けよう。マレイスカは空と言う意味がある。ライカの実を合わせてマラッカだ」
あ、この松ぼっくり、ライカっていうんだ。知らんかったわ。