ロックダル様の話からやって来たお貴族様は、上位伯爵様らしく、大臣まで登り詰めた人のようだ。
やっと子供にその地位を譲れたとかで、長年の疲れを癒しに夫婦揃ってやって来たそうだ。
……コンミンド伯爵様ってかなり強い伝手を持ってそうだ……。
「君は、かなり賢そうだね。度胸もある」
「そうですか? 無知なだけですよ」
「本当に無知な者は自分を無知など言ったりはしない」
なるほど。言われてみれば確かにそうね。こりゃ一本取られたわ。
「キャロ」
後ろにいたティナがわたしの前に出た。どうしたの?
「森に隠れているのはロックダル様の配下ですか?」
相変わらず気配を感じるのが凄いわよね。何でわかるのかしら? 何か不思議感覚でも搭載されてんのかしらね?
「ハァー。こんな少女に見抜かれるとは困ったものだ」
「ティナは特別だから気にしないでください」
固有魔法とは違う超感覚? 生まれ持った才能と張り合うなんて無駄だと思うわ。ティナはその感覚を愚直に鍛えているからね。勝てる人はそうはいないでしょうよ。
「森に潜むなら注意してくださいね。いろいろ罠を仕掛けてますから」
安心して夜を過ごせるように家の周りには罠を仕掛けた。ルルの結界もあるから無用に近付くと危険である。
「正面から入って来るのなら問題ありません。他の方にもお伝えください」
「罠を解くことは可能か?」
「五日もあれば。解きますか?」
「いや、そのままで構わない。わたしたちは敷地内に集中するとしよう」
「わかりました。森に入るときは声をかけてください。わたしかティナが案内しますので」
森に入る理由が何なのかは知らないけど、わたしかティナがいるなら問題はないわ。
「何と言うか、用意周到だな」
「子供が山で暮らすんです。用意周到にしなければ安心して暮らせませんよ」
「君らはなぜここに住んでいるのだ?」
「将来、冒険者になるための修行のためです。と言っても周りからは冒険者らしい修行をしているようには見えてないようですけどね」
わたしも冒険者になる修行してんの? って思うときはあるけどさ。
「そうか。小さい頃から将来を見据えるのは大切なことだが、無理するなよ。バイバナル商会は君を大切にしているようだからな」
「はい。ご忠告ありがとうございます」
バイバナル商会との繋がりもありそうだし、印象をよくしておかないとね。
ロックダル様とは家の前で別れた。
「ふー。貴族を迎えるって大変ね」
護衛騎士の人であれなら民宿はどうなっているのかしらね? レンラさんやマーシャさんは大変そうよね。お貴族様、それも上位伯爵様だった人を世話しなくちゃならないんだから。
「まあ、わたしたちはいつものとおりに過ごしますか」
何てことが出来るわけもなく、マーシャさんから応援をお願いされてしまった。
「マレイスカ様が民宿の周りを見たいそうなので案内して欲しいの」
「わたしが、ですか?」
ロックダル様には周辺の見取り図を渡してあるし、そう広い敷地でもない。案内なんていらないでしょう。
「ええ。お貴族様の相手を経験しているのはキャロルさんとティナさんしかいませんからね」
何か他の理由もありそうな感じはするけど、嫌だとは断れないのだから引き受けるしかない。
「わかりました。服はどうしますか?」
「そのままで構わないわ。マレイスカ様も堅苦しいことを嫌う方のようだから」
大臣まで登り詰めた人が堅苦しいことを嫌うものなんだ。破天荒な人なんだろうか?
「わたし一人ですか?」
「そうね。まずはキャロルさんでお願いします」
まあ、案内に二人もいらないか。どうせ護衛騎士も付くでしょうからね。
明日の朝、散歩をしたいと言うので、敷地内の掃除でもしておきましょうか。
歩く場所の枝を切ったり石を退けておいたりと、やれることはやっておき、朝を迎えた。
まだ陽が上がらないうちに起き出し、朝食の用意をしたら民宿に向かった。
民宿も民宿で朝が早い。料理人は五時くらいから動き出している。
「おはようございます。何か手伝いますか?」
「こっちは大丈夫だよ。マーシャさんのほうを頼む」
民宿は二十四時間体制なので、マーシャさんは朝を受け持っており、食堂で朝食の用意をしていた。
「おはようございます。側仕えの人はまだ起きてこないんですか?」
レンラさんの話では四人連れて来ているそうだ。
「ご夫婦が起きるちょっと前に起きるわ。民宿のことはわたしたちでやるからね」
確かにそうね。起きても仕事はないか。
食堂は夫婦しか使わないので手伝いすることもなし。掃除は朝食が終わってからなので、時間まで休憩室で待ち、ロックダル様が入って来た。
「おはようございます。何か飲みますか?」
「ああ、紅茶を頼む」
休憩室にはお茶の道具が揃っているので紅茶を淹れてあげた。
「ロックダル様も朝が早いのですね」
「いや、これでもゆっくり起きたほうだ。旅の間は朝も昼も関係なかったからな。少し気が抜けて困っているところだ」
まあ、護衛しなくちゃならないしね。気を抜くことは出来なかったでしょうよ。
「護衛も大変なんですね」
「なに、役得なときもある。今回は特にな。食事も美味く、風呂にも入れる。護衛を引き受けてよかったよ」
まだ一日も過ぎてないのに表情が柔らかくなっている。確かに気が抜けてるっぽいわ。
やっと子供にその地位を譲れたとかで、長年の疲れを癒しに夫婦揃ってやって来たそうだ。
……コンミンド伯爵様ってかなり強い伝手を持ってそうだ……。
「君は、かなり賢そうだね。度胸もある」
「そうですか? 無知なだけですよ」
「本当に無知な者は自分を無知など言ったりはしない」
なるほど。言われてみれば確かにそうね。こりゃ一本取られたわ。
「キャロ」
後ろにいたティナがわたしの前に出た。どうしたの?
「森に隠れているのはロックダル様の配下ですか?」
相変わらず気配を感じるのが凄いわよね。何でわかるのかしら? 何か不思議感覚でも搭載されてんのかしらね?
「ハァー。こんな少女に見抜かれるとは困ったものだ」
「ティナは特別だから気にしないでください」
固有魔法とは違う超感覚? 生まれ持った才能と張り合うなんて無駄だと思うわ。ティナはその感覚を愚直に鍛えているからね。勝てる人はそうはいないでしょうよ。
「森に潜むなら注意してくださいね。いろいろ罠を仕掛けてますから」
安心して夜を過ごせるように家の周りには罠を仕掛けた。ルルの結界もあるから無用に近付くと危険である。
「正面から入って来るのなら問題ありません。他の方にもお伝えください」
「罠を解くことは可能か?」
「五日もあれば。解きますか?」
「いや、そのままで構わない。わたしたちは敷地内に集中するとしよう」
「わかりました。森に入るときは声をかけてください。わたしかティナが案内しますので」
森に入る理由が何なのかは知らないけど、わたしかティナがいるなら問題はないわ。
「何と言うか、用意周到だな」
「子供が山で暮らすんです。用意周到にしなければ安心して暮らせませんよ」
「君らはなぜここに住んでいるのだ?」
「将来、冒険者になるための修行のためです。と言っても周りからは冒険者らしい修行をしているようには見えてないようですけどね」
わたしも冒険者になる修行してんの? って思うときはあるけどさ。
「そうか。小さい頃から将来を見据えるのは大切なことだが、無理するなよ。バイバナル商会は君を大切にしているようだからな」
「はい。ご忠告ありがとうございます」
バイバナル商会との繋がりもありそうだし、印象をよくしておかないとね。
ロックダル様とは家の前で別れた。
「ふー。貴族を迎えるって大変ね」
護衛騎士の人であれなら民宿はどうなっているのかしらね? レンラさんやマーシャさんは大変そうよね。お貴族様、それも上位伯爵様だった人を世話しなくちゃならないんだから。
「まあ、わたしたちはいつものとおりに過ごしますか」
何てことが出来るわけもなく、マーシャさんから応援をお願いされてしまった。
「マレイスカ様が民宿の周りを見たいそうなので案内して欲しいの」
「わたしが、ですか?」
ロックダル様には周辺の見取り図を渡してあるし、そう広い敷地でもない。案内なんていらないでしょう。
「ええ。お貴族様の相手を経験しているのはキャロルさんとティナさんしかいませんからね」
何か他の理由もありそうな感じはするけど、嫌だとは断れないのだから引き受けるしかない。
「わかりました。服はどうしますか?」
「そのままで構わないわ。マレイスカ様も堅苦しいことを嫌う方のようだから」
大臣まで登り詰めた人が堅苦しいことを嫌うものなんだ。破天荒な人なんだろうか?
「わたし一人ですか?」
「そうね。まずはキャロルさんでお願いします」
まあ、案内に二人もいらないか。どうせ護衛騎士も付くでしょうからね。
明日の朝、散歩をしたいと言うので、敷地内の掃除でもしておきましょうか。
歩く場所の枝を切ったり石を退けておいたりと、やれることはやっておき、朝を迎えた。
まだ陽が上がらないうちに起き出し、朝食の用意をしたら民宿に向かった。
民宿も民宿で朝が早い。料理人は五時くらいから動き出している。
「おはようございます。何か手伝いますか?」
「こっちは大丈夫だよ。マーシャさんのほうを頼む」
民宿は二十四時間体制なので、マーシャさんは朝を受け持っており、食堂で朝食の用意をしていた。
「おはようございます。側仕えの人はまだ起きてこないんですか?」
レンラさんの話では四人連れて来ているそうだ。
「ご夫婦が起きるちょっと前に起きるわ。民宿のことはわたしたちでやるからね」
確かにそうね。起きても仕事はないか。
食堂は夫婦しか使わないので手伝いすることもなし。掃除は朝食が終わってからなので、時間まで休憩室で待ち、ロックダル様が入って来た。
「おはようございます。何か飲みますか?」
「ああ、紅茶を頼む」
休憩室にはお茶の道具が揃っているので紅茶を淹れてあげた。
「ロックダル様も朝が早いのですね」
「いや、これでもゆっくり起きたほうだ。旅の間は朝も昼も関係なかったからな。少し気が抜けて困っているところだ」
まあ、護衛しなくちゃならないしね。気を抜くことは出来なかったでしょうよ。
「護衛も大変なんですね」
「なに、役得なときもある。今回は特にな。食事も美味く、風呂にも入れる。護衛を引き受けてよかったよ」
まだ一日も過ぎてないのに表情が柔らかくなっている。確かに気が抜けてるっぽいわ。